WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『花の鎖』(著者:湊 かなえ)

2013-10-13 14:44:34 | 本と雑誌
花の鎖 (文春文庫)花の鎖 (文春文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2013-09-03


9月後半、仕事の山場が4つ重なって帰宅が遅くなった週、「告白」の湊かなえさんが書いたミステリを気分転換に読んだ。頭のなかを切り替えるものがないとうまく寝つけないので、スイッチは少しだけ読書かピアノを聴く。独立した3つのエピソードが実は1つの話なんだと気づく小道具がいくつも、読者の注意深さの程度をはかるように、文中にこっそり隠されているのがうまい。



負けず嫌いで、やると決めたらとことんやる性格のため、勉強がよくできた。うちの親は私が女の子だったせいか、小さいころは成績がよかろうが悪かろうがどこ吹く風で、いい点をとれば点数ではなく努力を誉め、たまに1番でなくても「あっそう」という感じ、私が「塾に行ってみようかな」と言ったところ、「そんな時間があるなら身をいれてちゃんと書道を続けなさい」と叱られたくらいである。



それが高校になると、日曜に電卓片手にいそいそと簿記の試験を受けにいく娘が心配になったのか「行くならこの大学」と指定され、私の行きたかった大学には「絶対に学費を出さない」と大バトルになったのも愛情ゆえか。甘く見ていたら本当に出してもらえなくて愕然としたが(笑)、好きな勉強をしながらちゃんと卒業できたのも、今思えばすこし強情なほどしっかり自立した性格に育ててくれた親のおかげである。女性ミステリ作家ならではの丁寧な味付けで、3エピソードに一貫するのは親の愛情と子どもに対する思いの深さ。いい読後感。




『白痴(下)』(著者:ドストエフスキー 訳:木村 浩)

2013-10-05 18:41:53 | 本と雑誌
白痴 (下巻) (新潮文庫)白痴 (下巻) (新潮文庫)
価格:¥ 882(税込)
発売日:2004-04


先週の金曜、忙しさに一区切りついて、自宅近くのレストランにご機嫌な食事に行った。話しながら子羊のローストを食べていたら、お肉と一緒に舌先をぷっつり噛んでしまい、数日するうちにものすごくひどい口内炎に成長。夏の疲れも出たのか。何をしていても痛い。しゃべるのも一苦労な上に、普段大好きなごはん時、塩炒めや塩焼きは、文字通り傷口に塩がすりこまれている痛さで涙がにじむ。



口内炎のせいで久しぶりにブルーな気持ちになったが、時折、とくだん何の理由もないのに、ああ幸せだなぁと思いがこみ上げるときがある。ドストエフスキーが長年構想をあたため、パーフェクトに純粋な精神をもつ人間として描いた<白痴>のムイシュキン公爵のように。幸運のさじ加減を知らない、あまりにも要領が悪すぎて読みながらもどかしくなるくらいな好人物。文豪トルストイがダイヤモンドと手放しで絶賛し、著者も自分のオール作品中で最も愛した主人公。



それにしてもこの小説の雪崩をうつような終盤からフィナーレは素晴らしい。ええっなんでそうなるの?と思っているうちにグイグイ急展開で物語が進む。恋敵ふたりが刺殺した美女の横たわるかたわらで、とりとめもないことを語り合う最後の夜の会話は、特に詩的なマスターピースである。最近、長編を読む知的体力がなくなってきたのか、読み終わるまで時間がかかったものの、カラマーゾフと同じくらい好き。傑作だ。