石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(4)

2010-07-25 | 中東諸国の動向

三羽の小鳥(上)

  未明に基地を飛び立ったイスラエル空軍のF16I戦闘機3機はアラビア半島の付け根を横断し、サウジアラビアとイラクの国境線上空を飛行しつつあった。東の空が白み眼下のネフド砂漠に陽光がさし始めた。砂漠の起伏が波のような影を作り、その影と赤茶けた砂礫が黒と赤の絶妙なコントラストを描いている。何万年いや何百万年昔からの変わらぬ光景だ。ヨーロッパとドバイを結ぶ民間定期便のパイロットにとっては見慣れた風景であるが、今回のミッションに赴く若きパイロットは感動的な面持ちで眼下の風景を眺めていた。雲ひとつない真青な空と乾燥し切った砂漠の狭間を三羽の小鳥たちはひたすら東に向かって飛翔を続けた。

  イスラエル空軍選り抜きの3人。彼らは肌の色も父祖の出身地も、さらにパイロットになるまでの経緯も対照的と言えるほどに異なっている。それでも彼らは「祖国イスラエル」を守ると言う気持ちが誰よりも強く固い絆で結ばれていた。彼らはお互いをニックネームで呼び合っている。3人のリーダー役で雁行飛行の先頭を飛ぶのは「エリート」。右翼後方の二番手が「マフィア」。そして左翼後方三番手のパイロットが「アブダラー」である。

  普通のイスラエル人であればこれらのニックネームを聞いただけで本人の出身がすぐにわかる。「エリート」の父親は第一次中東戦争、一般にはイスラエル独立戦争と呼ばれる戦いで活躍、その後は空軍パイロットとして三度の中東戦争でエジプト、シリアのソ連製ミグ戦闘機を撃墜するなど輝かしい戦功をたてた。1991年には空軍司令官として有名な「ソロモン作戦」の現場指揮をとっている。「ソロモン作戦」とはエチオピア内戦で首都アディスアベバに孤立したユダヤ教徒一万数千人をイスラエルに空輸すると言う空前絶後の作戦である。作戦名が両国を結びつけた古代の歴史「ソロモンとシバの女王」に因んだものであることは言うまでも無い。父親は将軍にまで上り詰め、退役した今も政府及び軍部の御意見番として穏然たる勢力を保っている。

  「エリート」とその一族はアシュケナジムである。アシュケナジムは元々ドイツに住んでいたユダヤ人であり、彼の父も祖父もナチスのユダヤ人狩りで強制収容所に送られ、祖父はホロコースト(大虐殺)で亡くなった。父親もガス室に送り込まれる運命であったが、寸前に戦争が終結し強制収容所から救出された。まだ若かった父親はユダヤ人の祖国建設を目指すシオニズム運動に身を投じイスラエルに移住した。彼はそこで同じアシュケナジムの女性と知り合い二人の間に生まれたのが「エリート」である。

  雑多な人種、国籍の移住者で構成されているイスラエルでは建国の中心となったアシュケナジムはエリートである。とりわけ「エリート」の一家はWASPと呼ばれる飛びきりの上層階級である。普通WASPと言えば米国東海岸のエスタブリッシュメントの代名詞「ホワイト(W)・アングロ(A)サクソン(S)・プロテスタント(P)」のことであるが、ここイスラエルでは「ホワイト(W)・アシュケナジ(A)・サブラ(S)・プロテクシア(P)」の略称である。サブラとはイスラエル建国のために最初に移住した人たちのことであり、いわばメイフラワー号で米国に上陸した移民家族のようなものである。そしてプロテクシアとは人脈があることを意味する。

  仲間から「エリート」と呼ばれるのは、彼がこのような華麗な血脈と人脈をバックにしているためである。

(続く)

(この物語はフィクションです。)

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BPエネルギー統計レポート2010年版解説シリーズ:石油+天然ガス篇(2)

2010-07-25 | その他

(注)本シリーズ1~3は「マイライブラリー」に一括掲載されています。

BPの「BP Statistical Report of World Energy 2010」をもとに本シリーズではこれまで石油及び天然ガスの埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したが、最後に石油と天然ガスを合わせた形でその埋蔵量、生産量及び消費量についての解説を試みる。なお天然ガスから石油への換算率は10億立方メートル=629万バレル(1兆立方メートル=62.9億バレル)である。

2.世界の石油と天然ガスの生産量

(1)2009年の石油と天然ガスの地域別合計生産量

  2009年の世界の石油生産量は日量7,995万バレル(以下B/D)であり、これに対して天然ガスの生産量は年間2兆9,870億立方メートル(以下㎥)であった。天然ガスの生産量を石油に換算すると5,147万B/Dとなり、従って石油と天然ガスを合わせた1日当りの生産量は1億3,142万B/Dとなる。両者の比率は石油61%、天然ガス39%でほぼ3:2の割合である。

