(注)本稿は「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」の下記URLで一括ご覧いただけます。 http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0187BpOil2011.pdf
2.世界の石油生産量
(1) 地域別・国別生産量
2010年の世界の石油生産量は日量8,210万バレル(以下B/D)であった。これを地域別でみると中東が2,519万B/Dと最も多く全体の31%を占めている。その他の地域については欧州・ユーラシア1,766万B/D(22%)、北米1,381万B/D(17%)、アフリカ1,010万B/D(12%)、アジア・大洋州835万B/D(10%)、中南米699万B/D(9%)である。(グラフ「地域別石油生産量2010年」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-95bOilProductionByRegion.pdf 参照)
各地域の生産量と埋蔵量(前回参照)を比較すると、埋蔵量のシェアが生産量のシェアより高い地域は中東及び中南米であり、北米、欧州・ユーラシア、アジア・大洋州はその逆である。例えば中東は埋蔵量では世界の55%を占めているが生産量はその31%に過ぎない。中南米も埋蔵量シェア17%に対し生産量シェアは9%である。一方、北米及び欧州・ユーラシアの場合、埋蔵量シェアがそれぞれ5%、10%に対して生産量のシェアは17%及び22%である。またアジア・大洋州も生産量シェアが埋蔵量シェアを7ポイント上回っている。このことから地域別に見て将来の石油生産を維持又は拡大できるポテンシャルを持っているのは中東及び中南米であることが読み取れる。
次に国別に見ると、最大の石油生産国はロシアである。同国の2010年の生産量は1,027万B/Dであり、第2位はサウジアラビア(1,000万B/D)であった。ロシアとサウジアラビアは世界の二大産油国であるが、ロシア成立直後の1993年から2008年までサウジアラビアが生産量世界一を続けており両国の差は一時300万B/Dを超えたこともある。しかし近年はその差が縮まり、2009年にはついにロシアがサウジアラビアを追いぬき生産量世界一となった。2010年はサウジアラビアの生産量が1千万B/Dを超えてロシアに肉薄したがロシアが引き続き世界一の産油国となっている。
両国に続くのが米国(751万B/D)、イラン(425万B/D)、中国(407万B/D)である。6位以下10位までの生産国はカナダ、メキシコ、UAE、クウェイト、ベネズエラの各国である。イラクは246万B/Dを生産しクウェイト、ベネズエラに次いで第11位である。ここ数年同国の生産量は急増しているが、イラク戦争前の260万B/D台に達しておらず、また過去最高の生産量を誇った1979年(349万B/D)の7割にとどまっている。最近行われた国際入札によるルメイラ油田など生産能力の高い油田の開発改修が進めばイラクの石油生産量は飛躍的に伸びるものと思われる。(表「国別石油生産量ベスト20(2010年)」
http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-2-95cOilProductionByCountries2010.pdf 参照)。
(2) 石油生産量の推移とOPECシェア
(図「世界の石油生産とOPECシェア(1965~2010年)」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-95aOilProduction1965-2010.pdf 参照。)
1965年の世界の石油生産量は3,181万B/Dであったが、その後生産は急激に拡大し、1980年には6,295万B/Dとほぼ倍増した。オイルショック後の石油消費減と景気後退により1980年代に石油需要は低迷したが、1990年代に再び生産は右肩上がりに増加し始めた。そして1995年(6,814万B/D)以降急激に伸び2000年に7,489万B/D、2005年は8,149万B/Dに達している。これは米国での需要が堅調であったことに加え、中国、インドの消費量が急増したことが主たる要因である。その後は原油価格の急騰とそれに続く景気後退で石油生産は微増にとどまり、2010年の生産量は8,210万B/Dであった。
