WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『天空の蜂』 (著者:東野 圭吾)

2011-01-29 19:12:37 | 本と雑誌
天空の蜂 (講談社文庫) 天空の蜂 (講談社文庫)
価格:¥ 880(税込)
発売日:1998-11-13

去年、お借りして、読みごたえのある厚さだが、おもしろくてお正月ずっと読んでいた。

巨額の開発費をかけた巨大ヘリをお披露目の日にジャックして無人飛行させ、稼動中の原発の上に・・・いつも私は、読んでいるうちに結末がどうしても気になって、エピローグをめくってしまう、正統派ミステリファンからは「うそ、信じらんない」と言われるせっかちなのだが、これは、犯人はどの時点で見つかるのか、ヘリは最後に落ちるのか落ちないのか、ドキドキしながらページを繰って、最後まで順をおって読んだ。


あとがきにもあるが、この人の本は、問題提起というか、単なるおもしろい推理小説ではなくて、完成度の高い文章やストーリーを通じて、社会の課題をさまざまに考えさせる。きっと、そのための事実取材やプロットの組み立てもすごい丹念にやっているんだろうな。


夕方に軽くビールを飲んだので、アルコールで気分がほぐれて、またこの人のを読みたくなった。大人がリラックスしながら楽しめる知的上質さを持っているよね。


『感情教育』(著者:フローベール 訳:山田 爵)

2011-01-23 20:36:46 | 本と雑誌
感情教育 上 (河出文庫) 感情教育 上 (河出文庫)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-09-04

これといったところのない世間知らずの青年が、親戚の遺産を継いで、パリで暮らす。一目ぼれした初恋の人妻、高級娼婦、実家の隣人の娘、財界の大物の夫人と、4人の美女に心をうつしながら・・・というあらすじ。


ところでプルーストにも出てくる、ドゥミ・モンド(半社交界)と称される高級娼婦。社交界の貴婦人に足らず、とはいかにも粋な呼び方。アパルトマンに居をかまえ、複数の紳士に生活費を出してもらい、ドレスや宝飾品は旦那に甘えながらしっかり請求書をまわす。若さと美貌のあせないうちに、なるべく家柄も資産もある1人と結婚にこぎつけられるようにあの手この手と駆使・・・と、こちらにも活きいきと描かれている。帝政前後のパリが舞台だと、ちっとも不潔感を感じないのは、人間の品性うんぬんではなく職業のひとつだからか。


くるくる主語のかわる緻密な人物模写とその場が目に浮かんできそうな写実感。「ボヴァリー夫人」と並んで、後世のフランス文壇に大きな影響を与えたフローベールの傑作小説。訳は森鴎外のお孫さん。


『現象学』(著者:木田 元)

2011-01-09 17:04:44 | 本と雑誌
現象学 (岩波新書 青版 C-11) 現象学 (岩波新書 青版 C-11)
価格:¥ 756(税込)
発売日:1970-09-21

大学時代は、授業にあまり行かなかったにもかかわらず、商学部で上から3番目という成績で卒業した。行かなかったのは、会計学をディープに勉強したくて入ったのに、1年生の授業に拍子抜けしたからで、成績がよかったのは、もともとこの子は東大か早慶に行くと期待をかけていた親が、学費を出さないときっぱり宣言したため、オールAをとって学費免除を受ける必要に迫られたからである。


その結果、3年間でかなり単位をとったので、4年目になると、ゼミ以外はひとつかふたつ単位を取ればよいということになり、選んだ授業が先生の哲学。それ以外は、カメラ店でアルバイトをしながら写真を撮り歩いたり、映画をたくさん見たり、専門書に読みふけったりという、贅沢きわまりない生活に突入した。この哲学講義がとてもおもしろく、1限目の早朝授業にもかかわらず、私は教科書にマーカーを入れたりまめにノートをとったりと、他の授業で代返してくれた友人たちがあきれる真面目さで、欠かさず通った。


冒頭のボーヴォワールの描いた一節、サルトルが感動で青ざめたレイモン・アロンとの会話は、事物そのものの意味を問うという現象学的還元、それがすべての真理の根源になるから、だから哲学なのだということ。先生が授業でつかった教科書は、哲学の歴史をまとめた簡単な概論だったけれど、そのときにもっと、いろいろ読み広げて勉強していたらと悔やまれる。もし今、大学の専攻を選ぶなら、哲学かフランス文学だな。


『墨東綺譚』(著者:永井 荷風)

2011-01-08 17:00:42 | 本と雑誌
〓東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫) 〓東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)
価格:¥ 483(税込)
発売日:1991-07

大晦日、年越し蕎麦をいただいた後に夜10時には寝てしまって除夜の鐘を聞くこともなく、元旦、いつもと変わらないトーストの朝食をとって(笑われた)、寝室の掃除をしたり片付けものをしたりと(気持ちよくお洗濯までして)、まったくお正月らしくない冬休み。振り返ってみて猛省(笑)。来年は温泉でも行って、朝からシャンパンでも飲みながら旅館のおせちを楽しんで、お湯につかったりテレビを見たりしよう。


気ぜわしいお正月だったが、このまことに味わい深い本に心がうるおった。玉の井の溝ぞいの娼家、あけはなした窓から客を引く荷風の心のミューズ、墨東の風物描写は、とろりとした金色の余韻が目にみえるような筆致。ほんとに詩的。「ふらんす物語」「あめりか物語」よりも、晩年の作品のほうが二重三重に練れていてとても好き。それにふんだんに挿される木村荘八さんの素晴らしいイラスト。


最後に「作後贅言」と題されたおまけを読んで、ダメ出しの切れ味のよさに爆笑してしまった。消費は優越を感じたいと思う欲望にほかならならず、明治生まれにはないその欲望を昭和世代は信じがたいほど持っている、だから見よ、この品がなく暴力的なほど狂騒の街・銀座を・・・夏、熱い珈琲を飲みたくてもどこの喫茶店にもおいてやしない・・・という感じでえんえんダメ出し。おもしろすぎます。


『ナポレオン フーシェ タレーラン』(著者:鹿島 茂)

2011-01-03 16:24:14 | 本と雑誌
ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789―1815 (講談社学術文庫) ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789―1815 (講談社学術文庫)
価格:¥ 1,733(税込)
発売日:2009-08-10

「肌がきれいな人はほんとに何もしていない」法則というのがあるらしい。今まで私もその口で、女性誌によくある「平均女性の美容・コスメ代月額」を見ると、ひとケタ違うどころかひええ、年間トータルでもこんなに使わないよと、女子として肩身のせまい(笑)思いをしていたが、去年の夏以来、どうも肌の調子がおかしい。


夏、頬にポツッと吹き出物ができ、そのうち治るだろうとほうっておいたら、炎症を起こした。折悪しく、忙しかったり奈良に行ったりしているうちにひどくなって、しまいには皮膚科のお世話になることに。その後もストレスか夏の酷暑のせいか、ターンオーバーのリズムが崩れてしまったようで、規則正しい生活をしているわりに、肌のトラブルが続いた。夏は皮脂過剰、冬は酷乾燥、春秋は季節の変わり目と、お肌のいじける理由はいっぱいあるのだ。あまり気にしすぎないことも大事・・・。


情念→吹き出物の連想で、なんだか本と関係ない話になってしまったが、自分ではとめられない、いやとめようとも思わずにつっぱしってしまう天才たちの宿業を、「情念」と言い表す鹿島センセイの巧みさ。おもしろくて笑いながら読み、そしてナポレオン時代のフランスが一気によく分かりました。それにしてもこの話が月刊PLAYBOYの連載って、オチまでおもしろい。