何でもかんでも「ハラスメント」と表現するのは疑問に感じている:
私には「何とかハラスメント」のような表現は英語の動詞である“harass”または名詞形にした“harassment”の濫用だとしか思えない。いや、カタカナ語の粗製濫造ではないのかとすら言いたくなる。そもそもは、アメリカの企業社会で90年代に入ったかどうかの頃に“sexual harassment”という言い方が現れて、我が本社では副社長が集めた講座が開かれて「セクシュアルハラスメントを犯さないように」との注意があったのだ。
そこで、我が国ではどのような行為/言動がそれに該当するのかとWikipediaに訊いてみた。そこには「セクシャルハラスメント(英語: sexual harassment、セクシュアルハラスメント、セクハラ、性的嫌がらせ)とは性的嫌がらせのことであり、性的言動によって不利益を受けたり、労働環境などが害されたりするハラスメントである」とあった。
実は、これだとその講座があった日に偶々本部にいて、講座から帰ってきた副社長の説明とは大いに違っているのだ。それは、女性の社員に向かって例えば「今日の服装は綺麗だね」とか「今日の髪型は美しいな」とか「体型が良くなったね」などと言えば、それらがharassmentの範疇に入るから注意するようにとの指導だったと聞かされたのだから。要するに「この辺りから注意せよ」というかなり微妙な言動が問題だったのだ。
この段階が所謂「セクハラ」であり、例えば強引に女性の体や胸に触れたとか、極端な例ではキスを迫ったなどと報じられている場合は、某大学の法学部の教授が指摘されたように「犯罪行為」であり、ハラスメントの領域を遙かに逸脱しているのだ。我が国では、その辺の分類も未だ定まっていないように見えるのだが。
そこに、誰がどのように“sexual harassment”を解釈したのか不明だが、有りとあらゆる「他人にとって厄介なこと、心配させること、悩ますこと、攻撃すること、困らせること等々の行為の前に、加害者というかそういう事をする人等を持ってきて「パワーハラスメント」だの「カスタマーハラスメント」だの「マタニティハラスメント」とか「モラルハラスメント」とか「リストラハラスメント」等々のように無数の「ハラスメント」が出来上がっていた。そこには日本ハラスメント協会(JHA)が設立されていた。
この流れを見ると、何らかの迷惑行為・嫌がらせ・示威行為・圧力・叱責・暴言・不当なクレーム等々があった場合に、それらを仕分けして行為に出た者乃至は団体を持ってきて、その後にハラスメントを付けているかのように見えるのだ。私には何故普通に漢字を使った日本語で表現しないで「ハラスメント」のようなカタカナ語を使って一括りにした辺りが理解不能なのだ。もしかして「外来語」で威力を増幅させようとでも企図したのか。
最早時代に取り残されている私などは、アメリカで聞かされたsexual harassmentの内容とは余りにもかけ離れてしまった「ハラスメント」の大量製造には、唯々恐れ入っているだけ。お客が店頭で従業員か店員(今日ではstaffに置き換えられた)向かって不当な暴言を吐くとか、極端な場合には暴力行為に出ることなどを「カスタマーハラスメント」と呼ぶようなことは、最早英語の“harass”が意味する事を遙かに離れている。
「マタニティハラスメント」のような例では、英語の単語を使ったのだろうが、英語としての体を為していないのが残念なのだ。実は厳密に言えば「パワーハラスメント」等も間違っても英語だと思って使わないことが望ましいとすら思っている。何でもかんでも上記の“harassment”の範疇に入ると考えて「ハラスメント」で括らないことが望ましいと、私は考えている。
何故そう言うかを、ここで英語の文法に立ち返って考えて見よう。“power harassment”は「上司乃至は上位にある者がその指揮下にある部下または従業員を(厳しく)叱責すること」なのだろうが、それなれば“harassment by superior”か“harassed by boss”のような語順にせねば意味を為さないと思う。「カスハラ」では“harassment by customer”にしましょうと提案したくなってしまう。「マタニティハラスメント」となると「母である事がいやがらせをしていること」になってしまう。困ったことは“maternity”は形容詞なので、ハラスメントの加害者(行為者)にはならないのだ。
気になっていることは、“sexual harassment”が我が国に伝来した時に、sexualが形容詞である事を忘れたか知らなかったようで「ハラスメント」をした主語であると見たようであること。だから「~ハラスメント」という表現を作る際に「カスタマーハラスメント」のように語順が逆になってしまったようだ。どんな場合でも「ハラスメント」を白に付けていれば良いという事にはならない。
「一寸くらい英語が解るからといって、偉そうに屁理屈を言うな」という声はもう聞こえてきている。そう言われる事くらいは承知で言っているのだから。今日まで主張し続けてきたことは「カタカナ語を幾らでも作り上げて使われることを阻止するつもりなどない。だが、圧倒的多数のカタカナ語というかカタカナで表記されている言葉は、英語としては通用しませんよ」なのである。
であるから、何も「ハラスメント」などと言わずに「お客様の不当行為」であるとか「上司による地位または職権濫用の粗暴な叱責」のように普通の日本語にすれば、意のある所を表現できるのではないかと言いたいのだ。もしかすると「カタカナ語にして表現すること」に権威を見出しているのかと、残念に思っている。