うたことば歳時記

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氏姓制度の名残の苗字

2015-12-12 21:05:03 | 歴史
氏姓制度の学習は、何回やっても手こずる。教えている自分自身でも自信がない。まして生徒には退屈だったと思う。ただ一つ生徒が面白がったのは、部民制による苗字である。職業部民や伴造の中には、職掌をそのまま氏の名としているものがあり、身近にそのような苗字を見かけるからである。
 そもそも部とは、大王家や豪族に隷属する労働集団のことで、その集団に属する者が部民である。部には、大王家の生活の資を貢納する子代・名代、屯倉を耕作する田部、豪族に隷属する部曲、また特定の職掌によって代々大王家に奉仕する品部などがあった。その品部を統率する官人の集団を伴といい、その伴の首長を伴造という。部の呼称は、律令制の下で戸籍が造られるようになると、単なる個人の姓に過ぎなくなり、苗字として現代に伝えられたわけである。
 部の呼称には職掌を示すものが多く、それがそのまま苗字となって残っているものがあるので、職掌に起源をもつ苗字を拾い出してみよう。

○矢を作る      矢作・矢部

○弓を作る      弓削・弓下・弓部

○衣服を作る     服部・服部・服

○土師器を作る    土師

○陶器を作る     陶部・陶

○狩猟・漁労・飼育  犬養・犬飼・鳥飼・鳥養・鵜飼・猪飼・馬飼・池部

○田の耕作      田部・田辺・田名部・田野辺・多辺

○海産物の貢納    海部・磯部・磯・安住・安曇

○山林での業務    山部・山辺 

○料理を作る     膳・柏・柏葉

○川を渡す      渡・渡部・渡辺

○錦を織る      錦織

○神を祀る      神部・忌部・卜部・占部・中臣

○軍事や警備     物部・大伴・大友・久米          

 個人的なことであるが、私の住んでいた町の駅前に、「はとり屋」という服屋があった。また「服部」と書いて「はっとり」と読む友人がいた。何の脈絡もないことであったが、高校の授業で服をつくる職業部民を「服部」(はとりべ)ということを学んだとき、両者が漸く結びついて納得した思い出がある。大和言葉で「服」を「はとり」と称したのに(「はとり」とは本来は「機(はた)織(おり)」のこと)、「服部」と書いて「はとり・はっとり」と読むのは、「べ」の音が省略されても、「部」の文字が残ったものであることに気づいたのである。これは私にとって新鮮な歴史的感動であった。何しろ苗字の種類がやたらに多い日本のことであるから、上記の苗字を持つ生徒が必ず教室にいるとは限らない。しかし身近なところにそれらの苗字を持つ人を知っていることであろうから、同様な経験をさせることは可能である。そこから難解な氏姓制度も、少しは身近になるのではなかろうか。