WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『宇宙は何でできているのか』(著者:村山 斉)

2010-12-23 16:17:45 | 本と雑誌
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書) 宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2010-09-28

宇宙がビッグバンで生まれてから137億年。誕生から38万年前までは、光や電波をとらえることで見ることができる。でもそれより前は、あまりに熱く、原子が構成されていないのでいくら望遠鏡の精度をあげても見ることができない。時間をかけて、宇宙が冷えて、原子から星ができて、生き物が生まれた。すごい壮大なロマン。


その宇宙は、今でも膨張を加速し続けている。銀河系のすべての星の原子を集めても宇宙のたった0.5%にしかならず、では何が多いのかといえば正体不明の暗黒物質、暗黒エネルギー、ヒグス粒子。このヒグス粒子がなければ、私たちの体をつくっている原子の、原子核の周囲をまわっている電子が質量をなくして、ぜんぶバラバラに飛び散ってしまう。(体が一瞬で、なくなってしまうということ)


宇宙と素粒子物理学、10の27乗メートルという想像できないくらい大きい世界と極限のミクロの世界を行きつ戻りつ、ノーベル賞理論と最新実験結果の解説が、こんなに読みやすくていいのだろうか。子どもの頃にこういう本で啓蒙されていれば、きっと物理も科学も超楽しく勉強できただろうに。今の小学生たちはいいなあ(笑)


『怪帝ナポレオン三世』(著者:鹿島 茂)

2010-12-19 19:04:49 | 本と雑誌
怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫) 怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫)
価格:¥ 1,733(税込)
発売日:2010-10-13

これ、最高。文庫にしては厚めだけれど、展開がおもしろくてスイスイ読めてしまった。


プルーストに、マチルド皇女(ナポレオンの姪)や第2帝政のサロンの話が出てくるので、背景を知りたいなと思ったのだが、ナポレオン三世あってこそ今のパリがあるとは・・・三世=オバカ説は、弾圧された知識人たちの毒舌で作られ、末期の普仏戦争で確立されてしまったイメージだったのね。なんと最先端のアイディアとすごい根気でフランス近代化を成し遂げた名君、知らなかった。(普仏戦争だって、ほとんど無理矢理、戦場に行かされて、突撃による全軍壊滅よりかは捕虜を選んだという、今見れば合理的な選択ではないか)たぶんこの人は、生まれる時代が早すぎたのだ。


『困ります、ファインマンさん』 (著者:R.P.ファインマン 訳:大貫昌子)

2010-12-18 17:15:40 | 本と雑誌
困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫) 困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)
価格:¥ 1,155(税込)
発売日:2001-01-16

11月、12月は担当していた案件が順次、きちんとクローズできてきて、嬉しい。最初から最後まで、なにも問題がなく順調にいく仕事なんて、どこの社会にだってあまりない。だから何かあると「うそでしょ・・・」と言いながら解決法を考え、正面突破したり道を変えたり、がんばって進むのだ。何度も壁にあたると、さすがにお肌が荒れてくるものの(笑)、チームでやっていればいつか必ず、あぁ出来た、と思える日がくる。終わってみれば何でも、いい思い出に変わる。


この本を読みながら、新しいことを学ぶ喜びについて考えた。それから好きだったのは、最初の夫人とのエピソード。短いと分かっていてそれでも結婚した、愛する奥さんとのお別れのときに、この偉大な物理学者が何を思ったか、経験のある人なら泣けてしまうと思う。ほんとに人生の真理が凝縮されている。


『失われた時を求めて〈4〉第二篇 花咲く乙女たちのかげに〈2〉』(著者:マルセル・プルースト 訳:鈴

2010-12-11 16:23:05 | 本と雑誌
失われた時を求めて 4 第二篇 花咲く乙女たちのかげに II (集英社文庫ヘリテージシリーズ) 失われた時を求めて 4  (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2006-05-19

朝食はコンチネンタル・スタイルである。量をたくさん食べると体が重く、一日のうちでいちばん好きな時間帯なのに気分が台なしになるのだ。いつもトーストかクロワッサン、ヨーグルトを小さめのボウルにたっぷり、フルーツ、紅茶で、飽きない。日本人の私、お米のご飯は大好きなのに、朝は食べたくないから不思議。


パリに初めて行ったとき、さんさんと日の差し込むホテルでクロワッサンとカフェオレという王道の朝食、あまりの美味しさに涙ぐみそうになった。(卵料理やハム、ベーコンなども一応は用意されているのだが、ダイニングの隅のワゴンにちんまりと押しやられていて、いかにもフランス的)そのときの印象が強烈すぎて、私のその先、一生の朝食メニューを決定しちゃったのだ、きっと。


昨年から読み始めたプルースト、私にとってパリの朝食と同じくらい素晴らしいインパクトがあった。人生のこの時期に出会えて最高のタイミングだったと思う。同じ作品でも受け止める気持ちや読解力によってだいぶ違うから。4巻目はことにみずみずしい叙情的恋愛観、「恋しているとき、その女の中に私たちの魂の一つの状態を投影しているに過ぎない、だから重要なのは、女の価値ではなくて、魂の状態の深さなのだ」なんていかにもプルースト的ではないか。


『チャイコフスキー・コンクール』(著者:中村 紘子)

2010-12-05 17:24:29 | 本と雑誌
チャイコフスキー・コンクール―ピアニストが聴く現代 (中公文庫) チャイコフスキー・コンクール―ピアニストが聴く現代 (中公文庫)
価格:¥ 720(税込)
発売日:1991-11

先週、うどん好きの知人が教えてくれたカレーうどんの専門店に行った。そのおいしかったこと、私のこれまでのカレーうどんに対する常識が完全にくつがえされた。うどんの歯ざわりと喉ごし。50時間煮込むというルウの深いこくとまろやかさ。薬味のほか余計なものは一切出さない、いさぎよい美意識。その前の週に、過去ベストの参鶏湯を食べたから、2週連続でグルマンなフランス人言うところのjoie de vivreを味わったことになる。


中村紘子さんのエッセイを初めて読んでから、カレー料理を食べると必ず思い出してしまう。あまりにおもしろくて三冊目、第八回チャイコフスキー・コンクールに審査員として1ヶ月参加されたときのエッセイ。コンクール舞台裏から、20世紀後半の音楽界事情まで、鋭くしかもユーモアたっぷりのタッチで描く、大宅壮一ノンフィクション賞の受賞作である。


アマチュアの先生を大量生産してしまう現代の音楽教育システム、その先生たちが各コンクールを渡り歩くツーリストの参加者を育ててしまう悪循環、そんな中で何人かは、19世紀の天才たちとは異なった意味での、超一流の演奏家が生まれてくる、音楽的という表現は、デタラメ・恣意的と対極にある意味、などなど、どれもおもしろく考えさせられる話ばかりだった。今週、中村さんのピアノ・リサイタルで初めて生演奏を聴く。