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山田詠美『珠玉の短編』その1

2017-10-28 06:22:00 | ノンジャンル
 山田詠美さんの’16年に刊行された本『珠玉の短編』を読みました。11編の短編からなる本です。
『サヴァラン夫人』
 小さい頃からのマリの憧れであった母の友人の夏子さんの本業は精神科の医師でしたが、占い師に転職しました。確かに夏子さんの言葉は説得力に満ちていました。ただ、最初に告げるのです。「どんなものを食べていらっしゃるの? それによって、どんな人であるかが私には解りますよ」。そして「夏子の館」も、「サヴァランの館」と改名され、幼い頃から、夏子さんにまとわり付いていたマリは、急に忙しくなった「サヴァランの館」で手伝いをすることになりました。弟子としての修業の道のりは、まだまだ長く続くでしょうけれど、精進する所存です。がんばって、憧れのサヴァラン道を極めなくては。「食べ物の栄養は食べ物だけでは成り立っている訳ではないのよ。あなたは、ご両親と一緒に家族の平和を食べているの」。この言葉を聞いた途端、、涙が出そうになりました。当然、一番近くにいるマリは、今、夏子さんがどのような食事をしているかを知っていました。彼女は料理を作ることはほとんどなく、近くにある小料理屋に通っていました。店の名は、「わかつき」といいました。店主が若月さんだからです。板前さん独特の清々しい美男子でした。「あの人は、血が澄んでいるという感じがするわね」初めて「わかつき」を訪れた時、夏子さんがそう呟いたのを、マリは聞き逃がしませんでした。夏子さんは、血の澄んでいるらしい男が大の好物なのでした。若月さんと夏子が男女の関係になった日がいつであるかをマリは知っていました。案の定、その日を境に若月さんと夏子さんの親密度は増して行きました。「わかつき」でしか見ることのなかった若月さんの姿を、マリは、サヴァランの館に続く夏子さんの自宅でもたびたび見かけるようになりました。そこでは、お世辞にも上手とは言えない夏子さんの手料理に彼が舌鼓を打っているのでした。ある日、夏子さんはマリを呼んでこう告げました。「マリちゃん、私ね、サヴァランの館を閉めようと思うのよ。ここを閉めて、ワカちゃんの帰りを待つ女になりたいの。お店で、人のために料理を作り続けて疲れたワカちゃんに、おうちで私の手料理を食べさせてあげたいなあって……」。あの、まずい料理を!? なんと迷惑な! マリの頭の中は完全に混乱してしまいました。放り出されたような気持ちで途方に暮れるマリでした。あの人に憧れて、ここまで来たのに。青春を捧げたのに。憎い。仕返ししてやる! 復讐の機会は、いとも簡単に訪れました。それは、恨みをはらすためであると同時に、今でも思うだけで胸が痛くなるくらいにいとしい人であった夏子さんと同じものを食べてみたい、という欲望をまっとうするための行為でした。若月さんは、すぐに誘いに乗りました。女子高生に弱いのは、どの男も同じのようです。「わかつき」のお店で、「夏子さんとも最初はここだったんですか?」マリが冷ややかに問うと、若月さんの顔には怯え切った色があります。「大丈夫です。絶対に言いませんよ」途端にほっとして表情を浮かべる若月さんをながめながら、マリは、ゆっくりと体を起こし、カウンターから降りました。そして跪いて、彼のパンツのジッパーを降ろしました。すると、待ちわびていたかのようにブリーフのゴムの上から膨張した性器が飛び出して来るではありませんか。これから時間をかけて味わうつもりです。サヴァラン夫人二世の誕生も間近です。
『珠玉の短編』」
 そもそもは、某小説雑誌の目次が始まりだったのである。彼女の書いた小説の題名の横に、こんな惹句があったからだ。珠玉の短編------健気に身を寄せ合う兄と妹の運命やいかに……。夏耳漱子が憤るのも無理はなかった。彼女は、凄惨極まりない殺人場面や露骨な性描写を、これでもかこれでもかと畳み掛けるようにして登場させ、しかも、その一部始終を緻密に執拗に描く作風で知られている小説家だったからである。いや、知られているといっても、読後感の不快さ故に良心的読者には敬遠され、一部のマニアたちから熱狂的に支持されるという類の認知度であった。今回の短編も、その熱狂的読者を裏切らない内容であった。兄と妹が獣のような近親相姦の禁忌の快楽に溺れ、それを追求するあまりに、果ては互いの心身を傷付け合い、殺し合い、ついには息絶えることで、誰にも理解し得ない至福を共有し、限りなく愛に近い互いへの思いを完遂する。編集者の玉本に抗議の電話を入れると「今、珠玉の短編って、ほとんど死語じゃないですか。そう考えると、もう気になって気になって、自分の名前の前に玉が付いているというのもあるかもしれません。で、この辺いけるかも、と目を付けた箇所に珠玉という言葉を滑り込ませてるんですよ」(明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto