WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『銃、病原菌、鉄(下)』(著者:ジャレド・ダイアモンド 訳:倉骨 彰)

2013-05-25 18:44:16 | 本と雑誌
文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
価格:¥ 945(税込)
発売日:2012-02-02


週をおうごとに忙しさが増している気がする。朝、昨晩終わらなかったメールの処理を片付けていたら、右肩は鈍痛、足はむくみ、目の奥がしびれている。あぁ、しばらく休暇をとって沖縄のホテルにでも行き、青い海と空の下で心ゆくまで本を読んでいたい。大好きなブセナテラスでは、大きく開け放たれた扉からゴージャスな夕日がいっぱいに差し込むダイニングルームがあり、おいしいワインと美しい琉球硝子のお皿によそられた沖縄料理で、つかれた体に栄養を補給したい・・・



といいつつも、今週は部署のキックオフあり、なんだかんだで楽しかった。一人ではたった24時間しかないが、チームならそれぞれ人数分の時間があり、それぞれ個性の違う才能がある。生み出されるものもより大きい。



上巻からしばらく時間がたってしまったけれど、下巻もとてもおもしろかった。へえー、アフリカでは世界の六つのうち五つの人種が暮らしていたんだ。旧世界と新世界の技術進歩の差は、住んでいる民族の特性や才能の差ではなく、地域の起伏と気候が食料生産と家畜の増加をもたらし、人数の多さは相対的に発明できる人間の多さになり、それが伝播する速さを増幅させ、とフラットでロジカルな科学者の視点。




『新源氏物語(中)』(著者:田辺 聖子)

2013-05-18 19:39:54 | 本と雑誌
新源氏物語 (中) (新潮文庫)新源氏物語 (中) (新潮文庫)
価格:¥ 746(税込)
発売日:1984-05


記憶力がいいほうで、好きなものは楽におぼえられる。数字はまっしろな紙にくっきりした黒いイタリック体で書いてあるのを思い浮かべて、数というより絵、図形のカタマリとして10桁ずつ区切っておぼえる。ピアノの楽譜もパッセージや装飾音、一緒である。暗譜しないと弾けないから、まず集中してひたすら頭に入れる。



しかし桁違いのおそるべき記憶力を誇っていたのは、なんといっても1000年前の日本人。平安時代、紙はとてつもなく貴重で、中国から渡ってくる唐紙と、国内で限定生産されるもの2種類しかなく、紙をとじた1束はひと財産だった。生産・保管する紙屋院といえば、今の造幣局と同じようなポジション。間違えてもパソコンのデリートキー1つで書き直せる今と違って、紫式部は、一巻を書くのにまず頭の中でぜんぶお話を完璧に作ってから、一気に筆をおろしたという。ほとんど神業だ。



流浪の須磨から都にもどって中年の男盛りにさしかかった源氏が、絶大なる権勢をふるい、この世の春を謳歌する。先に続く息子の不義と光る君の死、末法思想の来れる世との落差をつけるためか、優雅なことこの上ない。藤壺の宮との不義の息子が成長し超ハンサムな今上天皇となり、自身も官位を登り詰め、贅を尽くした大邸宅にはそれぞれタイプの違う絶世の美女が何人もいて・・・日々せわしなく働く平民の身、読んでしばし現実逃避できる佳き中巻。




『ワールズ・エンド』(著者:ポール・セロー 訳:村上 春樹)

2013-05-11 17:14:03 | 本と雑誌
ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)
価格:¥ 1,155(税込)
発売日:2007-11


連休あけ早々から遅い日が続き、寒くなった夜に薄着をしていたせいで風邪をひいた。昨晩は夕方から頭が朦朧としてきて、9時には会社を出て帰宅。ワインをあたためて蜂蜜をいれ、本をもってベッドにもぐり込んだら、5分たたないうちにコトリと眠ってしまった。村上春樹ふうにいうと、「誰かがハンマーで頭をとんとたたいたような」眠り。



疲れていただけか、体力が強くなったのか、起きてみたらのどの痛みもかなり回復していた。ひどくならなくてよかった。週にたまった郵便物を開けて整理、クロゼットの中を片付けたり、切れていた紅茶やミネラルウォーター、ヨーグルトを買って補充したり、こまこまと日常のことをしていると、穏やかに心が落ち着く。我ながら、ほんと地味な性格(笑)