  生産量を地域別に見ると(上図参照、拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-1-91OandGProdByRegion.gif )、欧州・ユーラシア地域が3,447万B/Dと最も多く、中東がこれに次ぐ3,137万B/Dである。但し両地域を比較すると、欧州・ユーラシアは石油の生産量が1,770万B/Dに対して天然ガスの生産量は9,730億㎥(石油換算:1,677万B/D)であり、天然ガスが石油を上回っている。一方、中東は石油2,436万B/D、天然ガス4,072億㎥(石油換算:702万B/D)と、石油の生産量が圧倒的に多い。

  欧州・ユーラシア、中東に続いて生産量の多いのは北米である。北米は石油と天然ガスの比率がほぼ同じであり(石油生産量1,339万B/D、石油換算の天然ガス生産量1,401万B/D)、石油換算で合計2,740万B/Dに達している。

  残るアジア・大洋州、アフリカ及び中南米の3地域の生産量はいずれも上記3地域の半分以下である。このうちアジア・大洋州は石油と天然ガスの比率はほぼおなじであるが、アフリカと中南米は中東と同じく石油生産が大半を占めており、天然ガスの割合が小さい。

  前回の埋蔵量で触れたとおり世界の石油と天然ガスの埋蔵量はほぼ等しく、石油埋蔵量は1兆3,331億バレル、天然ガスの埋蔵量は石油換算で1兆1,793億バレルである。このことから欧州・ユーラシア、北米及びアジア・大洋州では埋蔵量に見合った石油と天然ガスが生産されているのに対し、その他の3地域(中東、アフリカ及び中南米)では今後さらに天然ガスの生産に拍車がかかることが考えられる。

(2)国別生産量(上位20カ国)

 生産量を国別に見ると(詳細は表「石油・天然ガスの合計生産量上位20カ国(2009)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-1-91OandGProdByCountry.xps参照)、世界で石油と天然ガスの合計生産量が最も多い国はロシアである。石油換算では1,912万B/Dで、同国だけで世界全体の15%を占めている。同国は石油生産量が世界第1位であり、天然ガス生産量も世界第2位である。

  ロシアに次ぐ世界第二位の生産量を誇るのは米国であり、同国は石油生産量が720万B/D(世界第3位)、天然ガス生産量が1,023万B/D(石油換算、世界1位)であり、石油よりも天然ガスの生産量が多い。なお埋蔵量と比較すると(前回参照)、ロシアは埋蔵量ベースでも世界一であるが、米国は9位である。このことからロシアは当面の生産余力がある一方、米国の場合は国内の石油・天然ガス資源が急速に枯渇に向かっていると言えよう。

  3位はサウジアラビアの1,105万B/Dであり(石油971万B/D、天然ガス134万B/D:石油換算)、上位3カ国の生産量は石油換算で1千万B/Dを超えている。4位から10位までの生産国は、4位イラン(石油換算648万B/D、以下同じ)、5位カナダ(599万B/D)、6位中国(526万B/D)、7位ノルウェー(413万B/D)、8位メキシコ(398万B/D)、9位UAE(344万B/D)、10位アルジェリア(321万B/D)となっている。アルジェリアは石油の生産量だけでは世界15位であるが、天然ガスが世界8位であるためベスト・テンに入っている。一方、メキシコ及びUAEは天然ガスの生産量は10位以下であるが、石油の生産量が多いため石油と天然ガスの合計生産量で上位10傑に入っている。

(3)1980年~2009年の生産量の推移

 1980年から2009年までの石油と天然ガスの合計生産量の推移を追ってみると(詳細は 図「石油+天然ガス生産量(1980-2009年)」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-1-94OandGProd1980-2009.gif参照)、1980年の石油と天然ガスの合計生産量は8,767万万B/D(石油換算、以下同じ)であり、生産量は1982年を底にその後1992年に1億B/Dを突破し2008年に1億3,474万B/Dに達するまで一貫して増加している。しかし2009年の生産量は1億3,142万B/Dにとどまり1982年以来ほぼ30年ぶりで対前年比減少を記録している。

  1980年と2009年の生産量の伸びを比較すると、合計生産量では1.5倍、石油と天然ガスのそれぞれの増加率は石油1.3倍、天然ガス2.1倍であり、天然ガスの生産が急速に伸びていることがわかる。これを比率で見ると1980年には石油と天然ガスの比率が石油72%、天然ガス28%であったものが、その後天然ガスの比率が徐々に拡大し、2009年には石油61%、天然ガス39%となっている。現在天然ガスについては米国におけるシェールガスを含め世界各地で開発生産活動が活発に行われており、またパイプライン、LNGのサプライチェーンも急速に整備拡充されている。従って生産に占める天然ガスの比率は今後更に高まるものと思われる。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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