読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

麒麟の翼

2011年04月18日 19時56分16秒 | 東野 圭吾

東野 圭吾さんの作品。

表紙と見開きの写真は、東京中央区日本橋の風景。ここは最初の魚河岸があつたことで跡地の石碑もあり、日本国道路の起点の印もある。何より、日本橋の見事な彫刻の上にとてつもない景観破壊の高速道路が走つてゐるので、イヤでも記憶に残る。

自分のお旅行・お散歩日記に偶然、今回の舞台のほとんどを歩き掲載してゐたので、東京の日本橋が未知な方、興味のある方は ↓ ご覧くださいまし。  

http://liebekdino.exblog.jp/12284753/

http://liebekdino.exblog.jp/12284415

http://liebekdino.exblog.jp/12284610/

話は感想に戻つて

東野さんは、世の中の動向を注意深く観て作品に反映すると以前別の作品の感想で書いたが、この作品もしかり。

午後9時ごろ、一人の男がおぼつかない足取りで日本橋を歩いてくる。交番にゐた警官が男を目撃するが、泥酔者と思ふ。男は交番を通り過ぎ、日本橋の麒麟の像のところにもたれかかり動かなくなつた。警官が声をかけやうと近寄ると、男の胸にはナイフがささり、シヤツは赤黒く染まつてゐた。病院に運ばれるが、男は帰らぬ人となる。

一方、現場近くで職務質問をかけられ逃走しトラツクに撥ねられる男がゐた。彼は被害者である刺された男の財布を持つてゐた。撥ねられた男が潜んでゐた場所から被害者である男のかばんが発見され、犯人はこの男と思はれたが・・・・

刑事、加賀恭一郎が現れるシリイズ。加賀の粘り強い捜査で事件は思はぬ真実を暴き出す。

現在の犯罪の傾向、などとしてワイドシヨウ等で「簡単に殺す」「罪の意識がない」などのコメントや放送がなされる。この作品ではその世の中(マスゴミ)の傾向をよく捉えてゐると同時に、本来ならかうあるべき・・・・といふものを示してゐる。

東野さんは、人を書くのも上手いが世の中の洞察力も優れてをり、自分が得た情報からそれを如何に作品に反映させやうか、の発想力もすごい。この作品でもそれを証明した。


闘うバレエ 素顔のスターとカンパニーの物語

2011年04月17日 21時01分13秒 | 人物伝、評伝 (自伝含)

佐々木 忠次(ただつぐ)氏の著書。

佐々木氏は1933年生まれ、日本大学芸術学部卒業後1964年チャイコフスキー記念東京バレエ団を設立。国内はもとより700回以上にわたる海外公演を行い、世界でもその実力が認められるインターナショナルなバレエ団に育てあげた、「日本のディアギレフ」と呼ばれるインプレッサリオである。(インプレッサリオとは、海外からバレエ団やオペラ団、オーケストラなどを招聘する事業者のことである、P274)

東京バレエは観たことが無いが、バレエは熊川哲也氏のカンパニーを何度か観た。しかし、本書を読んで「プロの目から見るカンパニー」の視点がわかつた。

また、日本バレエ界のしがらみといふか、悪しき慣習そして日本国内だけでなく、世界的に影響してくる「政治の世界」のしがらみがあることもわかつた。

そして、海外のオーケストラやバレエ公演の入場料がなぜあんなに高いのかもわかつた。

佐々木氏はダンサーたち、振付師たちとの付き合いも多く、その人たちに関する記述や一緒にした仕事の内容もあり、興味深かつた。

佐々木氏は東京バレエ団をよくするため、ダンサーたちのレベルを上げるために色々なことをしてゐる。佐々木氏の考えが書いてあるが、同意見だ。佐々木氏の考えが正しかつたことは東京バレエ団の活躍で証明されてゐると思ふ。

バレエの演目のなかに「ザ・カブキ」なるものがあることも初めて知つた。だういふ内容なのかざつくりと書いてあるが、一度観てみたい。

東京バレエ団、そのものを知らなかつたが機会があつたら観たいと思ふ。


千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮

2011年04月16日 20時01分33秒 | 小説

松岡 圭祐氏の作品。 オリジナル千里眼の後の新シリイズの4作目。

3作目の「千里眼の水晶体」もよかつたが、今回の作品は外国を相手に岬 美由紀が闘うものである。その闘う相手先の国が、フィクションであるこの作品にかなり現実感を持たせる国であるので、フィクションであつてフィクションでないと思ひながら読んだ。その国に滞在経験のある複数人に訊くと「+国人は何でもする」といふ見解で一致するので、フィクションぢやない可能性が否定できない。

オリジナル千里眼シリイズを読んでゐないので、新シリイズに限定の感想なのだが、主人公の岬美由紀といふ人物設定に元自衛官空軍パイロットを設定したのは、物語に幅を持たせかなり面白い。 最初からかうした幅広い物語を想定して人物設定するのであらうから、作家といふのは発想力が問はれる職業だなと思ひまた、松岡氏の発想力に感嘆するのであつた・・・・

この後のシリイズ、そして他の作品も読むのが楽しみになる。


連鎖

2011年04月15日 16時37分29秒 | ミステリー・推理

真保 裕一氏の作品。 第37回江戸川乱歩賞受賞作品。

厚生省(この作品は1991年に書かれてゐるので、当時)元食品衛生監視員の羽川は深夜、友人の夫人からの電話で起こされる。電話は友人が泥酔し車で海に飛び込み自殺を図つたといふことであつた。

羽川は友人のその妻と男女の関係をもち、それを知つた友人が家を出てゐることから妻の不貞を苦にした自殺と考えられる。しかし、雑誌記者であつた友人はチェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で日本に輸入され、商品化されてゐたことをスクープしてゐた。そのスクープにより食品会社では自殺者も出ることとなつてをり・・・・ 

内容を全然知らづに図書館で借りたが、現在の食品の安全に関する状況の中、なんといふタイミングであらうかと思ひながら読んだ。

汚染食品の横流しと睨んだ主人公羽川が、真相究明に乗り出したところ命を狙はれることとなる。食品に絡んだ裏事情とは・・・・

一件落着かと思ひきや、最後のどんでん返しが面白い。

 


果断 (隠蔽捜査 2)

2011年04月15日 16時23分41秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

先日投稿した「隠蔽捜査」の続編。山本周五郎賞受賞作品である。

前作、「隠蔽捜査」では主人公竜崎が大田区大森署の署長として赴任することになつた。本作品では所轄の署長としての竜崎を描く。また、前作でちらりと出てきた、所轄の「現場の刑事」も今回登場する。

この作品もやはり、面白い。

面白さは「竜崎」といふ主人公の性格にある。自分で「正義」と信じるものを貫き通す場所が警察といふ縦社会であり、本音と建前を使ひわける世間でもあるが、竜崎は周りの目を気にせづに信じる道を進む。

「キヤリアとノンキヤリア」といふ、警察内部で確執になつてゐる部分を上手に取り上げて物語は進む。

前作でも感ぢたが、本作品にあることは警察だけでなく、世間全体に当てはまることであらう。「肩書き」「学歴」といふ、世間全体で「基準」とされるやうなものがある。「キヤリアとノンキヤリア」と同様である。学歴や肩書きばかりを見てゐると、その人個人の物の見方や考え方を見失うこととなる・・・

それを様々な登場人物を通して描いてゐる。