WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『さよなら快傑黒頭巾』(著者:庄司 薫)

2017-12-24 16:32:25 | 本と雑誌

今週は月曜に銀座でイベントの仕事があり、会場にゲスト用のお花を持って来ていただいたのだが、台車で運ばれてきた色とりどりの花束が何とも華やかで、中村紘子さんのことを思い出した。昨夏、あまりに早く逝かれてしまったピアニスト。数年前に聴いたサントリーホールでの演奏後、ファンがステージ前に駆け寄って差し出した大きな花束を、一瞬「え、私に?」というようにびっくりして、それからふわぁっと、それはそれは美しい大輪のバラみたいな笑顔を浮かべられた。当時60代半ばのはずだけど、はにかんだ少女みたいな素敵な表情に、なんてきれいなんだろうとうっとりしたことを覚えている。

文章には人柄が出るもので、演奏活動のかたわら大宅壮一賞も受賞したプロ顔負けのエッセイは、研ぎ澄まされた理知的な眼差しの中に、明るく、大らかな茶目っ気があふれている。私は大好きで全部愛読。その中村紘子さんが、一作目を読んで文章の艶やかさに会う前から恋に落ちたというご主人の有名な小説「赤頭巾ちゃん」シリーズ。

三作目のこちらは、日比谷高校を卒業した18歳の「薫くん」が飛び入りでお呼ばれしたお兄さんの友人の結婚式での一日を描く。69年春のうららかな赤坂見附、日枝神社の長い静かな石段、夕暮れの銀座ソニービル、ジュークボックスから流れる黛ジュンの歌、二日酔いの自宅前で牛乳配達を待つ黎明の空・・・鮮やかで、みずみずしく、胸がきゅんきゅんくる。これを読了してから前作に戻って読んでいるうち、むしょうに鍵盤を触りたくなった。クリスマスディナーに出かける前に、一曲弾いていこう。


『IT(1)~(4)』(著者:スティーヴン・キング 訳:小尾 芙佐)

2017-12-17 20:53:37 | 本と雑誌

なぜか新幹線や飛行機での移動のとき、キングが読みたくなる。昨年もちょうど今ごろ、東北新幹線でケネディ暗殺×時空トリップがテーマの「11/22/63」に夢中になっていた。今年は11月に奈良に行ったのだが、行く前のある夜、友人と新橋でおいしい鰻を食べての帰り、雑誌を買いたいというのに付き合って本屋に立ち寄った。新刊コーナーに映画化の原作として平積みになっていたのがこれ。

おっ、読みたい。しかしその厚みに思わずたじろぐ。文庫ではゆうに2センチあり、しかもそれが全部で4冊という大長編。まぁ新幹線の道々でつまらなかったらやめればいいやとKindleにダウンロード。そしてキングのこの手のホラーが面白くないわけがなく、品川から出発して紙コップの熱いコーヒーをすすりながら京都まで読みふけった。以前なら旅先の本屋で続編を探しに駆け込むところ、WiFi接続さえあれば、在庫がないとか書店がないとかを心配せずにいくらでも読めるのがKindleのありがたさ。

たぶん全部通したら2000ページ分くらいの長さである。このくらいの長編だと読みながら他の本も併読する習慣が、次の展開が気になって止まらず、脇目もふらずに読み切ってしまった。奈良もとても楽しかったが電車での移動時間の読書もまた楽しい。架空の町デリーに取り憑いた悪魔と、7人の子供たちの戦い。1957年と85年を行き来してまったく読者を飽きさせない重厚感のある軸に加え、枝葉の小さいエピソードが恐怖の連打で後からジワジワきいてくる、それが幾つも重なり合ってめっちゃ怖い。小説の真髄とはこういうもの、読み終わったらなんだかこれだけで体力を使い切った感(笑)


『あじフライを有楽町で』(著者:平松 洋子)

2017-12-16 19:25:06 | 本と雑誌

「スタンフォード式 最高の睡眠」を読んでから、びっくりするほど眠りの質が改善。夏まで苦しんでいた定期的な不眠はどこへやら、枕に頭をのせて10分ほどでぐっすりと深い眠りに落ちる。明け方に脚がつって痛みで飛び起きたり、朝おなかに手をあてるとひんやりしていることもなくなった。(それって体の芯まで冷えているんだそう)
仕事とプライベートのバランスを整えて、ちゃんと休むようにしたこともあるのだが、この本のテクニックはいちいち納得できてトライしやすいのである。

そのひとつが、寝る前にはリラックスするということ。当たり前だけどなかなか実践しずらい。特に平日は会社から仕事のことを考えながら帰宅する。バスタブにつかると眠くなるどころかアイディアがわいてくる。急に気持ちとリズムを切り替えられなかったので、毎晩寝る前にこの本を少しずつ読んだ。すると不思議、ギンギンに冴えていた目がふんわり眠くなってくるではないか。平松さんの簡潔で表情ゆたかな文章がいい。安西水丸氏の巧みにゆるっとしたイラストもいい。

特に表題の「あじフライ」は秀逸。有楽町「キッチン大正軒」での豪快なフライ定食。あじフライのころものつぶつぶを最後にお皿に添えられたキャベツにからめてしっかり食べる。味覚への真摯でストイックなこだわりに引き込まれて、うわ美味しそう、食べたいな、行きたいなと思っているうちに自律神経が切り替わり、ここちいい眠気がやってくる。ページにしおりをはさんでベッドへ。これを幾晩か繰り返し、大事に読み終わり、そうすると読まなくても眠れるようになった。本ってすごい。