石油生産を地域毎のシェアで見ると、1965年は北米が32%でもっとも多く、中東26%、欧州ユーラシア18%、中南米14%、アフリカ7%と続き、アジア・大洋州は3%であった。しかしその後北米の生産が停滞する一方、中東及び欧州・ユーラシア(特にロシア及び中央アジア各国)が急成長したため、現在(2010年)では冒頭にも述べたとおり、中東のシェアが最も高く(31%)、次いで欧州・ユーラシア(22%)、北米(17%)の順となっている。最近ではアフリカの生産が伸びており、同地域のシェアは12%に拡大している。
石油生産に占めるOPEC加盟国のシェアの推移を見ると、1965年は44%であり、第一次オイルショック(1973年)前には50%近くに達した。しかし80年代前半にシェアは急落し85年には30%を切った。その後80年代後半から90年代前半にシェアは回復し、95年以降は再びシェアは拡大して40%台のシェアを維持しており2010年は42%であった。
OPECのシェアが1980年代前半に急落したのは、第二次オイルショック(1979年)の価格暴騰を引き金として世界の景気が後退、石油需要が下落した時、OPECが世界の平均を上回る大幅な減産を行ったためである。
今後石油生産がどのように推移するかについては需要と供給の両面で不確定な要素が多く予測することはかなり難しい。需要面で見ると世界景気の停滞によりエネルギー需要全体が減少している。また地球温暖化問題に対処するため太陽光、風力などの再生可能エネルギーの利用促進が叫ばれ、炭化水素エネルギー源としてもCO2排出量の少ない天然ガスの人気が高い。さらに石油価格の高騰に対しては省エネルギー技術が普及しつつある。このように石油の需要を取り巻く環境は厳しいものがある。
その一方、福島原発事故に伴う原子力エネルギーの見直し、或いは中国、インドなどのエネルギー需要が今後も拡大するとする見方が一般的であり、この点では基幹エネルギーである石油の需要は底堅く、再び増勢に転じることも十分予測される。今後石油の生産が停滞するのか、或いは需要の増加に対応するため増産に向かうのかは流動的である。
(3) 主要産油国の生産量の推移(1990年、2000年、2010年の比較)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-95cOilProductionByMajorCountries.pdf参照)
産油国の中には長期的に見て生産量が増加している国がある一方、年々減少している国もある。ここではロシア、サウジアラビア、米国、イラン、UAE、ブラジル、カザフスタン、英国及びインドネシアの9カ国について1990年、2000年及び2010年の生産量の推移を見てみる。
OPEC加盟国でありペルシャ(アラビア)湾岸の主要産油国であるサウジアラビア、イラン及びUAEの3カ国はいずれも生産量が増加している。サウジアラビアの場合、1990年は711万B/Dであったが、2000年には949万B/Dになり、2010年は1千万B/Dを超えており1990年の1.4倍に増加している。またイランの場合は327万B/D(1990年)→386万B/D(2000年)→425万B/D(2010年)で、2010年は1990年の1.3倍である。同様にUAEは228万B/D(1990年)→262万B/D(2000年)→285万B/D(2010年)で、1.2倍強に増加している。
これらの国以上に著しく増加しているのがブラジルおよびカザフスタンである。ブラジルの生産量は65万B/D(1990年)→127万B/D(2000年)→214万B/D(2010年)とこの20年間で3.3倍に増えており、カザフスタンも55万B/D(1990年)→74万B/D(2000年)→176万B/D(2010年)に増加し、特に過去10年間では2.4倍の増加率を示している。
一方米国の場合は891万B/D(1990年)→773万B/D(2000年)→751万B/D(2010年)と生産が年々減少している。インドネシアも154万B/D(1990年)→146万B/D(2000年)→99万B/D(2010年)と同様の現象を示している。同国は数年前に石油の純輸入国に転落しており、既にOPEC(石油輸出機構)からも脱退している。
現在世界最大の石油生産国であるロシアは1990年には1,041万B/Dを生産していたが、旧ソ連崩壊後の経済混乱のため2000年の生産量は654万B/Dまで下落した。その後経済の回復と外国技術の積極的な導入により生産がV字型に回復している。これと対照的なのが英国である。同国の生産は192万B/D(1990年)→267万B/D(2000年)→134万B/D(2010年)と推移しているが、これは北海油田の生産量が2000年前後をピークに減退を続けているためであり、現在では同国は石油の純輸入国となっている。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp