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うたことば歳時記

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私の夏の移ろい

2016-05-30 13:01:48 | うたことば歳時記
 夏も卯月の一日(ついたち)に、花色衣脱ぎ捨てて、薄い単衣(ひとえ)に衣更え。暑さはそれほどでもないが、白く眩しい夏衣、空にも白い雲が浮き、いよいよ夏が来たようだ。春と夏との岸隔て、千歳をかねる池の辺の、松を頼りに藤波は、水底深い紫の,色を映して揺れている。遙かに見れば来迎の、弥陀の誓いの雲の色。卯月卯の花咲き初める、卯の花垣は白波か。卯の花月夜に眺めれば、季節外れの雪の色。思わず憂えもどこへやら。
 夏立つしるしの卯の花が、咲けば心は郭公(ほととぎす)。遠く深山(みやま)を出で立って、五月(さつき)五月雨(さみだれ)降るまでは、忍びの丘に隠れ鳴く。早く初音を聞きたいと、連日連夜起き明かし、眠気をさます暁の、一声聞けば夏の月、雲間に隠れる短夜は、早白々と明け初める。古(いにしえ)を恋う声聞けば、過ぎた昔が懐かしい。
 月も照らさぬ闇の中、山郭公の宿と言う、橘の香の漏れくれば、秋の月夜も及ぶまい。昔の人の袖の香を、思い出させる橘の、香りをかげば懐かしく、優しい母を思い出す。散る卯の花を腐らせて、降るは五月雨梅雨の雨、水をはり田に早乙女が、早苗を植える姿なく、今は機械が田植えする。花の少ない梅雨時の、狭庭(さにわ)を一際爽やかに、あぢさゐの花の七変化、水の器のあぢさゐは、洗われるほどに色勝る。
 五月五日の節の日は、泥の沼から引き抜いて、滴も香るあやめ草、蓬(よもぎ)も添えて軒に葺き、積もる憂えの邪気祓う。水かさまさる川辺には、螢の影も今はまれ、星に紛いて飛ぶ様は、遠い昔のこととなる。恋の思いに燃えつつも、声もたてずに堪え忍び、僅か葉末に縋り付き、明日には消える露のごと、螢の命の儚さよ。
 明かりをとれば夏の虫、飛んで火に入る「火」はないが、草子の上を跳び歩き、「らうたきもの」(可愛らしい)と誰か言う。夏も盛りの野山には、分け入ることが出来ぬほど、夏草深く茂り合う。蔭に隠れて深草の、白百合楚々と咲く見ては、見初めし頃の君思う。野辺に咲くのは萱草の、憂えをすぐに忘れ草。摘んで挿してはみるものの、本に効き目があるのやら。
 涙の梅雨が明ける頃、我が撫子の花が咲く。幼い日より慈しみ、育んできた愛し子の、花と咲く日は何時の事。
泥の中から咲き出るは、弥陀の浄土の蓮の花、露遊ばせる蓮葉を、揺らし水面を風わたる。暑さ極まる昼下がり、一天俄にかき曇り、雷鳴天地を轟かす。篠つく雨は程もなく、遠くなる神駆け抜けて、軒端に下がる風鈴の、音夕涼(ゆうすず)の風に聞く。
 日は山の端に傾いて、秋呼ぶという蜩(ひぐらし)の、声涼しげに聞こえくる。宵ともなれば雨後の月、空さりげなくあらわれて、庭の梢や葉の末の、すがる滴に影宿す。夏の終わりの水無月も、かくするうちに末となり、夏越しの祓えの茅の環潜り。暑さはまだまだ厳しいが、御手洗(みたらし)わたる涼風は、明日立つ秋のしるしとか。



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