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吉田修一『悪人』

2008-01-17 15:51:53 | ノンジャンル
 桜庭一樹さんが直木賞を受賞されましたが、桜庭さんて女性だったんですね。ちょっと驚きました。

 ところで、朝日新聞の年末の特集記事「2007年 心に残った一冊」の対談で言及されていた吉田修一さんの「悪人」を読みました。
 生命保険の外交員の石橋佳乃は、出会い系サイトで知り合った祐一と会うつもりで待ち合わせ場所に行きますが、バーで知り合った金持ちの大学生の増尾に偶然に出会い、そちらに乗り換えて、祐一をふります。頭に来た祐一は彼らを追跡し、一人でべらべらしゃべりまくるのに愛想をつかした増尾に山の中で車から蹴り出された佳乃に助けようと近づきますが、「さわらないで。さわったらここまで拉致されてレイプされそうになったと言ってやる」と言われ、証人も誰もいない状況では自分の言い分は誰も信じてくれないだろうと思った祐一は、発作的に佳乃を絞殺してしまいます。その後は、彼らの関係者の証言が次々に語られていきます。増尾の友人で彼と一緒に佳乃に知り合った鶴田公紀。以前ファッションヘルスで勤めていた時に祐一が常連だった金子美保。祐一の幼馴染みの柴田一ニ三。佳乃と出会い系サイトで知り合った42才で独身の塾教師・林完治。
 紳士服の量販店で働く馬込光代は出会い系サイトで知り合った祐一にメールを送り、会うと、祐一はいきなりラブホテルに行き、二人はお互いに本気をメールしていたことを打ち明け、激しいセックスをします。二人は一緒にいたくて車での旅を続きますが、数日後に祐一から光代は人を殺したことを打ち明けられ、自首するという祐一を一緒にもう少し時間を過ごしたいと引き止め、人気のない灯台で生活します。買い物に行っているところを光代は警官に見つかり、派出所に連れて行かれますが、スキを見て逃げ出し、灯台に戻ります。パトカーの列が向かって来るのを見て、祐一はすべて自分が罪をかぶるために、警官が到着した時に、光代の首を絞めていました。
 佳乃の父の佳男は、娘の仇をとるため、増田を襲おうとしますが、自分の悪口を言って笑っている増田とその友人たちの姿を見て馬鹿馬鹿しくなり、彼らに「そうやって、人のこと笑って生きていけばよか」と言い、去って行きます。佳男が家に帰ると、何年も仕事をするのを嫌がっていた妻の里子が理容室の店を明けていました。祐一を育てた祖母の房江は、マスコミや匿名の電話や手紙で集中砲火を浴びますが、以前にスカーフを子供に誉められたことを思い出し、新しいスカーフを買って、生きる勇気を取り戻します。

 最後に救いがあることで、ぐんとこの本の評価が高まりました。以前に読んだ「パーク・ライフ」がつまらなかったので、意外な発見です。また佳男が言う「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕ある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ」という言葉が心に残りました。ただ、残念なのは、ラスト光代が自分が本当に殺されそうになった、と祐一の言う事を丸飲みし、彼の気持ちを汲んでやれないことです。祐一が一人で罪を背負い、可哀想でした。かなり長い小説ですが、読む価値ありです。オススメです。