WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『輝く日の宮』(著者:丸谷 才一)

2013-02-24 15:27:33 | 本と雑誌
輝く日の宮 (講談社文庫) 輝く日の宮 (講談社文庫)
価格:¥ 770(税込)
発売日:2006-06-15

インターブランド社のランキング発表のため、水曜の夜、帝国ホテルでのレセプションに出席してきた。今年は当社は15パーセントのブランド価値アップを達成し、50億ドルを初めて超えた。これで胸をはってお祝いのワインを飲むことができる。マーケティングや広報、ブランドのスタッフはどの会社も女性が中心になってきた感があるけれど、しかし残念ながらパーティ会場の大部分はまだ男性であった。


いろんな賞をとったこの小説は源氏物語をテーマに、たとえば「雲隠」(光源氏の死を暗示する、タイトルだけで本文なしの巻)のように、主人公の父親の国学者が病気で亡くなるシーンも本文の中からすっぽり隠されるとか、冒頭の文中小説が、初巻「桐壺」のあとに欠落した「かがやく日の宮」の理由を示すとか、構成や伏線にも本家どりのさまざまな仕掛けがこらされていて、千年も前に、おそろしいほど斬新なアイディアと完成度だった源氏物語をあらためて読みたくなる。


主人公は「さう、さうだつたの」「ぢや、さふしませう」など旧かなづかいで表現されたやわらかい感性をもち、だけど精神的もしっかり自立していてカッコいい、美しい日本文学者の女性。若い女性の生活へのみずみずしくこまかな描写も、とても70歳をこえた大先生の書いたとは思えない。そういえば丸谷才一氏、小澤征爾さんの学生時代の英語の先生なそうだ。初めて読んですっかりファンになってしまった。


『「いき」の構造』(著者:九鬼 周造)

2013-02-16 14:34:11 | 本と雑誌
「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫) 「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)
価格:¥ 693(税込)
発売日:1979-09-17

今週、今まで頑張って積み重ねてきた大型案件が一気に峠をこした。金曜は12時をまわってから上機嫌で帰宅、バスタブに入浴剤を落とし、のんびりお湯につかって、体と神経のすみずみまでリラックス。お風呂あがりの肌もしっとりつやつやして、ストレスからいったん(笑)解き放たれた感じ。


うちの会社ではみんなハードワークのせいか、乾燥に加えて暖かい日と寒さの気温アップダウンに疲れた体を直撃され、風邪が猛烈な勢いではやっている。私も週の半ばにのどが腫れてきてあやしくなったけれど、幸いダウンせずにすんだ。昨年は特に後半ひどく体が弱っていたが、今年はぐんぐん体力が回復して嬉しい。


パリに住みハイデガーと親しんだ哲学者、九鬼伯爵の名著。昭和初期に日本に関心をもった西欧人にも大変人気のあったそう。日本それもある一時代の狭く凝縮された美的スタイルである粋(いき)とはいったいどういうものか。その1点だけをいろんな角度から論じていて、異性への媚態、しかし芯に一本、凛と通っている、運命に対して見苦しくもがくことのない、物惜しみもしない、さっぱりした矜持・・・うんうん、日本人なら深くうなずけるキーワードの数々。美意識のありなしは、人生に対する姿勢を大きく変える。


『おはん』(著者:宇野 千代)

2013-02-11 18:27:37 | 本と雑誌
おはん (新潮文庫) おはん (新潮文庫)
価格:¥ 340(税込)
発売日:1975-02-02

昨晩はワインと文庫本片手にソファにまるくなって、フィギュア女子の快挙を見る。SPもフリーも大きなプレッシャーのかかる一発勝負だろうに、最後まで集中を途切れさせない強い精神力。大きなミスもなく終盤をむかえ、気持ちよさそうに伸びやかに手足を伸ばす真央ちゃんの笑顔のかわいらしさ、内面も外見も、日本女子はすごい。機嫌よくぐっすり眠れて、迎えた快晴の気持ちのいい朝、風はまだ冷たいけれど、季節は春に近づいている。嬉しい。


昭和21年から書き始められ、その間にほかの作品の執筆されることなく、ようやく昭和32年に中央公論社から出版された代表作。万事控えめで恨み言の一つも言わない「おはん」と、芸者上がりで気の強く、奪った男は絶対返すものかと執念すら感じさせる「おかよ」の間を、ふらふらゆらゆらと揺れ動く、はんなりした関西弁の「旦那はん」。冷静に読むと、この男の背中を一本どやしつけたくなるストーリーなのだけれど、徳島と大阪と岩国の方言を混じり合わせた、ゆったりして美しい語り口調と、目の前にたち現れてくるような淡い花鳥風月のものの匂いで、不思議、人の情のあわれさや悲しさが心に浸みとおってくる。


