いい本とは聞いていたが、こんなに面白いとは思わなかった。石油の出光を一代で興した出光佐三氏がモデル。明治41年、エネルギーはまだ石炭という時代に、石油の成長性にいちはやく目をつけた型破りな学生が、大企業の内定を蹴って小さな商店に入社する。同窓生がスマートに背広を着こなして大規模な取引を手掛けるのを横目に、くじけず丁稚として大八車をひいての営業から叩き上げ、念願の石油を売るために関門海峡に海賊まがいの伝馬船を出したり、厳寒の満州に日本製の油をもって乗り込み、利権がらみの慣習をやぶって契約を勝ち取ったり。痛快である。
現場で筋の通らないことを激しく嫌い、だれが相手でも正々堂々と渡り合う人間力がこの人の最大の魅力。日本経済の未来を先まで見通し、誰もやらないことを、鉄の意志と破天荒な行動力で成し遂げ続けて、6000円で作った会社は、売上高5兆を超える巨大企業になった。
そのプロセスは並大抵ではない苦労の連続で、さらに太平洋戦争の敗戦で倒産寸前、巨額の借金だけが残るまでに追い込まれた時が60歳。普通はここであきらめる。でも、GHQや横紙破りの出光を快く思わない同業他社の嫌がらせにも負けず、立ち直り、さらに業績を大きく伸ばし出す。亡くなるまで矍鑠として活動し、95歳で大往生。日本の経営者にはこんなにすごい人がいた。読後の爽やかさも素晴らしい。