WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『罪の声』(著者:塩田 武士)

2017-09-24 16:59:12 | 本と雑誌

先週の祝日、早起きして待ち合わせし、朝の新宿でずっと見たかった「関ケ原」を鑑賞。岡田准一の美男すぎる石田三成に、朝いちばんで熱いブラックコーヒーをすすってもまだぼーっとしていた頭が急にシャッキリ覚醒する(笑)。邦画ではジブリ作品くらいしかスクリーンで見ないのでノーマークだったけれど、この人はとても巧みな演技をする俳優だ。表情筋のすみずみまで徳川家康になりきっている役所広司も素晴らしく、骨太な仕上がり。3時間があっという間に過ぎた。

原作は司馬遼太郎さんの小説。元ジャーナリストだけに、どれも読んで鳥肌がたつくらいすさまじい。私がいちばん好きなのは「坂の上の雲」だが、これも半端ないエネルギーを資料集め、取材、史実検証にかけておられる。膨大な記録を読み込み、歴史の舞台になった山村を実際に訪れてその景色のなかに立ち、事実と選択肢の積み重ねては捨てを繰り返して蒸留されたものを、筆にのせてほとばしらせる。そこで初めて作家の想像力は大きな翼を得るのである。

クオリティの高い日本の出版物ではあまりないかもしれないが、逆にそういったベース作りを欠いて想像のみで語られる歴史作品は、枝葉の広がりがなく薄っぺらい。

この本、歴史小説とはいえないが、日本の犯罪史を一変させた84年の「グリコ・森永事件」がテーマ。これが描きたくて小説家になり、構想15年をかけたという作者の丁寧で緻密な土台作りの結果、一読してノンフィクションかと思わせるくらいの厚み、すごみがある。記録と取材のあいだに小さく入った亀裂から、押し広げられるように解決の糸口に向かっていくスリリングさ。30年経過した事件の主軸に、録音テープに使われた声の子どもの人生という想像力の風合いがからんで広がる、みごとな作品の奥行き。読みだしたら止まらなくなった。一気にがっつり読ませて読後感も爽やか。


『紙の動物園』(著者:ケン・リュウ 訳:古沢 嘉通)

2017-09-16 20:26:18 | 本と雑誌

もう10年ほど前になるが、自宅近くの歩道橋から転がり落ちて鼻をザックリ切り、顔面を血まみれにしてタクシーで中央病院に駆け込んだことがあった。治療のために会社を休んで病院に通う道々、とても雰囲気のいいカフェを発見。入ってみるとこじんまりして静かで、濃いコーヒーの味も良く、何時間でもいられそうな居心地のよさ。マスターのこしらえるナポリタンやめかじきのソテー、ビーフシチューといった洋食が美味しいし、家から歩くと20分ほどの距離なので散歩がてら、傷が治ってからもちょくちょく行くようになった。

今日もちょうど、本を読み終わって外に出たら、またしても雨。今年の夏は雨が多かったなぁ。呼吸器の疾患は雨続きに湿気のもたらすカビのせいだったのか、家のエアコンと、バスルームの換気扇をプロにクリーニングしてもらい、さらにバスタブのエプロンをあけて高圧洗浄してもらった結果、気分がさっぱりしただけでなく、びっくりするほど劇的に症状が改善した。海もビールもおあずけのままに季節が変わってしまい、このところ朝晩はすでに秋の気配。帰り道も雨を含んだ風が冷たい。

著者は中国生まれ、マサチューセッツに住む、ここ最近SFではとても話題の新鋭作家。プログラマー、弁護士でもある。アジアの歴史や社会的・文化的背景を織り込んだたくみな舞台設定のファンタジー7篇。現代人の心の澱を洗い流すような素敵にシズル感のある珠玉ぞろいでどの作品も素晴らしい。表題の「紙の動物園」など、ラスト2ページが切なくて、涙があふれて止まらなくなり、なかなか読み進めることができなかった。今年読む本はほんと外れがなくて心に残る。


『東慶寺花だより』(著者:井上 ひさし)

