石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計レポート2010年版解説シリーズ:石油+天然ガス篇(1)

2010-07-23 | その他

(注)本シリーズ1~3は「マイライブラリー」に一括掲載されています。

BPの「BP Statistical Report of World Energy 2010」をもとに本シリーズではこれまで石油及び天然ガスの埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したが、最後に石油と天然ガスを合わせた形でその埋蔵量、生産量及び消費量についての解説を試みる。なお天然ガスから石油への換算率は10億立方メートル=629万バレル(1兆立方メートル=62.9億バレル)である。

1.世界の石油と天然ガスの埋蔵量

(1)2009年末の石油と天然ガスの合計埋蔵量

 2009年末の世界の石油の埋蔵量は1兆3,331億バレルであるが、これに対して天然ガスの埋蔵量は188兆立方メートル(以下㎥)であり、これは石油に換算すると1兆1,793億バレルとなり、石油の埋蔵量は天然ガスよりやや多いことがわかる。両者を合わせた合計埋蔵量は2兆5,124億バレルとなる。

  これを地域別に見ると(上図参照。拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-1-96aO&GReserveByRegion.gif)、中東は、1兆2,330億バレルであり、世界全体の埋蔵量の半分(49%)を占めている。次いで欧州・ユーラシアが5,340億バレル(21%)であり、この両地域で世界の埋蔵量の7割を占めている。その他の地域については中南米2,500億バレル(10%)、アフリカ2,200億バレル(9%)、アジア・大洋州1,440億バレル(6%)であり、北米は最も少ない1,310億バレル(5%)となっている。

  本シリーズの石油篇及び天然ガス篇で触れたそれぞれの地域別埋蔵量と比較すると、中東は石油埋蔵量が全世界の57%を占めているが、天然ガスのそれは40%である。これに対して欧州・ユーラシアの石油と天然ガスの埋蔵量はそれぞれ全世界の10%及び34%であり、天然ガスが石油の3倍あり、中東とは逆の様相を示している。

(2)国別埋蔵量(上位20カ国)

 埋蔵量を国別に見ると(詳細は表「石油・天然ガスの合計埋蔵量上位20カ国(2009年末)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-1-96aO&GReserveByCountry.xps参照)、原油と天然ガスの合計埋蔵量が最も多い国はロシアの3,534億バレル(以下いずれも石油換算)であり、世界全体の14%を占めている。ロシアは石油埋蔵量では世界7位(742億バレル)であるが、天然ガスの埋蔵量(44兆㎥、石油換算2,792億バレル)が非常に多いため合計埋蔵量では世界一となっている。2位と3位はそれぞれイラン及びサウジアラビアで、両国の埋蔵量はイラン3,239億バレル、サウジアラビア3,144億バレルである。サウジアラビアは石油埋蔵量(2,646億バレル)が世界1位であるが、天然ガスは石油の5分の1弱(石油換算498億バレル)であり、一方イランは石油の埋蔵量は1,376億バレルに対して天然ガスの埋蔵量は石油換算1,862億バレルで合計埋蔵量ではサウジアラビアより若干多い。

  これら3カ国に続くのがベネズエラである(2,080億バレル、内訳:石油1,723億バレル、天然ガス5.7兆㎥)。第5位はカタールであり、同国の場合石油の埋蔵量(268億バレル、世界13位)に対し、天然ガスは世界3位の25兆㎥(石油換算1,596億バレル)を有しているため、合計埋蔵量では世界第5位である。これら上位5カ国だけで世界シェア合計は5割を超え、石油及び天然ガス資源が一部の国に偏在していることがわかる。

  6位から10位まではUAE(石油換算合計1,382億バレル、以下同じ)、イラク(同1,349億バレル)、クウェイト(同1,127億バレル)、米国(同720億バレル)、ナイジェリア(同702億バレル)と続いている。クウェイトは石油こそ世界第5位の埋蔵量(1,015億バレル)であるが、天然ガスの埋蔵量は可成り少なく世界19位である。

  これら上位10カ国の世界シェア合計は76%であり、世界の石油・天然ガス埋蔵量の4分の3をこれら10カ国が握っている。

(3)可採年数の推移

 2009年末の石油と天然ガス全体の可採年数は52年である。石油の可採年数46年よりも長く、天然ガスの61年よりは短い。1980年以降2009年末までの推移をみると(詳細はグラフ「石油と天然ガスの可採年数(1980~2009年)http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-1-96bOil&GasRP1980-2009.gif 参照」)、1980年の可採年数は37年であった。この年の石油の可採年数は29年であり天然ガスの57年のほぼ2分の1であった。当時は天然ガスに比べ石油の生産量が格段に多かったため石油と天然ガスを合わせた可採年数は石油に近い数値となっている。その後80年代は石油の可採年数の増加に歩調をあわせ80年代末には可採年数は50年に延びている。

