WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『富士日記(中)』(著者:武田 百合子)

2012-09-29 16:07:30 | 本と雑誌
富士日記〈中〉 (中公文庫) 富士日記〈中〉 (中公文庫)
価格:¥ 980(税込)
発売日:1997-05-18

季節が変わった。陽射しもギラギラした夏の強さから、少しやわらかくなる。いま時分の朝晩の、ほの冷たい、でもどこかに暑さの余韻を残したような風が好き。夜寝る前にこのシリーズを読む静かな時間、最近は疲れすぎて週末しかとれないけれど、しみじみ素敵な本だなぁと思う。これも夏から秋にかけての季節がいちばんいい。


先週の日曜日、どしゃぶりの雨の中を微熱のだるい体を我慢して出社したら、完全に体調を崩してしまった。ダウンしてしまいたいところを気力でなんとか持たせて、昨日がどん底のピーク。肺の両横から「もう少しでまたひどい咳き込みがはじまるよ」とでもいうような嫌なメッセージがじわじわ伝わってきて、体温のコントロールもおかしく、始終熱っぽく汗がでる。背中は石のように重く、頭の芯がぼんやりする。


昨晩はようやく、ベッドに倒れこんで11時間ぶっ通しで眠り続けた。朝目覚めたら劇的に体力が回復していたのはまだ30代だからか。長いスパン、体調のバランスを見ながら走ろう。私にしかできないこと、チームで体当たりすれば最高の結果がでること、それができることをわかっているから。


『失われた時を求めて〈8〉 第四篇 ソドムとゴモラⅡ』(著者:マルセル・プルースト 訳:鈴木 道彦)

2012-09-16 16:39:22 | 本と雑誌
失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ) 失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
価格:¥ 1,250(税込)
発売日:2006-10-18

きのう髪をおろしてブラッシングしていたら、かなりの毛先がいたんでいる。紫外線、湿気、エアコンの風で、夏はほかの季節よりいたみやすい。ずっと、暑いのと、皮膚炎がうなじにもでていて、髪がかからないように巻いてあげていたから気がつかなかった。シャンプーするときにくるくる泡立てるので出来てしまう、小さい結び目がついているところもあって、急いで今日予約をとってカットしてもらう。それで外に出た以外は、2日間、久しぶりの読書三昧。


ちかちかする画面が目にも眠りの質にもひどく良くないと聞いて、最近、眠る2時間前から携帯やPC、テレビのスクリーンを見ないようにした。いくら仕事が気になっても、深夜と朝では数時間の差しかない。朝のほうが集中力が高いし、夜のメールのやり取りは感情的になりがちだから、その差によっぽどの影響がない限り、次の日にまわすと割り切る。ゆっくりお風呂に入り、ゆっくり肌のお手入れをして、明るすぎる蛍光灯を変えたら、ぐっすり眠れるようになった。


第三章の、夜の食事会から帰って眠りにつく冒頭の描写がとても好きで、ひところ夜にそこばかり読んでいた。ひどい眠気をおぼえ、海辺の避暑地バルベックのホテルの部屋から、眠りという第二のアパルトマンにそっとすべりこんでいくときの、穏やかな意識の退行。この3ページをベッドで読むと、主人公ばかりか私まで深くてこころよい眠りに落ち込んでしまう。おそるべき描写力、プルースト。


『葬送(第二部下)』(著者:平野 啓一郎)

2012-09-08 19:23:11 | 本と雑誌
葬送〈第2部(下)〉 (新潮文庫) 葬送〈第2部(下)〉 (新潮文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:2005-07-29

アンダンテ・スピアナートが一通り終わって、あとは暗譜を完璧にすることと、キイとキイとの間隔をもっと繊細につなげること。ショパン本人が初演したこの美しい曲を心から好き。今週はレッスンに行けないほどの忙しさで、いつもピアノの時間だけは、食事を犠牲にしてでも絶対に確保するので、これはひどい。いつも週末に行くお店でそう言ったら、たくさんの焼き野菜に山形牛のフィレステーキをスライスしたランチを特別に作ってくれた。


夕方から貪るように最終巻を読む。葬儀で演奏して欲しいと死の前日に遺言された葬送行進曲とモーツァルトのレクイエムを繰り返し聴きながら、久しぶりに泣いてしまった。後世にどんな天才が出たとしても、ショパンの作品をもっとも完璧に美しく弾けるピアニストが永遠に失われたという表現が、ほんとうにうまいんだもの。それからドラクロワが晩年の10年を費やしたサン=シュルピス教会壁画制作にとりかかる直前のフィナーレ。


一時期、あまりにも仕事から汲む興奮が強烈で、それ以外の感覚が薄れてしまい、体力もどんどん落ちてしまったのが、少しずつ戻ってきた。街なかでかかっている曲を聴いてふと心が弾むようなときや、静かな美術館で過ごしたあとの甘い余韻、最高の映像を見たときの震えるような感動、そういったのがとても久しぶり。嬉しい。