WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『テンペスト(1)(2)』(著者:池上 永一)

2011-07-25 16:29:07 | 本と雑誌
テンペスト 第二巻 夏雲 (角川文庫) テンペスト 第二巻 夏雲 (角川文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2010-09-25
テンペスト 第一巻 春雷 (角川文庫) テンペスト 第一巻 春雷 (角川文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2010-08-25

今日、明日と休暇。ここ最近、台風の影響?で涼しかったのが、今朝は夏らしく晴れて、掃除をしただけなのにすごい汗。だんだん、からだの体温調節機能が元に戻ってきた。風邪がひどくてうまくコントロールできず、熱っぽさと寒気の間をいったりきたりだったので嬉しい。シャワーを浴びて、冷えたビールをゴクゴク飲みたいところだけどここは水で我慢。


会社の人にお借りした「テンペスト」、疾風怒涛のドラマティックな展開に一気読み。琉球王朝末期という、異国情緒ただよう舞台設定。沖縄のブセナテラスが好きで、ひところ毎年行っていた。蒼い珊瑚礁の海はきれいだし、風も気持ちよく、大好きな沖縄料理が本場の食材で味わえる。チャンプルーもソーキそばもサーターアンダギーも大好物。(特に、卵と砂糖をたっぷり使った沖縄のドーナツ、サーターアンダギーは、一袋をいちどに食べてしまうくらい好き)話がそれてしまったが、沖縄の美しい自然と、どろどろにもつれた関係が好対照で、これがすごいおもしろいの。


『失われた時を求めて〈6〉第三篇 ゲルマントの方〈2〉』(著者:マルセル・プルースト 訳:鈴木 道彦)

2011-07-24 18:38:37 | 本と雑誌
失われた時を求めて 6  第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ) 失われた時を求めて 6 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
価格:¥ 1,250(税込)
発売日:2006-08-18

ウイークデイはフル投球し、週末になると体調を崩す、という繰り返しが続いた結果、先週の3連休いよいよ本格的にダウンして、プライベート予定は全部キャンセル。夏風邪はしつこく、やっと熱がさがってきたと思ったら咳が出始めた。福岡出張の前の晩など、シャワーを浴びていたら呼吸ができないほどになり、バスルームの床に喀血。唾液がピンク色といった程度ではない。鮮やかな血が飛び散って我ながら気分が悪くなった。このくらいひどい咳だと、夜、ほとんど一睡もできない。


かかりつけの先生は気管支炎との診断で、強めの薬を出してもらうと今度は仕事に差し支えるほど眠い。でも夜なんとか眠れるのはありがたく、昨日今日でやっと体力が回復してきた。今日はキッチンに立てるようになって久しぶりに料理。お肉をトマトソースで煮込みながらプルーストの6冊目を読み終わる。


この巻にしてはじめて、片恋の話がでてこない。600ページ、パリの最上流サロンで繰り広げられる話題がえんえん続く。前巻までは、病弱で自意識過剰な「私」の憧れの女性たちと、万華鏡のように美しい意識描写だったのに、ガラリ変わって、主人公はもう冷静に、嫉みや自慢や揶揄がうずまく社交界を、一枚のフィルターを通して観察するすべを身につけている。少年のいちずな思慕をささげていたゲルマント公爵夫人は、成長した目から見ると薄っぺらい意地悪な女性。この転換がおもしろい。次巻を買いに行かなきゃ。


『超現実主義宣言』(著者:アンドレ・ブルトン 訳:生田 耕作)

2011-07-23 13:11:43 | 本と雑誌
超現実主義宣言 (中公文庫) 超現実主義宣言 (中公文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:1999-09

私は特定のテーマを論じる評論があまり好きではなく、(単に言葉をこねくりまわしているだけの作品も多くて、時間の無駄と腹がたってくるので)、それよりも、一見読みやすく理解しやすい小説のほうが、より深い想像力と知的な構成力を感じられて好き。(「星の王子さま」が好例) これは評論というより完璧な芸術作品なのだけれど、珍しく突き抜けて感動してしまった。今までシュルレアリスムを、絵画や写真の一分野と思っていたが、自分の無知を恥じる思い。


1924年の「超現実主義宣言」には、シトラスというくだものから連想されるもの、ライムグリーン、柑橘類の爽やかな香り、夏の風と太陽、こういったキーワードと、読んで心がうるおうという表現がぴったりくる。かわいた隙間に、よい香りをもった芳醇な言葉がみずみずしく流れ込んでくるようで、ああこの人の思考の進め方は私に合うと。希代の芸術作品にこんないいかたは不遜かもしれないが、ものを考える人ならそう思っても許されるだろう。


この峻烈な芳香をはなつ文章から受ける爽やかさを少しでも長く味わいたくて、二度読み返した。シュルレアリスムとは、理性による一切の統御、審美的、道徳的な配慮の、まったく外で行われる思考の口述筆記。美は推敲でととのえられた様式や配列にあるのではなくて、意識のうちに、何が先にあらわれるか、その次には何がうまれるか、そういった一つひとつの閃光のなかに、崇高といってよい美しさがある。“不思議なものは美しい”とはそういうこと。


『青い壺』(著者:有吉 佐和子)

2011-07-18 20:34:26 | 本と雑誌
青い壺 (文春文庫) 青い壺 (文春文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:2011-07-08

有吉佐和子さんは人を描いたら天下一品。子どもの頃、実家の本棚にあった「華岡清洲の妻」を読んだこと、あまりにおもしろく今だに覚えている。筋書きの緻密さと人間関係の濃密な生々しさ。(これは壮絶な嫁姑関係がテーマで、一心不乱に読みふける幼い娘を見て、母親がぎょっとしていた。笑)


同じ壺をめぐって13の話が設定される。どれもピリッとワサビがきいていて、しかも読後にあたたかいものを残してくれる。最初と最後で美しく円が閉じられるのもおもしろい。それに、実際に戦争を経験した世代の、終戦後のライフスタイルや人生観が伺えるのは貴重だ。


せっかくの三連休が、高熱を出して2日間は寝たきり、今日も咳に苦しみながらやっと起きて、簡単に家事を片付け、夕方から一話ずつ楽しんだ。読書にも体力がいる。人間、健康が一番とつくづく思う。


『門』(著者:夏目 漱石)

2011-07-03 17:11:38 | 本と雑誌
門 (新潮文庫) 門 (新潮文庫)
価格:¥ 380(税込)
発売日:1948-11

急に暑くなったせいか、周囲に体調を崩す人が多い。夏風邪はのどにくるらしく、さっきランチに行ったお店のマダムも咳でゴホゴホ。7月の下旬に何日かオフにしようと思って、エステサロンに電話を入れたら、受付の人までガラガラ声。私も、金曜にあまりに体がつらくなり、これはまずいと思ってビタミンCを飲んで早い時間に寝た。この暑さの中で無理をしてはいけない、地球上の、北と南で生活習慣が違うのにはりっぱな理由があるのだ。睡眠、水分、食事、それに、いつもの運動量の7割くらいで体を休める、くらいが適当。


これは中期三部作の最後。「それから」はぎらぎらと狂おしいエネルギーの炸裂で終わるが、次作はうって変わって、ひっそりと静かな、世に隠れた生活が描かれる。平穏で単調な日々の繰り返しという表層の下に、何度か首をもたげる棘のようなもの、妻の神経衰弱であったり、弟の進学問題であったり、妻の前夫の消息であったり、その強弱の拍のつけかたが絶妙。文豪はこの作品を書いたとき悩んだとされるので、単に漱石好きの贔屓目かもしれないが、読んでいて飽きないのはやはり名作だもの。