  90年代以降2007年末までは石油の可採年数は40年強の横ばい状態であり、一方天然ガスの可採年数は2001年に69年のピークに達したあと最近4年間は61年で推移している。その結果1900年以降の石油と天然ガスを合わせた可採年数はほぼ50年前後で推移している。ここ3年間で見ると2007年の可採年数49年であった可採年数は、08年に51年、09年にはさらに52年に伸びている。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月23日)

2010-07-23 | 今日のニュース
・原油価格77ドルに。
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月21日)

2010-07-21 | 今日のニュース

・IEA:中国のエネルギー消費量は世界一。中国当局は否定。

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月20日)

2010-07-20 | 今日のニュース

・イラン革命防衛隊、South Parsガス田開発から撤退。理由は不明。

 

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(3)

2010-07-19 | 中東諸国の動向

パイロットのもう一つの敵

 空を自由に飛び回りたいと言う人間の本能的欲求を現実のものにするのがパイロットである。パイロットが昔から男たちの憧れる花形の職業であったことは洋の東西を問わない。特に戦闘機のパイロットは祖国防衛、敵との交戦と言う愛国心と闘争本能が加わり一層花がある。日本の零戦、ドイツのメッサーシュミットとそのパイロット達は敗戦後もなお国民の郷愁をかきたてる英雄である。戦勝国の米国が作る戦争映画でも日独の戦闘機パイロットが悪役にされた映画は無い。地上戦で敵国の将軍や兵隊が冷酷極まりない悪人として描かれているのとは対照的である。

  イスラエルでも空軍パイロットは憧れの的だ。彼らは度重なる中東戦争で大活躍し祖国の勝利に貢献した。しかし21世紀に入るとその風向きが変わり始めた。20世紀前半の第一次、第二次世界大戦は国家間及び大陸間の戦争として戦闘機が主役となった。第二次大戦後の東西冷戦下でも朝鮮戦争、ベトナム戦争など世界各地で米国とソ連がバックアップする国家間の紛争が続発、そこでは戦闘機の性能が競われた。ところが21世紀は国家間の紛争は局地的なものとなり、代わって宗教色の強いテロ活動、即ちイスラム・テロ活動が世界各国に頻発した。

  テロ活動は多くの場合、人口が密集した都市部で発生する。テロ組織も一般市民を装って日常活動を行う。しかも活動拠点が常に移動する。戦闘機は敵国の首都、空港、軍需工場など目標の所在が明確な施設を迅速に爆撃することが得意である。しかし頻繁に移動するテロの軍事拠点或いは都市に潜むテロ組織幹部に対する急襲などは治安部隊など地上軍の出番である。空軍が出動するとしてもアパッチ型ヘリコプターによるロケット砲攻撃がせいぜいであり、スピードが速いだけで全く小回りが利かない戦闘機の出る幕はない。

  21世紀に入り出番の無くなった戦闘機とパイロット達はイスラエル軍の中で次第に厄介者扱いされるようになった。実は彼らにも一度だけ出撃のチャンスがあった。2003年のイラク解放戦争である。イスラエル政府と軍部はイラク解放軍への参加を米国に打診した。しかし当時のブッシュ政権は親イスラエル色が強かったが、世界世論の手前イスラエルの申し出をやんわりと断った。解放戦争が始まって間もなくイラクのフセインはスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んで挑発した。イラクのミサイルはイスラエル占領地のヨルダン川西岸に着弾しただけで被害と言えるほどのものは何もなかったが、イスラエルにとってはそんなことは問題ではない。口実さえあれば敵を徹底的に叩くのがイスラエル流のやり方である。空軍は直ちに応戦体制を敷き、戦闘機のパイロット達はバグダッド空襲に勇み立った。

  しかしこの時も米国はイスラエルの反撃を許さなかった。もしイスラエルの参戦を認めれば「独裁者からのイラク解放」と言う大義名分で同盟軍に参加させたパキスタンなどのイスラム諸国、或いは陸上部隊の自国通過を認めたサウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国から反発を受けることが明らかだったからである。

  こうしてイスラエル空軍のパイロットたちはCNNテレビでバグダッド空襲の実況中継を眺めるだけであった。戦闘機から発射されたミサイルが目標に向かって真っすぐ突っ込む様子、そして上空で目標攻撃の瞬間をとらえた偵察機からの映像をCNNは繰り返し放映した。テレビ・ゲームのように見えて実はゲームではない本当の戦争が行われているのであるが、それはバグダッド市民以外は誰も痛みを感じない世界であった。

