WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『睡眠のはなし』(著者:内山 真)

2016-05-21 19:40:41 | 本と雑誌

連休あけから加速度的に案件が増加し、あっという間に休日モードがふっとんだ。先週は仕事がウィークデイに終わらず、休日に細かいところを調べたり資料のアウトラインを作ったり。いつも土日はいまどきの小学生よりも早い時間、夜10時にベッドに入ってしまうので、5時くらいには夕ご飯を食べる。夕方に仕事を終わらせて、開け放したドアから初夏の爽やかな風が通るワインバーでコロナを飲みながらこの本を読んでいたら、「睡眠の話ですか?」と知らない人から声をかけられた。

日本人は睡眠に平均以上に関心の高い民族と思う。寝具のクオリティの高さもそうだし、エアコンや壁クロス、空気清浄機など快適な睡眠の時間をうたった家電、熟睡するためのお茶にサプリに医薬品、入浴剤。私も夜6時以降はコーヒーとかのカフェインを摂らないし、ベッドに入る前には蛍光灯を消してやわらかい光の間接照明に切り替える。朝の太陽光があたって活動期に入ってから12~13時間後には、ヒトの体は自然に休息のサイクルに入るそうだ。そんな話を読むと、なんとなく必要以上に身体をいじめている気になる。

休日、夜10時に寝るのはおもに肌のためだが、24時を過ぎた深夜に寝ても、寝ばなに深いノンレム睡眠に落ち込む時に回復のしくみが働くから、あまり気にしなくても大丈夫なんだそう。なーんだ。ベストな睡眠時間、時差の解消法、夢をみる理由など、意外に知らなかった科学的根拠のあるエピソードが満載。


『バイエルの謎』(著者:安田 寛)

2016-05-08 20:02:59 | 本と雑誌

小学生のころ、友達が「いま、バイエルの×番を弾いてるの」とピアノのお稽古の話をするたびに、いいなあーと思っていた。さっそく親に自分もやりたいと言うと、なぜか、習字の教室に行かされた。すぐ飽きてしまうのだから、どうせなら少しでも役に立つものをというチョイスだったに違いない。土曜日の午後にトコトコ習字に通いながらも、あきらめきれずに親にピアノと言うと、今度は、土日は4時間ずつ勉強するオーダーが導入された。まったくもって(笑)

きっとその時ピアノをやっていれば、半年くらいで終わってしまったと思うが、長年のふわーっとした憧れがしっかり育まれて、大人になってから始めたピアノはもう10年近く続いている。弾くのも好き、聴くのも好き。大人向けの最初のレッスンは、ポピュラーな曲をやさしくアレンジした練習曲で音階や運指の基礎、それからツェルニーに入ったので、残念ながらバイエルはやらなかったが、ピアノ好きとしては絶対に読まねばならない。

明治時代から日本の子供向け教材の代名詞ともなっているバイエルなのに、なぜか人物も内容も深い謎に包まれている。ドイツの音楽辞典にものっていないし、たまに書かれていると思えば「二流以下の音楽家」とこきおろされていたりする。100年以上、バイエルを愛してきた日本人としては絶対に解明しなければ!の一念で、何度も飛行機に乗り、古い教会をたずね、アメリカの図書館にも行き、はるかドイツのバイエル生地クヴェアフルトでも死亡地マインツでも今では誰も知らない謎の人物のベールを、一枚一枚調べてめくっていく。奇跡がおきた最後の章など、思わず拍手を送りたくなるくらい素晴らしい。ピアノ好きでなくても楽しめる、濃い一冊。


『物欲なき世界』(著者:菅付 雅信)

2016-05-07 14:47:39 | 本と雑誌

恵比寿のアトレに入っている有隣堂が最近のお気に入りで、通勤経路でも自宅から近いわけでもないのに、本を買うときはここにわざわざ行く。広く、おススメコーナーの趣味が良いうえに、隣接のスターバックスがスタバにはあり得ないくらい空いている穴場で、本好きには天国のようなスポット。アトレでお買い物をする客層が本屋のターゲットと少し違うのかもしれない。カフェというカフェに空きがない連休中でも、ここだけは例外。ゆったりしたスペースをあけた隣席には、フランス人の母娘がラテ片手に静かにおしゃべりしていて、とっても雰囲気がいい。

ゼミの教授が知的にさばけた方で、私の代の卒論テーマは全くの自由でよいと宣言されたため、会計学や財務諸表と何の関係もない「モード」について書いた。ファッションは他者との差別性のシンボルである。3年までに単位をほぼ取り終わって時間がありあまっていたので、深遠な哲学や歴史の話題も織り込み、愛機ハッセルブラッドで撮影した写真もカラー印刷でつけて、相当な力作だったが(笑)、読み終わった先生は「ほんとに専攻となんの関係もないですね」とかすかに嫌な顔をされた(ような気がする)。今考えるとよく単位をいただけたものである。

人は衣食住足りると、欲求の次のステージに進む。しかしブランドものの服や外車といった、モノが人との差別性を表現する時代はもうゆるやかに終わろうとしていて、選んで行くお店、職業と働きかた、趣味、付き合う知人友人、ライフスタイル全部がそれに取って代わりつつある。自分の価値観にあわないモノを無理して買うより、自分や家族が満足できる生活のためにお金をかけるほうが100倍スマートじゃないか。そう考える人が、グローバルで広がっている。有隣堂のスタバで、何冊かの本を席において満足そうに読んでいる人たちを見ると、とてもまっとうな時代じゃないかと思う。


『悲しみのイレーヌ』(著者:ピエール・ルメートル 訳:橘 明美)

2016-05-06 17:33:21 | 本と雑誌

環境が変わり季節も変わったため体調を崩すかと思いきや、すっかり健康で快適な10連休。たくさん眠って良い食事と適度な運動と、絵に描いたような休暇を満喫。急ぎのメールに返信したり、仕事関係の本を読んだり、資料を作りに午後だけ出社したりしてはいるものの、大部分の時間すっかり心身ともにリラックスしている。

表紙の絵が陰惨で買ってから読むのをためらっていたが、読みだしたら止まらず、今までの読書人生におけるミステリ中ダントツに最高のおもしろさ「その女アレックス」、それからゴンクール賞をとった「天国でまた会おう」、究極のストーカー話「死のドレスを花婿に」・・・作家デビューが55歳と遅咲きで、まだ作品自体が少なく、この本を読んだらもう当分新作を待たなくてはいけないため、惜しみ惜しみ大事に読んだ。

これも表紙からしてなんとも胸がふさがれるような不吉な感じ、そしてあまりにもむごい結末。愉快犯でも復讐でもなく、精神を病んでもいず、普通のキャリアをもち普通の社会生活を送っている人間が、滴るような豊潤な悪意でもってひとつひとつの犯罪を丹念に計画し、緻密に実行していく。ここまでひどい話を書けるってほんとにこの人は天才である。翻訳されていないがフランスで出版された作品があと3冊。それに、いま65歳だからまだ先の作品が楽しみ。