石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

日米・BRICs6カ国の石油と天然ガスの自給率(下)

2012-03-13 | その他

(注)本稿の上中下は「前田高行論稿集 マイライブラリー」に一括掲載されています。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0221EnergySupplyDemandGap.pdf

 

5.結びにかえてー深刻の度合いを増す日本
 石油・天然ガス資源が殆ど無い日本。日本のエネルギー自給率がゼロを上回る可能性は皆無である。本稿で比較対象とした国の中で中国は今後も自給率が年々低下することは間違いなさそうである。これに対してロシアは現在でも生産量が消費量の2倍以上あり、新たな油田、ガス田の開発も行われているため、今後とも供給サイドのキー・プレーヤーであり続けるであろう。米国とインドは数年前から自給率が向上している。このような傾向がいつまで続くかは不明であるが両国は自国のエネルギー問題について多少とも余裕がある。

こうして見るとエネルギー問題で余裕が無いのは日本と中国であり、特に日本は非常に苦しい立場に立たされている。日本は原発事故による電力不足を乗り切るためにLNGの大量購入を迫られ、更に円高と世界経済の停滞による輸出不振も重なり貿易収支及び経常収支が赤字に転落した。円ドルの為替問題は円高であればエネルギーの輸入価格が低く抑えられる一方、工業製品などの輸出は打撃を受ける。円安の場合はその逆で輸出が回復する一方、エネルギー価格は上昇する。

これに加え国際的な政治情勢も無視できない。米国とイランの対立によりエネルギー価格はじりじりと上昇している。万一ホルムズ海峡が閉鎖されれば日本は石油・天然ガスの輸入及び価格の両面で大きな危機に晒される。

中国の場合も原油の調達面で大きな問題になるであろうが、日本とはかなり違った様相になると思われる。原油価格が上がれば同国の国営石油企業(SINOPECなど)は大きな利潤を得ることになる。為替も厳重に管理されており、また政府の政策誘導で国内のエネルギー消費を人為的に抑制することが比較的容易である。中国は石油・天然ガスの価格高騰或いは量的確保についてかなり柔軟性があると判断することができる。更に中国は国連安保理事会の常任理事国で外交大国であるためエネルギー問題について米国とは一線を画した政策を取ることができる。

一方、米国のエネルギー自給率が向上していることはどのように影響するであろうか。米国のエネルギー自給率は過去10年間常に5割を超えており、ここ2年間では6割近くに達している。このことからエネルギー需給に関して米国自体は世界の政治経済情勢に左右されるにくく、エネルギー問題に対する抵抗力が増していると言えよう。米国は中東に対する石油・天然ガスの依存度が確実に減っている。極論すればホルムズ海峡が閉鎖され、ペルシャ湾からのエネルギー供給が途絶し、世界の石油・天然ガス価格が暴騰したとしても、米国はさほど大きなダメージは受けない。エネルギー価格が高騰すればむしろ米国内のエネルギー産業が活況を呈し、その分野の雇用が増えるという見方すら出来る。このような状況下では米国の世論はイランに対する感情論は高まるにしても、「紛争は遠い地球の裏側の対岸の火事だ」という意識が生まれるに違いない。政治的な世論としては「イスラエルとともにイランと戦え!」ということはあっても、経済的な世論として「日本や韓国など友好国の経済危機に手を差し伸べよう」などという議論が起こるとはとても思えないのである。

大局的に見て日本が従来の対米依存方針を変えることのマイナス効果が大きいことは認めるが、だからと言って米国が日本を助けるなどと虫の良い考えは持たない方が良い。このことは大多数の日本人も解っているはずだ。結局日本のことは日本人自身で考えるしかないのである。

(完)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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