うたことば歳時記

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鴨の青首

2015-12-02 05:55:14 | うたことば歳時記
 冬の湖沼には沢山の水鳥が飛来し、元気に餌を漁っています。私は特に鳥に詳しいわけではないので、その種類を正確に識別することはできないのですが、真鴨の雄だけはすぐにわかります。なぜなら首から頭にかけて、美しい青色になっているからです。また光の当たり具合や見る角度では深い緑色にも見えます。もっともこの色をしているのはこの冬から春にかけてで、一年中同じ色ではありません。秋に日本に渡来したばかりの頃には、まだはっきりと色変わりしていないこともあるのですが、寒さが厳しくなるにつれて、「生殖羽」と呼ばれる青色になります。そして翌年の夏から秋にかけては、雌とよく似た褐色の目立たない羽に変わるそうです。「そうです」と言うのは、この時期の真鴨は日本にはいないので、私も見たことがないからです。あるいは見たことがあるのかもしれませんが、よく似ていて区別が出来ないので認識できないのかもしれません。
 古人にとってはこの青首の真鴨が余程印象的だったのでしょう。その色が歌に詠まれることがありました。  
 ①柞(ははそ)散る岩間をかづく鴨鳥はおのが青羽ももみぢしにけり (金葉集 秋 251)
  ②鴨のゐる入江の葦は霜枯れておのれのみこそ青葉なりけれ     (千載集 冬 435)
  ③川風のここら冴ゆれば浮き寝する鴨の青羽に霜や置くらん     (堀河院百首 水鳥 1017)
  ④夜もすがらねには鳴くとも水鳥の鴨の青羽は色に出でめや     (続後拾遺 恋 665)
  ⑤冴ゆる夜の氷こぢたる池水に鴨の青羽も霜や置くらん       (続千載 冬 637)  
①には「・・・・水上紅葉といへる事をよめる」という詞書きが添えられています。水に潜る鴨の青首に紅葉の葉がかかって赤くなっている、という意味でしょうか。青首が紅葉のようになるということが今一つピンとは来ないのですが、紅葉の色と青首の色の対比に、歌人は面白さを感じたようです。②はわかりやすい歌で、水辺の葦がみな枯れているのに、鴨の羽だけが青葉のように見えることの対比を詠んでいます。③は、川風かとても冷たいので、浮き寝をする鴨の青羽に霜が置いているのだろうか、という意味。④は忍ぶ恋の歌です。一晩中恋の苦しさに嘆いて泣いても、同じく一晩中鳴いている鴨の羽に青い色がはっきりと表れているように、本心を表に出すことがあるでしょうか、という意味です。少々手が込んだ歌ですね。⑤もわかりやすいでしょう。寒さ厳しい夜、鴨の青い羽にも霜が置くだろう、という意味ですが、青い羽と白い霜を対比させています。しかし実際に真っ白く見えるわけでなく、観念的な空想の歌と言えるでしょう。こうして並べて見ますと、いずれも色に注目し、紅葉・枯れ葦・霜の色との対比に、歌人の意図を読み取ることが出来ます。
 さあ、冬の水辺のバードウォッチングに出かけませんか。鳥に詳しくなくとも、真鴨の雄だけは青首が目立つので、すぐにわかることでしょう。また現在「青首」と言うと、真鴨の肉を指すということですが、青首のゆえに目立って狩猟の対象となるならば、何だかとても切ない気持ちになります。私は食べたくありません。