WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『総理の夫』(著者:原田 マハ)

2017-04-16 17:04:18 | 本と雑誌

ここ最近、気温が20度を超えて春本番の快適なあたたかさ。昨日は風も強く、出かけておいしいホワイトエールを飲んで上機嫌で帰ってきたら、宵のベランダに桜の花びらがいっぱい散っていてきれいだ。気持ちよさの延長で、季節変わり目の衣替えをすることにする。もう着ない服の選別に意外と時間がかかって、億劫だしそのままという人が多いが、断捨離好きの私は全く躊躇せずにどんどん捨てるから、ものの20分ほどで終わってしまいむしろ物足りないくらいである(笑)。クロゼットの片付け程度のシンプルな判断基準で、トップが政策の仕分けをしたら世の中はもっと良くなるのだろうが、現実には複雑な利害と様々な尺度が絡んでなかなかそうはいかない。

この本、総理の「夫」?うまいタイトルだ。メルケル独首相、メイ英首相、アウン・サン・スー・チー国家顧問、失脚したが韓国の朴前大統領、もし当選すれば初の女性大統領になるはずだったヒラリー・クリントン氏、ラガルドIMF専務理事、イエレンFRB議長と、世界の政治や経済を動かすポジションに女性が就くことが珍しくなくなってきた21世紀。日本にもいつか女性の総理大臣が誕生するのだろうか。国債の発行乱発で債務超過、少子高齢化がいよいよ進み、経済停滞で国際的な発言力も弱くなり・・・という少し先の暗い将来を舞台に、明治以来初めて女性が首相の重責を担うことになった。それも40代前半という若さ、頭脳明晰、ありえないくらい美人、ありえないくらい金持ちのイケメンが夫という、少女漫画みたいな設定のエンターテイメント。この旦那さんの一人称で物語が進んでいくのだが、めっちゃ面白くて笑える。

この女性総理、無駄な支出は抵抗勢力の反対を抑えてバッサバッサ削減し、本当に必要な施策に絞ってきっちり断行し、爽快なことこの上なし。前に読んだ「太陽の棘」が、人間同士の諍いの根源とそれがもたらす奥深い悲劇をテーマに、描写が美しくも哀しい小説だったので、全く違う作家が書いたような作風に引き出しがすごいなぁと感心しきり。映画にも漫画にもできそうなメリハリの効いた転換と分かりやすさもいい。解説は安倍首相の奥さん、昭恵夫人。


『職業としての小説家』(著者:村上 春樹)

2017-04-02 19:12:07 | 本と雑誌

2月の最終週、昔ブロードバンド事業の立ち上げ期にOne teamだった旧宣伝部メンバーでの恒例「お肉を食べる会」でお店に向かう道すがら、背中が痛みはじめた。キリキリした疼痛はまっすぐ上に向かって、久しぶりのひどい頭痛に。たまたまその週、後でインフルエンザ発症が判明した人と同じ会議に出て話すことが多く、体内に入ったウイルスに免疫が臨戦状態になったのだろう。その時は肩こりのせいかと思い、ビールと最高級のおいしい焼肉につかのま痛みを忘れたものの、翌日も激しい頭痛が続いて初めてのプレミアムフライデーというのに早々に帰宅。ただ、イタタタとよろよろしながら、本屋に寄ってその日発売の「騎士団長殺し」をしっかり買うのは忘れなかった。ハードカバー2冊は弱った身にはけっこうな重さだが、大事に抱えて帰る。

幸いにして、シーズン前に受けたワクチンと体力で、熱も出ず発症せずその夜には頭痛も治まった。たいがいここで待ちきれずにページを繰り始めるのだが、高校生以来、こよなく村上春樹の全作品を愛してきたファンとしては、まず姿勢を正してこちらを手にとる。11章まるごと、文学に全力で正対する作家の、フィジカルそしてメンタルな在りようが語られたなんとも贅沢な本。必ず「○年ぶりの長編」なのは、一作ごとにまず書いて、それから何度もゴリゴリ書き直す、編集者や家族に意見を聞いてまた最初から書き直すという、しんどい作業を数年にも渡って積み重ねているから。ジョギングを始めとする厳格なまでに健康的な生活も、ハードな執筆を続ける体力を維持するため。どこまでもプロフェッショナルな姿勢に加え、「時間があればもっと良いものを書けたのに」というハンパな同業者に唖然とするチャーミングさもまた素敵だ。

高校時代に「きっとこういうの好きじゃない?」とノルウェイの森を薦めてくれた友達と、今でもたまに電話で話す。前、どこが好きなポイントかと聞かれて、全部好きなので少しだけ返答に困ったことがあった。作品を人に例えれば皮膚から骨格から性格まで全て好みなのである。目が辿る文章の柔らかくて端正な語り口、その背後の大きな構成とゆるぎない土台、一定のリズムで現れる思いがけない転換点に「ええっ?」と心を鷲掴みにされる意外さ。日本いや世界にも比類ない作家が美しい物語を創り出す舞台裏を垣間みて、さあこれで新刊を読む心の準備ができたぞ。