さすが、とびっきりの才女である宇野千代が10年間ものあいだに、ひとつの言葉、1行の文章に、美的感性と芸術的表現のありったけを注ぎ込んで、精巧な宝飾品のように掘り込み削り上げたものだもの、「言霊」というものがあるとすると、この作品にはまぎれもなく恐るべき何かが宿っているにちがいない。


『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(著者:村上 春樹、小澤 征爾)

2013-02-10 14:17:37 | 本と雑誌
小澤征爾さんと、音楽について話をする 小澤征爾さんと、音楽について話をする
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-11-30

父親が技術者で、若いころステレオやスピーカーを趣味で作っていたので、私がものごころついた時には週末の午後はずっとレコードがかかっていた。建て替える前の家は古い木造建築の平屋。しかも風通しよく窓や玄関の引き戸をあけているときが多く、今思えば大きくて豊かな音の流れるスピーカー、かなり近所迷惑?だったかもしれない。美空ひばりやクレイジー・キャッツに、ヴェートーベンやチャイコフスキー、シナトラ、ポール・モーリア、「時間がたっても色あせない」という意味のクラッシックなものばかり。


そのあとクラシックを自分で聴くようになったのは、音楽にくわしい人にコンサートに連れて行ってもらってから。今思うと、しろうとにも分かりやすい華やかな曲と、マーラーのシンフォニーのように癖のある壮大な曲、ピアノやチェロのソロが入る美しい協奏曲、色々取り混ぜてバランスよく選んでもらっていた気がする。ピアノを始めてからはひとりで時間のあるときにコンサートにも行くようになり、聴くことも弾くことも新たな楽しみになった。


村上春樹さんはジャズ専門と思っていたら、衝撃のクラシックマニアぶり。バーンスタインを「レニー」、カラヤンを「先生」と言う日本が生んだ世界の大マエストロ、小澤征爾さんと対等に会話が成立しているのがすごい。同じ曲でも星の数ほどある演奏、エディション違いを何度もマニアックに聴き込んでいる上に、きっと耳がいいのだろう、美しい言葉で曲の演奏時の組み立てや表現をリリカルかつ論理的に指摘する。それもインタビューのために聴き込んでいるのではなくて、本当に好きで、日常生活の中に音楽を聴くという習慣がしっかり組み込まれているのである。「良い音楽は純粋な喜びである」バッハから現代まで続く箴言。大好きなグールドの、有名なブラームスの協奏曲第一番(バーンスタインが演奏の前に聴衆に向かって言い訳をしたライブ版)を聴きながら、とても楽しく読んだ。


『羊たちの沈黙(下)』(著者:トマス・ハリス 訳:高見 浩)

2013-02-03 17:21:19 | 本と雑誌
羊たちの沈黙(下) (新潮文庫) 羊たちの沈黙(下) (新潮文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2012-01-28

昨日はインディアン・サマーな暖かい日。そよそよ南風が吹き、日が暮れるのも少しずつ遅くなってきて、これは買い物日和とパソコンを買いに行った。会社のワークシステムにGoogleが導入されてから、自宅のパソコンを使う機会があまりなく、ブログを書いたりamazonで本を買ったりするくらいなので、起動にたっぷり5分、iTunesにいたっては10分以上かかる年代ものでもストレスを感じなかったが、iPhoneのOSアップデートができない。これは困る。


量販店の売り場に行って、パソコンのことなら何でも知ってそうなオタクっぽい店員さんにあれこれたずねること20分、メーカー間の違いやら古いマシンのファイル消去ソフトやら、リサイクルサービス、しまいにはWindowsの世界観まで(笑)、答えられない質問はないのがすごい。私は職業柄くわしそうで実際にはうとい(・・どうしても自分でやらなければいけないもの以外は、人にお願いしたり聞いたりしていままで乗り切ってきた)ので、こういうときには心底、感心してしまう。


買ったらすぐに使いたくなるのが自分でやれる人、でも私は自分でやれないタイプであり(笑)、設定もぐずぐず次の3連休まで延ばすことにし、今のところキラキラ輝くマシンはオブジェとして書斎の机に鎮座している。この下巻を読んでいたら怖いのはわかっているけれど映画のほうもまた見たくなってきた。いや、でも、TVのおっきなスクリーンで見たら夜寝れないかも。来週こそ電源を入れて、動画で見ますか。