石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒波に翻弄される国際石油企業と政策に守られる邦系石油企業:2021年(度)業績比較 (5)

2022-05-24 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0559MajorEneosIdemitsu2021.pdf

 

2.売上高 (続き)

(原油価格とほぼ連動するメジャーズ、影響の薄いENEOS/出光!)

(2)2018年(度)~21年(度)年間売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)

 2018年(度)から2021年(度)までの4年間の年間売上高の推移を見ると、まず目につくのは原油価格との連動性である。メジャーズ5社は原油価格の変動との相関性が極めて高いのに比べ、邦系2社の売上高は相関性が低いことである。ENEOSと出光の変動が少ない理由は本稿の冒頭でも触れた通り原油価格の変動をほぼ自動的に製品価格に転嫁できる制度に助けられていることが主因である。と同時に国内の石油市場が成熟しており需要が好不況に左右されにくいためであると考えられる。

 

 具体的に年(度)の推移を見ると、2018年(度)はShellが3,884億ドルと最も多く、次いでbp2,988億ドル、ExxonMobil2,902億ドル、TotalEnergies2,094億ドルでChevronがメジャーズでは最も少ない1,589億ドルであった。これに対してENEOSは1,021億ドルと1千億ドルの大台を超えたが出光は399億ドルにとどまり、Shelの10分の1である。

 

 2018年のBrent原油年間平均価格は71ドル/バレルであったが、2019年は64ドル/バレルに下落、各社の売上も減少した(但し出光のみは売り上げがアップ)。7社の売上順位は変わらなかった。しかし2020年(度)には新型コロナ禍で世界の景気が一気に冷え込み、Brent原油価格も前年比で30%以上下落した結果、Shellの売上高は対前年比でほぼ半減1,805億ドルとなった。特にbpの落ち込みは激しく前年の2,784億ドルから1,091億ドルに激減している。一方、ENEOSは前年比21%の下落にとどまり、売上高(722億ドル)メジャーズで最も少ないChevron(945億ドル)の8割弱であった。

 

 2021年(度)にはBrent年間平均価格は前年の1.7倍に急上昇し、メジャーズトップのExxonMobilの売上高は2,856億ドルに急伸、他のメジャー各社も1.5倍或いはそれ以上の売り上げ増加となっている。これに対してENEOS、出光の売上は1.3倍弱にとどまり、メジャーズとの格差は再び大きくなっている。なおこの年(度)は各社とも前年比では売り上げが伸びたものの、出光以外は4年前の水準に戻っていない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油と中東のニュース(5月24日)

2022-05-24 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格わずかに下落。Brent $112.43, WTI $109.72

・サウジ石油相:OPEC+の枠組みでロシアと行動を共にする

・サウジアラムコCEO:石油精製開発投資の必要性を強調

(中東関連ニュース)

・イラン大統領、オマーン訪問で12件のMoU締結

・イラン:革命防衛隊幹部、暗殺犯の銃撃で死亡

・ウクライナ紛争に仲介の用意あり:カタール首長、ダボス会議で演説

・サウジ皇太子、近くトルコ訪問。カショギ事件の溝埋める。 *

*レポート「どうなる?カショギ記者殺害事件の幕引き」(2019年4月)参照。

・トルコ、今年のインフレ予想は年率58%

・イラン/オマーン、ホルムズ海峡のHengam油田を共同開発

・サウジ国営ファンドPIF、Kigdom Holdingの株15億ドルを取得

・砂嵐、クウェイト空港襲う

・自由と安全のためカリブ海島国のパスポートを購入するレバノンの金持ち

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SF小説:「新・ナクバの東」(19)

2022-05-24 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」

 

19. 「国境の南」作戦(6)

 一方、客人であるイスラエル給油機を取り囲んだサウジアラビア戦闘機は給油機のパイロットに向かって自分たちのテントに立ち寄ること、即ちハフル・アル・バテン基地に着陸するように話しかけた。それは話しかけたと言うより命令したと言った方がいいのかもしれない。それに対して給油機は何も答えず、機体を左右に振っては囲いから逃れようと身をよじった。しかし給油機と戦闘機では運動性能に天と地の差があり、包囲網を脱出することが不可能であることは明らかであった。3羽の鷹に囲まれたのろまなアホウドリはその進退が極まりつつあった。

 次第にハフル・アル・バテン基地が近づいて来る。アホウドリはついに横を並走する鷹に体をぶつけて活路を見出そうとした。さすがの鷹もその時だけは身を横に逸らす他なかった。

 

 そのようなことが何度か繰り返された後、後尾につけていた攻撃隊長が断を下した。

 「給油機を撃墜する。」

その声を受け並走する2機の僚機は左右に分かれて行った。隊長はミサイル発射ボタンをぐいと押した。標的は目の前にある大型機。目をつぶってでも撃墜できる確かな標的だ。次の瞬間、ミサイルは狙い違わず給油機に命中した。燃料を腹一杯に蓄えた給油機は大きな炎に包まれた。ばらばらになった機体の破片が陽光を受けきらきら光りながら落下して行く。

 

 隊長の視線の先、地上には細い一本の線が東西に延びている。トランス・アラビア・パイプライン、通称TAPラインである。今は使われていないが、かつてサウジアラビア東部の豊かな原油を地中海に運ぶパイプラインであり、サウジアラビア領内の砂漠の中をイラクとの国境に沿って延々と続いている。

 

 隊長は給油機の破片がTAPラインに向かって落下していくのを見て、サウジアラビア領空内で撃墜したことを再確認した。

 「客人は我々のテントに立ち寄るようにとの申し出を断り領空外に逃走しようとした。従って領空侵犯で撃墜した。」

 隊長は基地に報告すると部下の僚機2機を引き連れ、基地に向かってゆっくり高度を下げ始めた。

 

(続く)

 

荒葉一也

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする