新宿で85年、本を売るということ (メディアファクトリー新書) 価格:¥ 777(税込) 発売日:2013-02-28 |
高校時代、ゲーテも讃えた複式簿記の完璧な左右対称の美しさに目覚め、普通科の授業はそっちのけで勉強に没頭した。同級生がボーイフレンドやメイクや買い物に夢中になるなか、ひとり桁数の多い大きな電卓をしゃかしゃかと楽しげにたたく高校1年の娘に、親はさぞかし気味悪く思っていたに違いない。
しかし困ったのは、先生は書籍だけというザ・独学環境。こういう専門書は東京の大型書店でないと・・・と地元の店員さんの書いてくれたメモを頼りに、てくてくと電車を乗り継いで何度も迷いながら、やっと八重洲ブックセンター本店にたどり着く。入った途端、ライトに照らされた巨大な棚の、上から下までぎっしり本がならべてある店内にどぎもを抜かれて目をみはった。そのときの驚きと、ぱっと視野が洗われたような気持ちよい感覚といったら。わぁ、世界にはこんなに本があるんだ。
以来、神田の三省堂、大学時代は新宿の紀伊国屋にもよく通った。朝、一元目の授業を受けてそのままリターンし、新宿東口の駅の地下にあったこじんまりした喫茶店で、濃くておいしいコーヒーとサンドイッチをかじり、紀伊国屋で本を買う。なんてご機嫌な生活だったんだろう。
という甘いノスタルジーに浸りながら読んだ。洋書と法人への納入が利鞘が大きいのね、今のビルは昭和39年に落成したんだ、名物「じんぶんや」のはじまった由来、・・など、メガストアでも売上ナンバーワンという紀伊国屋書店本店の歴史とビジネスの一端が垣間見える。