  さらにイスラエル国内に戦闘機部隊を無用の長物とみなす意見が拡がっていた。現在の主力戦闘機F15、F16は既にかなり老朽化している。イスラエル空軍は米国が開発した最新鋭超音速戦闘機F22、通称ステルス戦闘機ラプターがのどから手が出るほど欲しかった。ステルスなら敵のレーダーや赤外線追尾装置に捕まる可能性が低い。ラプターを開発した米国メーカーもユダヤロビーと結託してイスラエルへの輸出を政府に働きかけた。イスラエルの隣国サウジアラビアもラプター導入に熱心であった。こちらはオイルマネーをちらつかせ、米国の言い値で購入すると持ちかけた。ラプターは1機2億ドル以上もする超高値であるが、サウジアラビアにとってはたいした出費ではない。

  しかし米国の兵器輸出には一つの鉄則がある。最新兵器は常にイスラエルが中東で最初の顧客で無ければならないという鉄則である。ユダヤロビーは米国製最新兵器がイスラエルよりも先にアラブ諸国に渡ることを決して許さないのである。まずイスラエルが導入すればその後米国議会はサウジアラビアなどアラブ諸国への輸出を承認する。それは米国兵器産業を支援することになり、また競争相手のフランスやロシアを阻止するためでもある。しかし今のイスラエルにはラプターを導入する財政的余裕がない。

  現在のイスラエルはハマスやヒズボラーなどイスラム過激派組織と間断のない戦いを強いられ戦費は増える一方である。国防予算がGDPの8%以上を占め財政を圧迫している。半世紀以上続く準戦時体制で一般国民も嫌気がさし始めている。1機2億ドルもするステルス戦闘機の購入に国民は拒否反応を示したのである。

  さらにイスラエル空軍パイロットを脅かすもう一つの兆候がイスラエル国内にもあった。無人爆撃機の開発である。IT産業の発達したイスラエルではIT技術を軍需産業に応用する研究も盛んである。その一つとしてパイロットを必要としない低コストの無人爆撃機の開発が進められ、既に実用化段階に達しつつあった。そうなれば空軍の戦闘機部隊はIT技術者と整備士が基幹要員となる。パイロットは地上戦の負傷兵を病院に搬送するためのヘリコプター要員だけで十分であり、戦闘機のパイロットはお払い箱である。

  戦闘機による有人爆撃は無用のものとなりつつあった。中東戦争で活躍し今は指導教官となっている先輩パイロットはもとより現役パイロット達の焦りの色は濃くなり、戦闘機部隊の存在感をアピールする必要があった。今回のイラン空爆は焦燥に駆られた空軍のごり押しとも言える作戦計画の結果であった。幹部の中には今回のイラン作戦が最期の有人爆撃になるかもしれないと覚悟した者もいたのである。

(続く)

(この物語はフィクションです。)

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BPエネルギー統計2010年版解説シリーズ:天然ガス篇(6)

2010-07-18 | その他

(注)本シリーズ1~6は「マイライブラリー」に一括掲載されています。

BPが毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2010」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

6.世界の天然ガス貿易(その3):パイプラインとLNGの比較

(1)天然ガス貿易の推移(1997~2009年)

  パイプライン及びLNGによる天然ガスの合計貿易量は1997年にはパイプラインによるものが3,220億立方米(以下㎥)、LNGが1,110億㎥の合計4,330億㎥であり、パイプラインとLNGの比率はほぼ3:1の割合であった。この後、天然ガスの貿易は年率5%を超える伸びを示し、2000年には5,000億㎥、2005年には7,000億㎥、2008年に8,000億㎥を超え、2009年には8,770億㎥に達している。

  1997年当時に比べ天然ガス貿易全体では2倍強に増加しているが、近年はLNGによる貿易の伸びが大きく2007年には全貿易量に占めるLNGの比率は3割近くに上がった。但し2008年、2009年はパイプライン輸出の対前年比伸び率がLNGの伸び率を上回っている。(上図「天然ガス貿易:パイプライン vs LNG(1997~2009年)」。なお拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-91aGasTradePlvsLNG(19.gif 参照)

(2)主要な天然ガス輸出国(2009年)

  パイプラインとLNGを合わせた天然ガスの輸出が最も多いのはロシアの1,831億㎥(世界シェア21%)であり、第2位ノルウェー(989億㎥、シェア11%)の2倍近くに達している。ロシアは極東のサハリンで新たにLNGの出荷を始めたため前年より大幅に伸びている。

