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『旅に倦むことなし アンディ・アーヴァインうたの世界』その2

2021-07-16 03:21:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

 次の詩の題名は『マザー・ジョーンズの霊』。これは説明を省き、いきなり詩から紹介します。

「マザー・ジョーンズは亡くなった もうここにはいられなかった
何歳なのか誰も知らなかったけど 自分でよく言っていた
あたしゃ1830年 うるわしのコーク州の生まれだよ と
荒波をわたって ニューヨークにやって来たんだ

マザー・ジョーンズは坑夫たちの天使 謹(つつし)んで接すべし
古風なご婦人 まさかこのお方が
このガウンとボンネットが 金持ちの男を震え上がらせるとは
世間は言った ありゃあアメリカ一 剣吞な女だよ

傘を片手に マザー・ジョーンズが通りを行進する姿が見える
坑夫たちが抵抗すべく立ち上がったラドローで いまもその声が聞こえる
マザー・ジョーンズは言う おいジョン・D どういうつもりだい
警官たちに 子供13人殺させるなんて

ウェストバージニアとコロラドの惨劇でも
マザー・ジョーンズと坑夫たちは 決して屈しなかった
男たちは戦い 死んだ テントで 掘っ立て小屋で
女たちは立った 何ものにも倒せない鋼(はがね)の壁みたいに

マザー・ジョーンズは坑夫たちの天使 謹んで接すべし
古風なご婦人 まさかこのお方が
このガウンとボンネットが 金持ちの男を震え上がらせるとは
世間は言った ありゃあアメリカ一 剣吞な女だよ

次は児童労働の悪だよ とマザー・ジョーンズは言った
工場の子供たちの行進 1903年
フィラデルフィアからニューヨークまで ウォール街を見せてやるんだ
お前ら この肉とこの血を搾ってカネ儲けてるんだぞって

1930年に彼女が亡くなると 深い悲しみが広がった
組合の埋葬地に 横たえられた
真夜中の風がむせぶマウント・オリーヴに 彼女は眠る
立て 組合のために とマザー・ジョーンズの霊は叫ぶ

金持ちと お抱えの警察 牧師連中 新聞社の連中
殺人の罪にも問われず また次の罪も問われない
けれど私たちは 強い組合を作る 私たちは倒されない
私たちは決して忘れない マザー・ジョーンズの霊を」

 次の詩は無政府主義者だったため、無実の罪を着せられて処刑された二コラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティのことを歌った『椅子を前にして』。彼らは1908年、アメリカに移住し、1920年、マサチューセッツのサウス・ブレイントウリーで起きた給料輸送中の護衛ら2名を殺した廉(かど)で逮捕され、世界中で裁判への批判が集中する中、彼らは処刑された。
 ヴァンゼッティは英語が堪能ではなかったにもかかわらず、次のような明快で雄弁な発言をしている。

「もしこのことがなかったら、私は街角で私をさげすむ男たちに語りかけて人生を全うしたかもしれない。何の跡も残さず、知られもせず、落伍者として死んだかもしれない。いま、私たちは落伍者ではない。これが私たちの達成であり、私たちの勝利だ。天寿を全うしたとしても、いま私たちがたまたま為したほどの大きな仕事を、寛容と正義のため、人間の人間に対する理解のために為すことは望めない。私たちの言葉、私たちの命、私たちの痛み、そんなのは何でもない! 私たちの命が━━善き靴職人と貧しい魚売りの命が━━奪われること、それがすべてだ! その最後の瞬間は私たちのものだ。その苦しみこそ私たちの勝利なのだ」

 そして詩です。

「この国に来たのは1908年
ここは自由の地だと思っていた
けれどすぐにわかった 金持ちには金持ちの法があって
私のような貧乏人には別の法がある
世は不景気で 金は乏しかった
私は海のそばで魚を売り歩いた
かつて 迫害を逃れたビルグリムが上陸し
これで自由になったと思った場所で

司法省は共産主義者を一斉検挙していた
そしてある日 階下の歩道で
転落して死んでいるサルセードの死体が発見される
上の方の階の窓から墜ちたのだという
給料輸送の護衛二名が射殺された
世間では共産主義憎悪が最高潮
当局はサッコと私を逮捕し
そしていま私たちは 椅子を前にしている

さようなら 勇気ある同志たち
さようなら スアッソズ・レーン
さようならノース・プリマス さようならボストン・ハーバー
もう君たちには会えない

私たちの陪審 彼らにどんなチャンスがあっただろう
無情な裁判官は 私たちを卑しい輩(やから)と呼び
おおっぴらに言った 「あいつらに電気椅子が相応だ
アカなんだから ほかに何の証拠が要る?」
そうして七年の長きにわたり 私たちは牢獄で惨めに過ごし
再審を求める請求がなされたが
マディロス(真犯人)の告白も
ウェブスター・セイヤー判事の粛清には何ら影響しなかった。

裁判官殿 あなたは鶏を殺した犬だって
いま聞いたような証拠で有罪にはしないはず
なのにあなたは 私たち二人を魔法使い扱いし
危険な言葉を説いたゆえ火あぶりにされるのを平気で見ている
そして裁判官殿 あなたの政府も名まえが違うだけ
不当に犠牲者を出し 事実をごまかし 抑圧することは同じ
誤りを正すこと 悪を正すことを
進歩と考える人も多いのに

(また明日へ続きます……)