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パラドックス13

2010年07月27日 18時10分58秒 | 東野 圭吾
 
東野 圭吾さんの作品。
 
図書館で半年以上待つたかなあ・・・ この後まだ180人位順番待ちをしてゐるやうです。
 
物語は首相官邸にいる首相に、秘書官より「ジャクサが大至急会いたいとのこと」と
知らせがくるところから始まる。宇宙科学研究本部から、日米共同で行なつてゐる研究
で見つかつた「ある事」において両国で国のトツプに報告をするといふのであつた。
 
その「ある事」とは「日本時間で三月十三日午後一時十三分十三秒から十三秒間が
地球にとつて運命の時間」といふものだつた。
その十三秒間に一体何が起きるのか・・・・?
 
物語の大半は、十三秒間に起きた(と思はれる)ことを描く。
 
この中で、2つほど考へた登場人物の台詞があつた。
 
「おまえよりも先に生まれて社会に出た人間たちが、税金を払い、科学や文化の発展に
貢献したから、おまえという人間がここにいるんだ。違うか。」 (P142)
 
「真の老人福祉とは、手すりをつけたりバリアフリーにすることではないとね。足腰の弱った
老人に必要なのは、そんなものではなく、手を貸してくれる人なんだよ。それが家族であれば
理想的だ。近所の人でもいい。ところが国は、家族がばらばらに生きていかざるをえないような国づくりをしてしまった。他人と関わりをもたないほうが得をする世の中にしてしまった。その結果、一人で生きていかねばならない老人が増えたわけだが、その自体を国は文明の利器で対応しようとした。で、老人はそれらに頼り、一人でも生きていけると錯覚する。」(P165)
 
上記の台詞の中には、現在の世の中の「動向」のやうなものが反映されてゐると思ふ。
 
現在景気が悪い、就職難等々報道されるが
終戦直後の世の中のやうすから振り返つてみれば、
何も無い状態から頑張つてくれた現在70歳以上の人たちのおかげで、日本経済は成長したし1ドル360円と固定性だつたのが、為替変動をもたらし、バブルが来たけれどもかなりの贅沢を味はふ世代が出てきて、若者が好きなことを出来る、選択できる時代になつたのではないか・・・と思ふ。
 
しかし、後から生まれてきた世代はそんなことはあまり意識しない。
生まれたときから携帯があるのが普通であれば、携帯がない時代のことなど考えもしないが、携帯が普及する前の世代が「電話を持ち運びできたら便利だな」と考へ、開発を重ねてきたから携帯が普及したのと同様、今の世の中は色々な人が「作つて」くれたものであり、自分はその恩恵を受けてゐるのである・・・・・ とは、普段あまり考へない。
 
なので、P142の台詞は考へさせられた。 
「目上の人を敬ふ」といふ意味が、わかりやすく書いてある。(実際、東野氏も「『目上の人を敬え』と親や教師にいわれてきたから、道徳の一つとして捉えていたにすぎない。」と主人公の気持ちを表現することで、「目上の人を敬う」と言ふ言葉を用いてゐる)
 
P165の台詞は一人の高齢の男性の台詞なのだが、この台詞も現在の「高齢化社会」と題される社会の動きに疑問を呈してゐる、といふか考へさせられた。 
いかにもお便利な世の中になつてゐるやうに見える・・・ 段差が無くなり、階段がエレベーターになり手すりがつき・・・・ だから安心して出かけられる(安心してとまでは言ひすぎかもしれないが)、少なくとも「不便は無い」社会を目指してきた(のであらう)。
 
国や自治体を批判するつもりはないが、「核家族化が進み」と長年繰り返し聞いてきた言葉の陰には、「実際には一人で生きていくには大変なことなのに、周りに手助けする人間がいない世の中になつてゐる。
しかし、誰も真の問題に気付いてゐない」と言ふことなのであらう。
 
なんか、これも考へさせられた。
何故なら、P142の台詞に表されてゐる世の中の人に対する気持ちとP165の台詞に表されてゐる世の中のやうすは繋がつてゐるからである。
つまり、現在老人とされてゐる人たちが作つてきた恩恵を受けてゐるわけだが、若者がその恩返しをするやうな世の中になつてない・・・・・・
 
電車やバスでは、若者が座つて老人が立つてゐるし、若者が席を譲るのはあまり見ない。(譲られてもひねくれて断る人もゐるから、譲る気が無くなつてゐる人もゐるのかもしれないが)
老人が孫を座らせ、老人の子供(孫の親)はそれをそのまま受け入れてゐる場面も見る。あれでは、子供は席を譲ることは考へなくなるであらう。孫の親が、孫に「おじいちやん(おばあちやん)、どうぞつて言ひなさい」と教育しないと、子供は自分が座るのがアタリマエだと思ふだらうし他の老人に対する配慮も育たないであらう。
(余談だが、ヨーロッパを旅行すると老人が当然のやうに席に座るし、若者が座つてゐる席に近づくと若者がすぐに立ち上がる光景を何度か見た)
 
この作品では、この2つの台詞が頭に残つた。
「パラドックス13」の世界では、文明を失つた人間が描かれるのだが色々考へることがあつた・・・
今当たり前と思つてゐることが、当たり前でなくなつたときに人は何を考へるのか・・・?
 
やはり、東野さんの世界は奥が深いなぁ・・・・・・