  第3位の輸出国はカナダであり、同国はパイプラインにより922億㎥を輸出している。続くカタールは輸出量682億㎥(内訳、パイプライン188億㎥、LNG495億㎥)である。第5位のアルジェリアは527億㎥(内訳、パイプライン318億㎥、LNG209億㎥)を輸出している。同国はパイプラインとLNG輸出のバランスが取れており、他国の輸出がパイプライン又はLNGのいずれかに偏重していることに比べ特徴的である。ロシアからアルジェリアまでの上位5カ国で天然ガスの全貿易量の57%を占めている。

  6位以下10位までは、オランダ497億㎥(全量パイプライン)、インドネシア357億㎥(パイプライン97億㎥、LNG260億㎥)、マレーシア307億㎥(パイプライン12億㎥、LNG295億㎥)、米国303億㎥(パイプライン295億㎥、LNG9億㎥)、ナイジェリア243億㎥(全量LNG)となっている。(詳細は「天然ガス輸出国Top20(パイプライン+LNG合計、2009年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-3-96cGasExpPl+Lng2010.xps 参照)

(3)主要な天然ガス輸入国(2009年)

 パイプラインとLNGを合わせた天然ガスの輸入が最も多いのは米国で、パイプラインによる輸入930億㎥、LNG輸入128億㎥の合計1,058億㎥である。続く2位はドイツ888億㎥、3位は日本859億㎥であり、前者は全量パイプライン、後者は全量LNGによる輸入である。但し米国は303億㎥(前述)、ドイツは128億㎥を輸出しており、これを差し引くと日本が世界一の天然ガス輸入国と言うことになる。

  4位から7位まではパイプラインとLNGの二本立ての輸入を行っており、4位イタリア(総量693億㎥、内訳:パイプライン664億㎥、LNG29億㎥)、5位フランス(同、491億㎥、360億㎥、131億㎥)、6位英国(同411億㎥、309億㎥、103億㎥)、7位スペイン(同360億㎥、90億㎥、270億㎥)の順となっている。8位は韓国(全量LNG)、9位トルコ、10位ロシアであり、このように輸入国上位10カ国のうち6カ国は西欧諸国である。(詳細は「天然ガス輸入国上位20カ国(パイプライン+LNG合計、2009年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-3-97cGasImporPl+Lng2010.xps 参照)

 (天然ガス篇完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月18日)

2010-07-18 | 今日のニュース

・BP、海底の原油漏出部にキャップ。封じ込めに成功か?

・カタール、世界最大のLNG船モーザ号が日本向けに出航

  *

*レポート「シェールガス、カタールを走らす」参照 

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BPエネルギー統計2010年版解説シリーズ:天然ガス篇(5)

2010-07-17 | その他

(注)本シリーズ1~6は「マイライブラリー」に一括掲載されています。

BPが毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2010」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

5.世界の天然ガス貿易(その2):LNGによる輸出入

 1964年、アルジェリアからフランス向けを皮切りに始まったLNG貿易は、近年輸出国、輸入国及び貿易量それぞれの面で急速に拡大している。2009年のLNG輸出国の数は18カ国、輸入国は22カ国に上り、それらの国々が取引したLNGの総量は2,428億立方米(以下㎥)に達した。貿易国のうち米国及びベルギーは輸出・輸入双方の実績があるため、実際にLNG貿易に関与している国の数は38カ国となる。前年の2008年は32カ国であったため過去1年間で6カ国増加しており、LNG貿易に関与する国が年々増加していることがわかる。

  まず輸出面で見ると、最大のLNG輸出国は中東のカタールであり、同国は昨年1年間で495億㎥を輸出、世界全体の輸出量の20%を占めている。これに続くのがマレーシアの295億㎥(シェア12%)、第3位がインドネシアの260億㎥(同11%)、第4位オーストラリア243億㎥(同10%)である。これら上位4カ国で世界のLNG輸出の53%を占めている。5位以下はアルジェリア209億㎥、トリニダード・トバゴ198億㎥、ナイジェリア160億㎥、エジプト128億㎥、オマーン116億㎥となっており、以上の10カ国が年間輸出量100億㎥を超える国である。そのほかにLNGを輸出している国々はブルネイ、UAE、ロシア、エクアトール・ギニア、ノルウェー、米国、リビア、イエメン及びベルギーがある。ロシアとイエメンは今回新たにLNG輸出国として登場した。なおベルギーはLNG製造設備を持っておらず、カタールから輸入したLNGをクウェイト等へスポットで再輸出したものである。(「国別LNG輸出量(2009年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-3-96bLngExport2009.xps参照)

