読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

ジャーナリズムの可能性

2010年06月04日 12時08分09秒 | 社会・報道・警察・教育
 
原 寿雄氏の著書。
原氏は1950年東京大学法学部ご卒業、(社)共同通信社社会部記者、バンコク市局長、
外信部長を経て77年に編集局長、85年に専任理事・編集主幹。
1986年から92年まで(株)共同通信社社長、94年民放連放送番組調査会委員長、
2000年「放送と青少年に関する委員会」委員長といふご経歴をお持ちです。
ジャーナリズムに関するご著書も多数。本書は2009年1月に発行された、最新の
著書かと思はれます。
 
本書の前に、1997年「ジャーナリズムの思想」といふ著書をお出しになり、その本は
大学のテキスト等にも使はれたといふことです。本書はその「ジャーナリズムの思想」の
続編のつもりで、前著に取り上げていないテーマを主題にしながら全体的にはこの
十余年のジャーナリズムの潮流と問題点を追求した(Pi 「はじめに」より)。
 
本書では、政治報道をひとつの柱にされ、個人情報保護法など表現の自由をめぐる権力
とジャーナリズムの攻防、癒着の実態をもふひとつの柱とし、平和憲法下の「九条ジャーナリズム」についても言及され、最後にデジタル時代のジャーナリズムについて記述と、多くの点が
コンパクトな一冊にまとめられてをります。
 
個人的には、原氏の見解に賛成です。「ジャーナリズムのあるべき姿勢」をいろいろな
観点から検証・主張されてをり現在の記者クラブに固まる「メディア」といふ名の政府広報機関
が失くしてゐるものを「あるべきもの」として記述されてをります。
 
「第5章 世論とジャーナリズムの主体性」(特に世論調査についての指摘)、
「第6章  ジャーナリズムは戦争を防げるか」は考えさせられるものでありました。
日本は憲法9条で戦争を放棄してゐますが、「自衛のための戦争」は放棄されてをりませんので、どこかが攻撃してきた時に、「自衛する」=「戦力を使ふ」=「戦争勃発」となることは免れないわけで、自分たちは戦争をするつもりはなくてもどこかが攻めてきたときに戦争を始めづに
いられなくなるといふ事態は防げないであらう。
 
ぢや一体どこが攻めてくるんだよ、といふ話は置いておいて、とにかく「どこか」が攻めて
きたときに、否応なしに戦争に巻き込まれるといふことは認識しておかなければならない。
 
その際に、ジャーナリズムの報道姿勢によつて「愛国心」が煽られ世論が「攻撃的」に
なるといふことは否定できない。原氏はこの話をアメリカの9.11およびイラク戦争を例に
述べられてゐるが、日本でもどこでも起きかねない事例であらう。
 
全体的に本書はジャーナリストを目指す方にも、ニュースを受け取る側にも必携の書と言へませう。