ペルシャ湾(別名アラビア湾)沿岸諸国のうち特にイラン、カタル、サウジアラビア、ア首連一帯には油田に加え天然ガス田が多数あり、これら4カ国の天然ガス埋蔵量は世界全体の37%(イラン16%、カタル14%、サウジアラビア4%、ア首連3%)に達する。中でも最大のガス田はペルシャ湾にあるカタルの「ノース・フィールド・ガス田」と、イランの「南パルス・ガス田」である(上図参照)。カタルの北部或いはイランの南部にあるため、それぞれの名称に「ノース(北)」或いは「南」が付けられているが、地質学的には単一のガス田である。
天然ガスの多くは地下の地層中に石油と共に存在しており、石油と一緒に産出されるため「随伴ガス」と呼ばれている。しかしイラン・カタル沖合ガス田はガスのみを産出する非随伴性ガス田(別名:構造性ガス田)であり、この種のガス田としては世界最大である。
現在カタル側の「ノース・フィールド・ガス田」及びイラン側の「南パルス・ガス田」双方で大規模な開発プロジェクトが進行しており、生産された天然ガスはパイプラインで国内各地に供給され或いはLNGとして輸出されている。天然ガスは石油に比べ環境負荷の少ないエネルギーとして評価が高く、世界の天然ガス需要は今後20年間、年率2.4%で増加すると推定されている。「南パルス」及び「ノース・フィールド」両ガス田の開発は両国の命運を賭けた最重要プロジェクトである。
しかしながら両国のプロジェクトは対照的な様相を示している。湾岸で最も親米的なカタルはエクソン・モービル、シェルなど米英スーパーメジャーから資本と技術を導入し、これに日米欧のエンジニアリング企業を巻き込んで次々とプロジェクトを完成、製品のLNGも世界各国へと出荷されている。これに対してイランは米国が主導する経済制裁のため欧米有力企業の優れた技術を起用することができず、自力開発を強いられ、さらに販路開拓にも苦しんでいる。
(注)本稿は(財)中東調査会発行の「中東研究」第497号(10月15日発行)に発表した論文の一部です。全文については同号をご覧ください。
目次
1. イラン・カタル沖合ガス田
2. カタル及びイランの開発の現状
(1) ノース・フィールド・ガス田
(2) 南パルス・ガス田
3. 国内外で急増する天然ガスの需要
4. イラン・カタル沖合ガス田が抱える問題
(1) カタル側が抱える潜在的な問題点
(2) イラン側が抱える顕在的な問題点
(3) パイプラインかLNGか
5. おわりに
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