WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『女のいない男たち』(著者:村上 春樹)

2014-09-28 16:52:49 | 本と雑誌
女のいない男たち女のいない男たち
価格:¥ 1,700(税込)
発売日:2014-04-18


秋の週末に大好きな音楽を聴くことと、心ゆくまでの読書を楽しんでいる。居心地のいい部屋で静かに本を読むことが好きで、傍らにナッツとビールの入ったグラスがあればもう完全に村上春樹ワールドなのだけれど、この人の作り出す静謐で孤独な世界、志向に合っているのか高校生の頃から欠かさず愛読しているから成長プロセスに織り込まれてしまったのか、読んでいて「そうそう」とぴったりくる感じ。



清潔で秩序だった暮らしのなかに、冥くて恐ろしい口があいていて、自分の心の在りようが何かのひょうしに梃子となって、その深い穴にストンと落ちてしまう。村上作品に必ず共通して存在する、その穴が、いちばん具体的なのがハードボイルド・ワンダーランドで、メタファーなのがねじまき鳥クロニクルで、心理的な価値観の尺度になっているのがノルウェイの森。



私は女性なのでその気持ちが良く分からないが、女性の去っていったあとの「女のいない男たち」を描く9年ぶりの短編集はどの作品もその「穴感」が色濃く、中でも「木野」というバーで日々の糧を得る孤独な男が、得たいのしれないものに憑かれる話がもっとも象徴的である。孤独で、かわいていて、永遠に続きそうならせん状の救いのなさ。こわい、深い。




『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』(著者:カレン・フェラン 訳:神崎 朗子)

2014-09-21 18:48:52 | 本と雑誌
申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。
価格:¥ 1,728(税込)
発売日:2014-03-26


巧みすぎるタイトルに、読みながら「うんうん」とうなずいてしまう話が満載。私が就職活動をした時代、大卒女子の人気職種トップ3は、マスコミ、コンサルティングファーム、マーケティング業界。あこがれの理由はなんとなく「華やかそう」「カッコよさそう」「頭よさそう」(笑)ところが社会人経験を重ねるにつれ、華やかでカッコいいどころか、精神的にも体力的にも相当タフでないとやってられない仕事であることがわかってくる。



一見すごそうなカタカナまじりの言葉や精緻なスキームが書かれたパワポが、薄っぺらい表面的なツールであるばかりか、コンサルティングファームの言うことを鵜呑みにして、組織と業績がガタガタになった大手企業。コンサルタントは考える「道具」と「事例」を提供するだけなのに、ついつい、考えること自体を丸投げしてしまう企業側の責任でもある。その会社で10年、20年と働いて経験を積み、商品や顧客を熟知している社員よりも、より良く答えを出せる人たちはいないのだから。



しかし友人にコンサルタントが何人もいてわかるけれど、「1週間後に提案だから」と期限をきられて「ひええ、マジですか」とプライベートを犠牲にしつつ、懸命にデータを集めて分析し、前の晩はプレゼンに向けて一睡もせずにパワポを仕上げる気合と能力のある優秀な人たちの集まりであることも確か。何とかしてくれとお願いするほうも、頑張りますと受けるほうも、地味な努力の積み重ねと、決してあきらめない根性と、人間関係における誠実さが良い結果を作る。その重要さがわかる本である。





『失われた時を求めて〈13〉 第七篇 Ⅱ』(著者:マルセル・プルースト 訳:鈴木 道彦)

2014-09-14 16:42:52 | 本と雑誌
失われた時を求めて〈13〉第七篇 見出された時(2) (集英社文庫ヘリテージシリーズ)失われた時を求めて〈13〉第七篇 見出された時(2) (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
価格:¥ 977(税込)
発売日:2007-03


今年は、あっという間に秋がやってきた。梅雨明けが早く、10月まで残暑が続いた去年に比べて、ひどく夏が短かったようだ。青い空が高く、空気が透明になり、早朝出社した先週など、駅へ歩く道で一瞬、キンモクセイの芳醇な香りのしたように思ってはっと驚いた。まさか、まだ咲く季節じゃないよね。午後の日もつるべ落とし、ふと気づくと暮れて窓の外が真っ暗になっていたりする。



久しぶりにゆっくりできる週末で、朝早起きをして家の掃除と洗濯をし、買い物に行って冷蔵庫を充実させ、フランスの家庭料理、鶏とじゃがいものトマト煮込みをことこと火にかけながら、いい匂いのする中で久しぶりに読書。平和で穏やかな秋の時間、読もうと思ってなかなか時間がとれなかったプルーストの最終巻を読了。実に4年がかりで読み終わって、人にはちょっと想像できないような達成感と、虚脱感だ。



いのちの分泌物のように過ぎ去る時間と、そのしたたり落ちていく現在の時間を一瞬過去へと戻す記憶との、交互に立ち戻り現れて、また消えていくエピソードが、印象派の絵画やサロンでの弦楽四重奏や、光あふれる海岸の美しい少女たちや、洗練されたレストランに織り込まれ、合間に激しい執着と繊細な嫉妬、形而上学的な考察、繰り返し読んでもいつも新しい表情を見せるのは、こんなふうに複雑に重ね重ねされた楼閣のような物語だからかもしれない。最終巻は、この楼閣を書こうと思って人生の残り時間があまりにも短いことに愕然とする作者の姿で幕を閉じる。それにしても、長かった。