労働人口の不足とトランプ政治対策:
都下多摩市唐木田のビル火災のニュースを見て極めて印象深かったことがあった。それは作業員が320名だったと多かったことで、その中の大多数が現場から避難して屋外にいたのには、建築の現場を知らない私には「それほど沢山いたのか」と寧ろ驚かされた。今日都内にはビルの解体までを含めれば国立競技場のような大規模なものを筆頭に無数の現場があると思っている。そこには高度な技術や熟練が必要となる職種から単純労働まで、色々な人員が必要になると思っている。
そこには膨大な数の人手必要になっていると考えている。だが、ある調査によれば最も人手不足である業種の最上位にあるのが建設業と運輸・運送業だった。現に我が家の近所で解体されつつあった個人住宅の現場にいたのは、明らかにアフリカ系か中近東の顔付きをした労務者だった。耐震構造の問題もあるのだろうか、ここ百人町から高田馬場方面にかけても中小のビル解体と新築の現場が多くなっている。他人事かも知れないが、都内でこれだけ人手を吸収しては西日本の大豪雨による災害の復旧工事にまで手が回るのだろうかと考え込んでしまうのだ。
我が国の人口は、これまでに何度か触れてきたが、私がリタイヤーした1994年頃には1億2,600万人強と認識していたし、アメリカは2億6,000万人と思って常に計算の基礎にしていた。それが、あれから四半世紀ほどを経た現在では我が国は微減傾向を維持し(?)、アメリカは6,000万人増の3億2,000万人に達していた。簡単に言えば、我が国のGDPが伸びない訳であり、アメリカは伸びることが可能だったと言うことだ、仮令その増加分が非合法をも含めて移民が大部分であっても。
それだからこそ、安倍総理は1,000万人の外国人労働者を入れることを唱えておられるのも無理からぬ事態だとは理解している。だが、異論は当然のように多いし、私も異論派の一人だと思っている。だが、経済成長が低迷している事態の陰には、人口が増えるどころか減少しているのでは、何ともならない。私は確たることを言うだけの知識も理論も持ち合わせていないが、技能実習生だかの滞在期限を5年と制限したり家族を呼んではならないという条件では、供給する側の諸国には魅力が薄れると思ってしまう。
そこに昨夜(と言っても実際には28日の朝3時半だったが)の「朝まで生テレビ」を眠れぬままというか早く目が覚めてしまったので、ボンヤリと聞いてしまった。中でも半ば感心して聞いたのが乃村工藝社長のデイヴィッド・アトキンソン氏(UKの出身だったそうだ)の見事な日本語による「人口減少対策論」だった。近頃は本当に見事な日本語を操る津外国人が増えたが、アトキンソン氏のそれはその中でも出色であると思う。
彼の指摘は「日本の人口は何れは1億にまで減少してしまうのであるから、現在の人口に備えてある生産設備が過剰になるのは明らかだ。従って、日本は今ではGDPに占める率が一桁である輸出を促進すべきだ」と設備過剰対策としての輸出強化を唱えていた。実際に私程度が知る限りでも、我が国の輸出依存度は低く、内需依存型の経済なのである。その点ではアメリカだった同様だ。だが、現実には為替レートの問題もあれば、世界全体が過剰設備を抱えている時期に、おいそれと輸出の増強が可能かと訊かれれば「難しいでしょう」と答えたくなる。
その輸出だが、当然のようにトランプ大統領が仕掛けた対中国の貿易戦争であるとか、WTOへの提訴の件も話題に上っていた。私は我が国有数の有識者、理論派の国会議員、ジャーナリストの方々のご高見を大いなる興味と関心を持って聞いていた。我が国から輸出される自動車に25%の関税をかけることの理不尽さに対する批判も聞けた。「トランプ大統領のやることは30秒先でも読めない」という表現も聞けた。私は最早大して信頼していない田原総一朗が「対トランプ大統領の交渉は安倍総理が行うべき」と大声で言ったのが面白かったと思えた。
私はここでも考え込まされた問題に「トランプ大統領は本当に国際的な貿易の実態と歴史に通暁されて言っておられるのかどうか」という就任以前からの疑問だった。あるいは何もかもご承知かも知れない。あるいは「アメリカファースト」の前には何物もないのかも知れない。あるいは事の実態よりも表面に出て来た数字乃至は赤字か黒字かだけを見て強硬姿勢に出ておられるのかも知れない。あるい既存の古きシステムや慣行を打破して新たな秩序を構築される狙いかも知れないのだ。そこが読めないのが難しいのだ、何分に30秒先だって読めないのだそうだから。