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ジョージ秋山『銭ゲバ』

2008-01-14 18:35:57 | ノンジャンル
 子供の時に読んで衝撃を受けたマンガ、ジョージ秋山さんの「銭ゲバ」を久しぶりに読みました。
 主人公の風太郎は、その醜い風貌から不幸な子供時代を送り、貧乏なばかりに母を病気で亡くし、唯一親切にしてくれた隣のお兄さんも車上荒らしをしているところを見られたことから撲殺し、金のために大事な人まで殺したことから、これからは銭のために生きてやる、と誓います。
 風太郎はわざと社長の車に当たり怪我をして、社長の屋敷に運び込まれ、それが縁で社長のもとで働くことになりますが、社長の運転手に以前起こした殺人の犯人と見破られ、この運転手を殺して庭に埋めます。そして後任の運転手になり、醜いあざが顔にあり病弱な、社長の下の娘・正美に気に入られます。裏では強盗団と組み、会社の金を奪って、強盗団を皆殺しにするなど悪事を働き、正美と結婚して副社長になると、社長を殺し、社長の上の娘で、風太郎が思いを寄せていた美人の三枝子を強姦し、屋敷に火をつけます。自分が社長になると、正美の醜さをなじり、金のためにお前と結婚したのだ、と折檻し、正美は首を吊ります。
 運転手の骨を見つけた刑事は、風太郎に付きまといますが、風太郎は刑事の息子を車で轢きケガをさせ、身代わりの男に自分とそっくりの顔に整形し、罪を逃れ、3年後に出所してきた身代わりの男も殺します。そこへ三枝子が風太郎の子だという赤ん坊を連れて現れ、これからこの子をあなたと同じように育てて苦しませてやるといいますが、風太郎は赤ん坊も三枝子も殺してしまいます。そしてしつこくつきまとう刑事も車で轢き殺します。
 そして会社の工場が有機水銀を排水に混ぜて川に流し、公害問題が起こりますが、風太郎は工場の操業を止めようとはしません。その頃、たまたま車に乗せてやった女子高生の天真爛漫さに風太郎は恋をし、彼女と付き合いますが、ある日、彼女が急に服を脱ぎ、お金がほしい、と言われ、お前も結局金だったのか、と逆上した風太郎は石で顔を潰し、殺してしまいます。
 そして風太郎は今度は懇意にしている政治家・神に政治家にならないか、と言われ、その気になります。風太郎が殺した刑事の息子に刺されたり、しつこくつきまとう記者くずれの男の殺人の容疑で一時拘置所に入ったりもしますが、結局金の力で選挙に勝って知事になり、神の美しい娘・さおりとも結婚します。そして欲しかったものが全て手に入った今、過去のことを回想し、その結果、彼は自分の頭を拳銃で撃つのでした。遺書には「世の中で正しいのは私で、私の心を守るために私は死ぬ」と書かれていました。

 心の腐った人間ばかりがでてきて、救いがまったくない物語りです。特に風太郎の表情はすさまじく、世の中への恨みのこもった表情は小学生の私を恐れさせるのに十分でした。1ページ1コマとか、2ページぶち抜きの1コマとか、同じ表情のコマを連続させるとか、急にち密な風景画が1ページあるいは2ページにかけて現れたりとか、実験的な手法が数多く見られます。心象風景を見せるために、ページ全体に雨が降るなどの工夫が随所に見られ、そういった点でも面白く読めました。読んだことがない人、以前読んだけれども細部は忘れてしまった人、オススメです。