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あぢさゐ(あじさい)

2016-05-29 10:13:30 | 年中行事・節気・暦
 花の少ない梅雨時に、あぢさゐ(あじさい)の花は目を楽しませてくれます。雨に濡れていよいよ色鮮やかに咲いている姿こそが、あぢさゐの美しさでもあるでしょう。普通は花は雨を嫌うものですが、あぢさゐに限っては雨が似合いますね。何しろ学名のHydrangeaは「水の容器」の意味だというのですから。最近は品種改良された西洋あぢさゐが出回っていますが、実は日本原産の花です。しかし歌に詠まれることは極めて少なく、『万葉集』にはわずかに2首、勅撰和歌集には見当たりません。
 ①言問はぬ木すらあぢさゐ諸茅らが練りの村戸にあざむかえけり (万葉集 773)
 ②あぢさゐの八重咲く如く八つ代にをいませ我が背子見つつ偲ばむ(万葉集 4448)
①は難解な歌ですが、「あぢさゐのように欺かれた」という意味を読み取ることができます。(古典文学の専門家ならもっと丁寧に読むのでしょうが、ネット情報をさも自分で調べたように貼り付けるのは嫌なので、私の力の及ぶ範囲でお許し下さい。)だまされたということを、あぢさゐの花の色が変化することに喩えたものでしょう。②は、右大弁丹比国人真人の邸宅で催された宴席において、彼が石竹の花によそえて客の左大臣橘諸兄を寿ぐ歌を詠んだのに対して、諸兄があぢさゐの花に寄せて応えた歌。あぢさゐが幾重にも咲くように、いつまでも健やかでいて下さい。私は花を見つつあなたを思いましょう、という意味です。当時のあぢさゐが現在のものと同じかどうかはっきりはわかりませんが、あぢさゐの花は、長い間群がるように咲いています。その咲き方に拠って祝福したわけです。これも私たちが知らなかったあぢさゐの花の見方ですね。

 あぢさゐは王朝和歌ではほとんど顧みられませんでしたが、平安時代後期以後は、数は少ないのですが詠まれるようになります。
 ③宵の間の露に咲きそふあぢさゐのよひらぞ月の影に見えける (新撰六帖 2131)
 ④あぢさゐの下葉にすだく螢をばよひらの数のそふかとぞ見る (夫木抄 3351)
 ⑤紫陽草のよひらの八重に見えつるは葉越しの月の影にぞありける(夫木抄 3347)

 共通しているのは、「よひら」という言葉です。これは花弁が、正しくは花弁ではなく萼なのですが、4枚であることを表しています。そして「よひら」の「よひ」が「宵」と同音のため、宵に見るべき花という理解が固定し、螢や露や月と組み合わされて詠まれるのです。同音異義語を活かして歌を詠むことは、現代短歌ではつまらぬ駄洒落と非難されますが、当時は歌人の技の見せ所でしたから、そのような理解が共有されたのでしょう。宵の間ですと、鮮やかな花の色がわからないのではとも思うのですが、それはそれとして、梅雨の合間の月夜に、月影を宿して光る露がすがるあぢさゐの花を、一度御覧になって下さい。


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