新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

4月17日 その2 対日貿易赤字削減を

2019-04-17 16:55:02 | コラム
TAG交渉の2日目に:

共同通信によれば、アメリカ側は2日目に遂に「対日貿易赤字削減」を言い出したそうだ。既に指摘したように現在USTRが置かれている立場では、それを要求せざるを得ないとは予想していた。しかし、我が国の黒字は中国のそれと比較すれば少額であり、全体の数%にしか過ぎないのである。

私はアメリカ側が対アメリカ輸出を減らせと言わんばかりなのは筋が通らないと、1994年1月末までのWeyerhaeuser Japanに在職中から思っていた。やれ自動車の輸出を減らせとか何とか言う前に、自国の対日本向け輸出を如何に増やすかの努力をする方が先決問題だと言いたいのだ。その点についてはこれまでに何度も指摘したことがだ、1990年代初期には全アメリカの会社別対日輸出額の実績では、我が社がボーイング社に遙かに引き離された第2位だったのである。だが、その売上高たるや2,000億円/年前後だったのである。

永年アメリカの会社の一員として対日輸出に励んできた経験からも言えるのだが、日本市場は最終需要家も、中間に立つ総合商社を始めとする輸入業者も、需要家である製造・加工業者も受け入れ基準と品質に対する要求が非常に精密度の程度が高く且つ厳しく、更に価格に対する要求も細かいのである。紙パルプ産業界だけを捉えて言えば、国産紙の高品質に馴れた国内の需要者にはアメリカの大量生産・大量販売の紙の品質では容易に受け入れられなかったのである。

誤解なきよう申し上げておけば、我が国とアメリカとでは「品質の基準が余りにもかけ離れているので、アメリカ市場で通用する質では日本のユーザーの基準には合わないということ」であって、優劣の問題ではないということだ。簡単に言ってしまえば「文化の違い」なのである。その違いに如何にして合わせて我が国の需要家に認めさせるかが勝負の分かれ目なのだ。だが、その基準に合わせるには我が国の需要量が余りに細分化されていて、アメリカの(当時では)大量生産方式にはそこまでの小回りがきかなかったということもあった。解りやすく言えば、当時のアメリカの紙類の生産量は8,000万トン台であり、我が国では3,000万トン台に入った辺りであり、市場の規模に大きな違いがあったということだ。

ここに以前に一度採り上げたことがあるWeyerhaeuser AsiaとWeyerhaeuser Japanの社長を兼務され、日本市場での代表者を2度と合計20年近く経験され、在日アメリカ商工会議所会頭を2期勤められたWilliam Franklin氏が「日本市場における商いはしかるべく日本人同士の歴史ある強固な結びつきの下で行われているので、外国の会社がその結びつきを解いて参入するのは至難の業であると喝破していたこと」を再度申し上げておきたい。第2位になったことがある会社の代表者にして、このような見方をしていたのである。

私は経験上からも言えるのだが、我が国の需要者たちは決してアメリカの製品を頭から拒否しているのではないと思っている。但し、需要者たちは「アメリカ側に自社乃至は自国の製造基準(現実的に言えば“specifications”だが)の固執することなく、我が国の受け入れ基準に合わせてくれれば、喜んで買う」ということを心得ておいて欲しいということだ。例えば、道路の幅が狭い我が国に大型の左ハンドルの車では受け入れる先も需要者も少なかったということ。

私はトランプ大統領が50年も前の日本対アメリカの自動車貿易問題盛んなりし頃には、アメリカで日本車をハンマーで叩いて潰して見せていた事を今でも頭の中に置かれているような「日本製の自動車が数百万台も入ってきている」というような捉え方をされるのが残念でならない。輸出量は170万台程度である。アメリカで現地生産している量の半分にも満たないのだ。それだから、日本市場がアメリカの車をもっと買えというのは解るが、それならば「左ハンドルを止めるから」くらいの決意をお示しになった方が良いかと思うのだ。

