WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『どこか古典派』(著者:中村 紘子)

2011-02-27 16:06:08 | 本と雑誌
どこか古典派(クラシック) (中公文庫) どこか古典派(クラシック) (中公文庫)
価格:¥ 580(税込)
発売日:2002-10

ピアノは、頭や指だけでなくペダルを踏む足先の神経、腕や背中の筋肉、腰、くるぶしと、まさに全身を使う。それが健康によい?のか、コンサートピアニストには90歳、100歳までステージに上がる人もいるという。それに、楽器をやると頭(特に記憶力)が抜群によくなるらしい。私も今後の人生、ずっとピアノを弾くと決めたので(笑)、たとえ練習曲が難しくて気落ちするような時でも、「ステップバイステップ」と自分に言い聞かせながらがんばっている。どんなに難しい曲でも、練習次第で弾けるようになるから不思議で楽しい。


12月にサントリーホールで聴いた中村紘子さんのデビュー50周年コンサートは、すごい迫力だった。


天才的な技量ばかりか美貌、頭脳、それに文才まで、「天は二物を与えず」なんてこの人の場合は当てはまらない、という後書きが多く、それを読んで「恵まれてるなぁ」と誤解する人も多いと思うのだが、それは違う。おそらく凄まじい努力がいろいろなものを支えているのだ。

たとえば、ショパン・コンクールに参加されたとき、食料事情の悪さから体力が落ち、本番の日は高熱をおして演奏。でも、結果日本人初という輝かしい成績をとる。西洋音楽の本場で、アジアの、しかも女性ピアニストなんて認められていない時代だ。プレッシャー・緊張感・体調最悪と3拍子そろった中で、最後まで完全な演奏を通すなんて、とてもなまはんかな意志ではない。


つらいこと大変なこともたくさんあったと思うのに、エッセイでも、それを微塵も感じさせない明るいユーモラスな話題。次は、ご主人の庄司薫氏の本も読んでみよう。


『断腸亭日乗(上)』(著者:永井 荷風)

2011-02-26 19:43:36 | 本と雑誌
摘録 断腸亭日乗〈上〉 (岩波文庫) 摘録 断腸亭日乗〈上〉 (岩波文庫)
価格:¥ 945(税込)
発売日:1987-07-16

「墨東綺譚」ですっかりファンになってしまった私、今度はこの有名なる日記を読んでみた。読書、庭の手入れ、執筆、外食、就寝という規則的な日常生活・・・表現と思想で100年のちまで読む人の心を震わせる言語作品を文学とするならば、この淡々とした普通の生活メモが、最高の文学作品になっているなんて。その凄さにおどろくばかり。


たとえば、驟雨と、一語。それだけで、激しく打ちつける雨足とそのにおいまで感じられる情感に、ムダのない端正さをもった筆致。軍閥が影をおとしつつある世情を嘆き、当時の文壇を大衆に媚びていると痛罵する一方で、次の日のページに「終日、持病の腹痛で、カイロを抱えて寝床に」なんてところを読むと、思わず「愛すべき」と浮かんでしまう。愛すべき、粋な、日本語の美しさを完璧に把握している老文学者。


あいまにきらめくような歴史的出来事(森鴎外逝去、クライスラー来日、有島武郎の心中、関東大震災、芥川龍之介の自殺、谷崎潤一郎と佐藤春夫のスキャンダル・・・すごい)がふとした日々の中の一事として書かれている、上巻は大正6年から昭和11年まで。ほんとに読み終わるのが嫌なばかりに、下巻まで間をあけようと思う。


『三国志(6)』(著者:宮城谷 昌光)

2011-02-20 16:43:32 | 本と雑誌
三国志〈第6巻〉 (文春文庫) 三国志〈第6巻〉 (文春文庫)
価格:¥ 630(税込)
発売日:2010-10-08

映画「レッドクリフ」では、劉備は仁将としてクローズアップされ、孫権は気弱に思い悩む性質、曹操は美女に目のくらむ敵役、という感じに強弱つけて描かれているが、同じ赤壁の戦いの巻、孫権は器量が大きく智仁ともに優れ、曹操は何事にも細やかに人の心と経験を大事にする、二大君主。映画との違いもおもしろいが、宮城谷氏の文章の巧みさ、三国志のような誰もが知っているストーリーではかえって平凡になりがちなところを、人間、何が大事かという一貫した視点にキラリ光る挿話をはさみ、また次が読みたくなる。


学校もメディアもないこの時代は、歴史や兵法について古人の書いた本を読む読書が、唯一の学問。曹操も孫権も、政治や戦のうまい運び方にかかわると知っているだけに、平時はもちろん戦場においてまで本を持ち込み、欠かさない。本を読まない人はバッサリ「あいつは無学だ」といわれてしまう(笑)そんな孫権が、配下の勉強嫌いな勇将2人に読書を強く薦めるくだりが、たしかにと思われて良い。


孟子の名言に、「成せないのは能力が足りないからではなく、成す気持ちがないからだ」というのがあるが、いいことも悪いことも、経験すること、特につらい経験において気づくこと、気づきを次の経験に活かすという強い意思、この3つがあれば、どんな人でも大事を成せる。経験には限界があるが、読書には限りがない。


『三国志(5)』(著者:宮城谷 昌光)

2011-02-14 21:18:58 | 本と雑誌
三国志〈第5巻〉 (文春文庫) 三国志〈第5巻〉 (文春文庫)
価格:¥ 630(税込)
発売日:2010-10-08

2月に入って雪が続いている。今日も夜から降ってきてホワイトバレンタイン。平日は仕事で、週末も家事、ジョギング、ピアノの練習、料理と忙しい上に、寒いので、最近ブログの更新が滞りがち。都心のマンション、室内は寒いわけないのだけれど、パソコンの置いてある部屋に床暖房がないので、ついつい足が遠ざかるのだ。エアコンは嫌いだし、電気であたたかくなるキュートなストーブも買ってみたが、ほかほかと暖かくなった床で読書する楽しみを知ってしまうと、どうしても腰が重くなる。


三国志は今、この次の巻を読み終わるところ。私はだいたい7~8冊を同時並行して読むので、読了後に書かないと、まずい、一気に忘れてしまう(笑)


『謎解きはディナーの後で』 (著者:東川 篤哉)

2011-02-06 17:14:11 | 本と雑誌
謎解きはディナーのあとで 謎解きはディナーのあとで
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2010-09-02

友人から薦められて読んでみた。最初、富豪のドラ息子と、大財閥の令嬢が国立署の警部&刑事というベタベタな設定に、どうなんだと半信半疑で読み始めたが、6つのミステリ、短編なのによくまとまっていて、これが相当おもしろかった。長編は状況や人物描写に紙が割かれるので、ミステリは短編の方がロジックの組み立てが難しく、ストレートに力量がわかってしまうのだ。


一見、何の手がかりもない難事件の解決に悩む令嬢刑事、疲れきって豪邸に帰り、贅沢なディナーの後で年代もののワインを注ぐ若い執事に事件について語る。返ってくる執事のひとこと「ひょっとしてお嬢様はアホでいらっしゃいますか?」


このジャンル、現実的じゃない設定は使わない作家が多い中で、あえてそういうやり方をしてしかも本題の謎解きもちゃんと考えられている、のは珍しい。おもしろくていい気分転換になる本。