石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計レポート2011年版解説シリーズ:石油篇(5)

2011-06-24 | その他

(注)本稿は「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」の下記URLで一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0187BpOil2011.pdf

 

5. 世界の石油精製能力
(1)2010年の地域別精製能力
 2010年の世界の石油精製能力は日量9,179万バレル(以下B/D)であった。これを地域別でみると最も大きいのはアジア・大洋州の2,839万B/Dで全世界に占める割合は31%である。これに次ぐのが欧州・ユーラシアの2,452万B/D(27%)であり、第三位が北米(2,097万B/D、23%)である。石油消費量ではアジア・大洋州、北米、欧州・ユーラシアの順であるが(前章「世界の石油消費量」参照)、精製能力では欧州・ユーラシアと北米の順位が入れ替わっている。このことから欧州・ユーラシアは精製能力過剰の状態にあり、北米は反対に精製能力不足の状態にあることが推定される。
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-91aRefineryCapacitybyRegion2010.pdf 参照)

 国別では米国の精製能力が1,759万B/D、世界全体の19%を占め、2位の中国(1,012万B/D、11%)以下を大きく引き離している。以下は3位ロシア(556万B/D)、4位日本(446万B/D)、5位インド(370万B/D)、6位韓国(271万B/D)と続き、世界上位10カ国にはこのほかイタリア、サウジアラビア、ブラジル及びドイツが入っている(表「国別石油精製能力(2010年)」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-4-91RefineryCapacitybyCountries2010.pdf参照)。

(2)1965~2010年の地域別精製能力の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-91bRefineryCapacitybyRegion1965-2010.pdf 参照)
 1965年から2010年までの地域別の精製能力の推移を見ると、欧州及び北米の先進工業地域は1965年以降第二次オイルショック(1979年)までは精製能力が大きく増えている。この時代は欧米先進国の経済が拡大し石油需要が急伸したため、各国は将来を見越して製油所の新増設を盛んに行った。しかしオイルショックを経て1980年代に入ると石油製品の需要が急減したため、先進地域は過剰な精製能力を削減せざるを得なかった。特に欧州では1979年に32百万B/Dあった精製能力が1990年代後半には25百万B/Dにまで削減されその後現在まで漸減傾向が続いている。

 これに対してアジア・大洋州地域では日本は欧米同様精製能力が減少したものの、全体としては中国、インド、東南アジアなどの需要が拡大し、石油精製設備の新増設が活発に行われた。この結果オイルショックの前後を通じてアジア・大洋州の精製能力は一貫して拡大しており、1965年にわずか360万B/Dであった精製能力は2010年には8倍弱の2,839万B/Dに達している。この間1997年には北米地域を追い抜き、また2008年には欧州・ユーラシア地域の能力を上回り、2010年にはその差はさらに広がっている。アジア・大洋州は今や世界最大の精製能力を有する地域となっている。

 米国、日本、中国及びインド4カ国について見ると(グラフ「米・日・中・印の精製能力の推移(1965-2010年)」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-91cRefineryCapacityUsJapChinaIndia.pdf 参照)、1965年の米国の精製能力は1,039万B/Dで、日本は5分の1の192万B/Dであり、中国及びインドの精製能力はともにわずか20万B/D強に過ぎなかった。米国はその後急速に精製能力を増強し1980年には1,862万B/Dに達し、日本も同じ時期に564万B/Dのピークに達している。これに対し中国、インドも設備増強を図ったがその足取りは鈍かった。

 ところがオイルショック後の1980年代に入ると、米国は余剰設備を次々と廃棄して15百万B/D台にまで精製能力を落とし、日本も4百万B/D台に減らしている。これに対し中国とインドは1990年代後半から急速に設備の新増設を行い、特に中国の伸びは目覚しく1999年には遂に設備能力で日本を追い抜いた。

 1990年代後半から2010年までのこれら4カ国の設備能力は、日本のみが1995年の501万B/Dから2010年には446万B/Dへと減少しているのに対し、米国は1,533万B/Dから1,759万B/Dへと15%増強、中国は401万B/Dから1,012万B/Dへ2.5倍増、インドも113万B/Dから3.3倍の370万B/Dとそれぞれ大幅な設備増強を行っている。

(3)米国、日本及び中国の精製設備稼働率(1980~2010年)
 精製能力に対して実際に処理された原油の量(通油量:Refinery throughputs)で割ったものが設備の稼働率である。2010年の全世界平均の稼働率は82%であり、中国と米国は84%、日本は81%であった。

 1980年以降の稼働率の推移を見ると(図「主要国の製油所稼働率(1980-2010年)」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-4-92RefineryOperationRatio.pdf 参照)、1980年の米日中3カ国の稼働率は米国72%、日本71%に対し中国は世界平均(75%)を上回る84%であった。その後2年間中国と日本は稼働率が急激に下がり1982年には日本は60%、中国も72%に落ち込んだ。これはオイルショック前に将来の石油需要の増加を見越して製油所を新増設したものの需要が急減したためである。その後80年代後半以降石油需要が回復したため世界の平均稼働率は80%台に上昇し米国、中国も稼働率が80%台に回復した。しかし日本だけは過剰な設備を抱えたまま稼働率は60%台にとどまった。

90年代は3カ国で明暗がわかれ、米国は90%以上、日本も80%台半ばを維持したのに対し、中国は精製能力を急拡大したため(上記(2)参照)、稼働率が70%以下に低下した。しかし2000年以降は経済が世界的規模で拡大し、中国の石油精製設備の稼働率も急速に改善されている。2005年の世界の平均稼働率は86%、米国、日本及び中国はそれぞれ88%、91%、83%と非常に高い水準に達している。2005年以降は米国と中国の立場が逆転し、中国は安定した稼働率を維持しているのに対し。米国は稼働率が年々低下している。また日本の稼働率の落ち込みは一層厳しく、2009年には3カ国ともほぼ同じ程度の稼働率となっている(日本78%、中国79%、米国81%)。2010年は3カ国を含め世界全体の稼働率は3ポイント程度改善している。

(以上で石油篇を終わります。次回からは天然ガス篇です。)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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