(第1回)LNG(液化天然ガス)貿易の歴史
去る2月18日、日本の麻生首相及びロシアのメドベージェフ大統領が出席してサハリン南端のプリゴロドノエ港で「サハリン2」LNGプロジェクトの完成式が挙行された。そして3月29日に第一船が同港を出港、4月6日には千葉県袖ヶ浦のLNG受入基地に到着した。ロシア産のLNGは東京電力の火力発電用燃料及び東京ガスの都市ガス原料として今後年間約5百万トンが輸入されるが、これは日本の全輸入量の7%に相当する。ちなみにサハリン2プロジェクトの操業会社「サハリン・エナジー社」はロシアのガスプロム50%(+1株)、英シェル社27.5%(-1株)のほか日本の三井物産(12.5%)及び三菱商事(10%)も株主となっている。
ロシアは世界最大の天然ガス埋蔵量を誇るとともに、その輸出量も世界一である 。しかしこれまで同国はパイプラインによるヨーロッパ向けの輸出のみであり、LNG(液化天然ガス)として輸出するのは今回が始めてである。しかも輸出先は極東市場の日本である。ロシアにとって今回のプロジェクトは、国産の天然ガスをこれまでのパイプラインによる生ガス輸出からLNGとして輸出すること、さらに輸出先として従来のヨーロッパ一辺倒から極東市場を切り開いたという二つの点で画期的な事業なのである。
日本にとってもこの事業には二つの重要な意義がある。一つはLNGの調達ルートの多様化である。これまで日本のLNG輸入国は、インドネシア、マレーシア、オーストラリア、カタールなど13カ国に達している。しかし環境意識の高まりで世界的に天然ガスの需要が伸びる一方、インドネシアのように生産量の頭打ちと国内消費の増大で輸出余力がなくなりつつある国もあり、ロシアが新たな輸入先に加わることはエネルギーの安定供給を確保するうえで大きな意味を持つのである。さらにサハリンから日本までの輸送日数はわずか数日であり、東南アジアのインドネシア或いははるか遠い中東のカタールなどに比べると輸送コストが極めて少なくてすむのである。
日本でも天然ガスの需要は伸びており、1990年にエネルギー全体に占める天然ガスの割合は10.7%であったが、2006年にはその割合は16.5%に増大している 。国内の天然ガスの生産量は微々たるものであり、増大する天然ガスの需要はLNGの輸入によってまかなわれているのが現状である。
また世界の天然ガスの貿易動向を見ても、天然ガスの貿易量は近年大きく伸びており、その伸び率は石油を上回っている。英国BP社の統計資料「BP Statistical Review of World Energy」によれば、1997年に4,300億立方米であった天然ガスの貿易量は、2007年には7,800億立方米に達し、10年間で1.8倍に増大している(上図参照)。
同じBP社の資料で、貿易量に占めるパイプラインとLNGの比率を見ると、1997年にはパイプラインが74.3%に対しLNGは25.7%とほぼ3対1の割合であった。しかし10年後の2007年にはパイプライン70.8%、LNG29.2%と、LNGの比率が4ポイント近く上昇している。
このように世界及び日本においてLNGの重要性が年々高まっているのである。 (続く)
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