2017-09-10 20:24:04 | 本と雑誌

体調を戻すためにこの一か月、心掛けて休養とプライベートをしっかり確保する日々を送ってみたら、時間のたつのがゆるやかに感じられ、新鮮な発見だった。今までバタバタ仕事に追われて、うわっもう一週間終わり?とか、ついこの前お正月だったのに今年も半年過ぎるの?とかいう毎日だったのに。近所に新しくできた専門店で、焙煎された芳醇な豆の香りを楽しみながらのんびりと美味しいコーヒーを頂いたり、仕事帰りに書店に立ち寄って新刊を選んだり、スーパーマーケットで食材を買って帰って料理をつくるという大満足な生活で、やっと健康が戻ってきたようだ。

いま送っているような、現代の快適な暮らしよりもいいと言うつもりはないけれど、江戸時代の後半、鎌倉の東慶寺に移り変わる四季が美しいこの本を読んでみると、きっと昔のほうが、ひとの時間に対する感覚はゆっくり流れていたんだなぁと思う。

鎌倉は大好き。ところが恥ずかしながら東慶寺が駆け込み寺とは知らなかった。関東一円、もうどうにも我慢できなくなった妻が旦那から縁を切るために駆け込む。お寺で2年の我慢をすれば離婚が認められるものの、道行の途中で気づかれて連れ戻されたらおしまいだ。今みたいに新幹線とかタクシーのない時代だから大変である。午後、そのへんにちょっと用足しに行くような恰好でふうっと何気なく家を出て、角を曲がった瞬間、脱兎のように走り出し、夜を徹して何十キロも駆け通す。直前で追いつかれそうになったら櫛でもかんざしでも、身につけているものを境内に投げ込めばよし。この時代の離婚は、判子をおした紙1枚で片のつかない必死のドラマ。日本の誇る小説家、井上ひさし氏の洒脱な文章と、優しい人情のにじむ鎌倉の町の佇まいが味わい深い。


『悪いヤツほど出世する』(著者:ジェフリー・フェファー 訳:村井 章子)

2017-09-02 20:32:41 | 本と雑誌

鼻や咳は治まったものの、薬を飲むのを止めたら、息を吸うとき胸がつかえて苦しい。なんだか気管支のすみずみまで腫れて熱をもっているような感じ。振り返るとこの7~8年、毎年必ず、風邪をひくと咳の続くのが続き、しかも年々治るまでに長い時間がかかるようになっている。アレルギー性の喘息か肺炎かも。医師からは、とにかく風邪をひかないようにして、それからお部屋の換気をよくすること、との指示。虫が嫌いで特に夏場は室内を閉め切っていたが、虫を避けるより健康のほうがもちろん大事で、ガンガン窓を開けて風を通す。あ!そういえば、季節家電のフィルター、取り替えようと思いつつそのままになっていた。

サイクルが長くて単価の安い、そして機種ごとにけっこうな種類のあるフィルターは、家電のお店でメーカーから取り寄せるのに電話でのオーダーは受けません、いちど店舗に来てください、というところがほとんどで、さらに当店で家電を買ったお客様のみ対応という場合も多い。どこで買ったか忘れちゃっている上に、受け取るときと2週間ほどはさんで二度行かねばならないのは億劫である。それで、ネットで買えないのかなぁと調べてみたら、びっくり。今やAmazonで何でも売っているではないか。リビングの埋め込み式エアコンのフィルターも、プラズマクラスターのフィルターも、交換したかったお風呂のパーツも、欲しかったステンレス磨きのクリーナーまで売ってる!自宅を一歩も出ることなく、ワンクリックで買えて、しかもプライム会員だから速やかに届く。なんて便利なんだ!思わず大興奮してしまった。

便利といえばもはや片時も手放せなくなってしまったキンドルだが、ひとつの難点は、ネットから落としてきた本をうっかり読み忘れること。これもベストセラーの書評を見たときにダウンロードしてそのままになっていた。部下を気遣い、ビジネスパートナーに敬意をもち、お客様を第一に考える、論理的で冷静で多様性をよしとする、そんな巷にあふれるリーダーシップ論を、グローバル企業CEOの実例をこれでもかと挙げて一刀両断。社会学、心理的考察、豊富なケーススタディでタイトルを立証。その同じCEOたちの著書や評伝、ハウツー本を読んでいると、裏表のギャップが人間らしくておもしろい。