(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で全7回を一括ご覧いただけます。
6.市場開拓に東奔西走するハマド首長
2008年と2009年のカタールのLNGの生産能力と輸出量は極めて対照的な様相を呈している(図http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-3-91dQatarLngTrade1997-.gif参照)。
生産能力は08年の3,010万トンから09年には6,130万トンと一挙に2倍に増強された。これはQatargasIIの第4 &5トレイン及びRasGasIIIの第6&7トレインと言った超大型設備(各780万トン/年)が一挙に完成したためである 。因みに本年はQatargas III及びIVのトレイン(780万トン/年)2基が稼働を開始する予定であり、これにより同国が標榜してきたLNG年産7,700万トン体制が完成するのである。
これに対して輸出量は08年が2,897万トン、09年は3,611万トンである。輸出の伸び率は25%であり、極めて順調のように見える。しかし上記のとおり設備はわずか1年で2倍に増えており生産能力と輸出量の比率、即ち稼働率でみると08年の96%から09年には一挙に59%に落ちているのである。さらに問題は輸出の中身である。これまでカタールの輸出は日本、韓国、インド、スペイン4カ国との長期契約によるものがほとんどであり、スポット輸出は限定的であった。実際カタールの全輸出量に占めるこれら4カ国の比率は08年までは90%以上であり、中でも03年から06年までは4カ国への輸出比率は98~100%に達し、スポット輸出は皆無と言っても良かった(インドへのLNG輸出は04年開始)。
ところが09年にはこれら4カ国への輸出比率は66%に急落している。そして輸出相手国の数は08年の9カ国から09年には15カ国と急増している。この二つの事実は09年にカタールがLNG輸出市場の開拓に躍起になったにもかかわらず急激に膨らんだ生産能力に見合う輸出先を確保できなかったことをうかがわせる。年産7,700万トン体制が完成する今年以降、カタールはさらなる稼働率の低下を覚悟しなければならないようである。
昨年のカタールのLNG輸出相手国は長期契約の4カ国(日本、韓国、インド、スペイン)のほか北米の米国、カナダ、メキシコ、中南米のチリ、プエルトリコ、ヨーロッパのベルギー、仏、イタリア、英国、そしてアジアではトルコ、中国、台湾である。このうち英国、中国及び台湾は長期契約先として今後安定的な引き取りが期待されるが、その他の国々は輸出量の安定しないスポット契約にとどまるであろう。特にヨーロッパや北米のようにガスパイプライン網が発達した地域ではLNGは季節的な需給変動をカバーするための補完的なガス源とみなされる可能性が高い。
LNGの供給先の多様化と安定的な長期契約先の確保に迫られたカタールは、ハマド首長自らが各国をトップセールスで駆けまわっている。ここ数年ハマド首長は月1~2回以上と言うかなりの頻度で外国に出かけている。その多くは中東和平の仲介、リビアの国際舞台復帰への支援、スーダン内戦の和解仲介等政治的色彩の濃いものであるが、彼はその合間を縫って2009年には英国のLNG基地開設式典に参列し(3月)、またブルガリア訪問(4月)、仏訪問(6月)、トルコ訪問(8月)などをこなしている。それらの国でLNG輸出問題を話し合ったことはほぼ間違いないであろう。皇太子のタミームも5月には日本、韓国を訪問している。アッティヤ副首相兼エネルギー相がLNG輸出促進のため世界各国を駆け回っていることは言うまでも無い。
トップセールスの努力にもかかわらずカタールがLNG設備の稼働率を昨年以上に上げることは極めて難しいであろう。何しろ昨年の輸出量3,600万トンは年産能力7,700万トンの半分以下である。石油の場合、消費は2年連続して前年を下回っており、また昨年の全世界の生産量は1980年前半以来初めて前年比で減少した 。天然ガスも近い将来マイナス成長に陥らないと言う保証はない。LNGが「作れば売れる時代」は終わり、長期契約により安定した顧客を確保したプロジェクトだけが生き残れる時代になった。カタールの急拡大路線に行き詰まりの気配が濃くなっている。
(続く)
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