  次にLNGの輸入を国別で見ると、最大の輸入国は日本である(上図参照)。日本の2009年の輸入量は859億㎥で世界全体の35%を占めている。第2位は韓国の343億㎥(シェア14%)、第3位はスペイン270億㎥(シェア11%)であり、これら3カ国だけで世界のLNG輸入の6割に達する。3カ国に続くのが、フランス(131億㎥)、米国(128億㎥)、インド(126億㎥)、台湾(118億㎥)、英国(103億㎥)であり、以上8カ国が年間輸入量100億㎥を超えている。このほかLNGを輸入している国は、中国、ベルギー、トルコ、メキシコ、イタリア、ポルトガル、カナダ、アルゼンチン、クウェイト、プエルトリコ、ギリシャ、チリ、ドミニカ、ブラジルなどである。(「国別LNG輸入量(2009年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-3-97bLngImport2009.xps参照)

  LNG貿易には輸出国におけるガス液化及び出荷設備の建設、LNG運搬船建造さらには輸入国におけるLNG受入設備および再ガス化設備の建設に巨額の投資が必要であるため、これまで普及のペースは遅かった。しかし天然ガスは石油や石炭に比べて環境負荷が低いとしてその評価が高まっており、また世界各国に出荷あるいは受入設備が次々と完成して、LNGのサプライ・チェーンが整備されつつある。LNG出荷設備の新設が輸入国の増加をもたらし、また受入設備の増強により、新たにLNG輸出に参入する国が生まれるなど、LNG貿易拡大の好循環が始まっている。これによってLNG貿易は今後安定的に拡大するものと思われる。さらに輸出入国の数が増えることにより、スポット市場も成長するため、今後国際的なLNG取引がますます盛んになることは間違いないであろう。

  LNG貿易の拡大を1997年と2009年で比較すると、量的側面では1997年に1,113億㎥であった輸出入量は、2009年には2倍強の2,428億㎥に増加している。また輸出国の数は1997年には9カ国であったものが、2009年には2倍の18カ国に達している。1997年当時は国別輸出量ではインドネシアの357億㎥がもっとも多く、これに次ぐのがアルジェリア(243億㎥)、マレーシア(201億㎥)であり、この3カ国でLNG輸出全体の7割強を占めていた。カタールはこの年に始めて日本向けの輸出を開始したばかりであり、オーストラリア、ブルネイ、UAEの輸出量はカタールを上回っていた。

  ところが2009年になると、上述の通りカタールが世界最大のLNG輸出国となり、97年に首位であったインドネシアは、マレーシアに次ぐ第3位となっている。また輸出国が多様化したため、全輸出量に占める割合も97年のインドネシアが全体の3分の1を占めていたのに対して、09年首位のカタールのシェアは20%にとどまっている(「LNG輸出の比較:1997年 vs 2009年http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-91bLngExport1997vs200.gif参照)。

  同様のことを輸入面で比較すると、1997年にLNGを最も多く輸入したのは日本の643億㎥であり、全世界(1,113億㎥)の実に6割を占めていた。そして日本に次いで輸入量が多かったのは韓国(157億㎥)であり、続いてフランス(92億㎥)、スペイン(67億㎥)、台湾(41億㎥)であった。2009年の日本の輸入量は859億㎥であり世界輸入に占める割合は35%に低下している。この間、韓国は2.2倍に増加、スペインは4倍に増加してフランスを抜いて世界第3位の輸入国となっている。また97年には輸入実績の無かったインドが2009年には世界第6位のLNG輸入国となっている。(「LNG輸入の比較:1997年 vs 2009年http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-91cLngImport1997vs200.gif参照」。

(続く)

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月17日)

2010-07-17 | 今日のニュース

・三井石開、オマーンの陸上鉱区にFarm-in。1号井から1万B/D出油。

 

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今週の各社プレスリリースから(7/11-7/17)

2010-07-17 | 今週のエネルギー関連新聞発表
7/12 東燃ゼネラル石油   代表取締役の異動に関するお知らせ http://www.tonengeneral.co.jp/apps/tonengeneral/pdf/2010-07-13_1ja.pdf
7/12 石油連盟   参議院選挙の結果について(会長コメント) http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2010/07/12-000431.html
7/13 石油連盟   石油連盟ホームページアンケート調査結果について(2010年度第1回「環境問題について」) http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2010/07/13-000433.html
7/13 丸紅   中国・SINOPEC Engineeringとの戦略的包括協力契約締結について http://www.marubeni.co.jp/news/2010/100713.html
7/15 石油連盟   天坊 石油連盟会長定例記者会見配布資料 http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2010/index.html#id434
7/15 BP   Well Integrity Test Commences on MC252 well http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7063770
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