ご自身でTPPから離脱されておきながら、農産物等の輸入を増やせというのは私には無理筋だと思えるのだ。デイールをお望みならば、WTOの規定に従ってパッケージで申し入れられるのが同盟国間の穏当な取引ではないのかと思う。安倍総理にしたところで、他ならぬ「ドナルド」の為ならば、一肌お脱ぎになる用意はあるだろうと察しているし、茂木担当大臣にしても円満に事を運びたいとして交渉に望まれたのかと思っている。事は「一方通行」であってはならないと思うのだ。相互に有益であって欲しいのである。


対アメリカのTAG交渉開始

2019-04-17 08:44:58 | コラム
茂木担当大臣はライトハイザー代表に釘を刺した:

日本時間の16日から開始されたこの交渉をTBSの「報道1930」が「日米貿易協議が初会合」と題して採り上げていたのは、敢えてカタカナ語を使って表現すれば、非常にタイムリーだった。だが、名にし負う偏向のTBSでありしかも関口宏の「サンデーモーニング」にも出演する松原耕二が司会とあっては、私としても多少以上厚めのレンズの色眼鏡で見てしまうのだった。昨夜のゲストは中部大学教授・細川昌彦氏(元通産省局長)、早稲田大学教授の中林美恵子氏、明海大学准教授の小谷哲男氏だった。

私は事対アメリカの貿易となれば、細川氏が元通産官僚としてだけではなく、テレビに登場する所謂専門家として第一人者と見ても良いと思うほど評価させて頂いている。その根拠は通産省在籍中にアメリカとの交渉の実務を担当された経験からもアメリカの手の内を熟知されているだけではなく、WTOの規定等にも精通されておられ常に隙がない議論を展開されるからである。昨日は私自身が「アメリカとTAGの交渉が開始された」と題してこの件を採り上げたばかりだったので、大いなる興味を以て「報道1930」を聞くことが出来た。

昨夜も細川氏の発言は出色だった。先ずは茂木担当大臣はライトハイザー代表との通訳だけの会談で「自動車の数量規制には応じないことと、TPPの規定以上の関税引き下げは認めない」と釘を刺された事」を指摘され、更に司会者に対して「マスコミは何かといえば対アメリカの交渉では我が国が劣勢であるというような被害妄想に言及するが、そういうことはない」とズバリと言われた。私はその発言が予め合意した上でのシナリオ通りなのか、細川氏の即興か否かは不明だが「よくぞ言って下さいました」という思いで聞いた。

細川氏の指摘は「WTOの規定からすればアメリカが一方的に牛肉の関税引き下げを要求できないのであり、要求したければパッケージでアメリカ側で何らかの輸入品の関税を引き下げとセットになっていなければならないのだ。その点を茂木大臣がライトハイザー代表に指摘していた。即ち、例えばアメリカ側が自動車にかけている2.5%の関税を25年までにゼロへの引き下げとセットにでもしなければならないのである。」という大事な点を明らかにされたのだった。

彼は更に「アメリカは対中国の交渉を抱え、一方ではカナダとメキシコとのNAFTAに改定案は議会の承認を得ていないという事態を抱えて焦っている。即ち、トランプ大統領は再選を目指す為には貿易問題で何らか具体的な成果を早急に挙げる必要なのである」とも述べておられた。この「アメリカ側には早急に成果を挙げねばならぬ焦りがある」という点では中林教授も小谷准教授も意見が一致していた。

私の偽らざる感想では、テレビ的にはアメリカの政界と議会関連の消息通としてのスター的存在である中林教授は貿易問題については専門外であって細川氏の実務経験に基づく主張に対する介添え役でしかなったという印象。明海大学小谷准教授も一廉の消息通ではあるが、中林教授と同様で対アメリカの貿易問題に関してはお呼びでないようだった。私は対アメリカ貿易を語るのであれば、総合商社には幾らでも実務をいやという程経験した担当者がおられるのではないのかと思うし、アメリカ側の対日輸出の実務を経験した幹部でも招聘すれば面白いのにとも考えていた。

私は細川氏の簡にして要を得たアメリカ側の問題点を指摘された上で、茂木担当大臣がライトハイザー代表に冒頭に釘を刺したという事実を聞かされただけでも価値ある一時だったと思って、敢えてTBSを評価している次第だ。