土曜の静かな午後、雨が銀色にけむるガラス窓を時折みながら読書するのに、素敵にぴったりなタイトルで楽しく読んだ。異国で途方にくれて困惑した人々の、孤独というには重くなく、不幸というには明るすぎる、精神的なほうり出され感。自分のシマではない異郷の地で、落ち込んだ事態をどうにか打開するには、どの話もいずれ何かが足りない。優しさだったり、才能、情熱といった、あとひとかけの何か。その足りなさのさじ加減も絶妙なのである。





『ねじの回転』(著者:ヘンリー・ジェイムズ 訳:土屋 政雄)

2013-05-05 17:14:42 | 本と雑誌
ねじの回転 (光文社古典新訳文庫)ねじの回転 (光文社古典新訳文庫)
価格:¥ 960(税込)
発売日:2012-09-12


人一倍こわがりなくせに、映画でも本でもついつい惹かれて怖いのを手にとってしまう。だいぶ昔の暑い8月、視覚がいかに頭脳や神経と結びついているかをレトリックに使った「姑獲鳥の夏」のクライマックスを読んで、うっわー・・とからだじゅうが総毛立つ思いをしたけれど、その時以上に泣きそうに怖い。そこにあるものとは違うものが見える、または、そこにないはずのものがふと立っている。わわわ、書いててまた怖くなってきたぞ。



社会人になってひとり暮らしを始めたある夜、金縛りにかかって恐怖の数十分間を過ごし、ようやく体が動くようになり現実感を求めて必死で這うようにしてテレビをつけたら、すでに放送時間が終了(笑) ザーッという砂嵐しか流れなかったときの、泣けるような切なさを思い出した。流血もスプラッターな猟奇殺人もない、一言でいってしまえば「幽霊か?それとも家庭教師の妄想か?」という話なのに、これがおぞましくひとの心をえぐるような恐怖。



出版直後にアメリカで「英語で書かれたもっとも邪悪で忌まわしい物語」とセンセーショナルな評判を巻き起こしただけのことはある。原文で読んだらさぞかし怖かろう。テクストの構造が、気づかないほどの微細なゆがみをちょっとずつ重ねていって、感覚の薄皮をはぐように次の章がめくられる。人間の神経に直接むきだしにさわりかけてくるような静かに狂った不協和音、飽きっぽい私はいつも何冊かの本を並行して読むのに、これだけは読み終わるまでやめられなかった。




『イタリア広場』(著者:アントニオ・タブッキ 訳:村松 真理子)

2013-05-02 16:10:33 | 本と雑誌
イタリア広場イタリア広場
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2009-09



晴れてきたのでうれしくなり、本1冊とiPhone、お財布だけもって、駒澤オリンピック公園へ。いつもジョギングコースで来るのを、今日はぶらぶらお散歩。空を見ながらゆっくりゆっくり歩くと、視界いっぱいの樹木のしたたるような緑、枝の間をぬける陽光とまだ少し冷たい風。とっても気持ちがいい。



歩きつかれて、足を休めにカフェ・マメヒコに寄る。しゅんしゅんお湯のたぎる音が聞こえるくらい静かで、ひろびろしたウッディなインテリア。大人の客が落ち着いて食事をとったり、本を広げたりしているこの喫茶店は、福田敏也さんがこよなく愛していそうなところだ。(オフィスが近い) 



タブッキ、「インド夜想曲」で衝撃を受けた。その次に読んだのがこれ。イタリアの作家30歳のデビュー作、あまりに美しくてその晩、眠れなくなったのをおぼえている。ファシストの爆撃に空を飛んでいくガラスや木の窓の群れ、バラの茂みの下に置かれる反体制の新聞、父親から息子へと3が続く象徴的な死の継承。3代目のガリバルドは60歳の誕生日に、生まれるのをあきらめた息子の30歳ぶんの命もおって、イタリア広場で撃たれて死ぬ。哀切でリリカルで、何度読み返してもため息がでる、最高傑作。