また、実験できる対象をシミュレーションするケースもある。例えば、通信装置の性能のシミュレーションは、実験器具を作る前に理論的にどのくらいの性能がでるのかシミュレーションすることがある。
では、このようなシミュレーションの正当性はどのように検証するのだろうか。経済学など文系の学問はどうだかわからないが、少なくとも物理学の分野では、実験によってシミューレーションの正当性を指示する結果が得られない限り、正しいとされないし、信用されない。上の通信装置の性能シミュレーションのように、実際の実験ができるケースではなおさらで、実験で性能を実証しないと誰も信用しない。
シミュレーションはあくまでシミュレーションであり、現実とは違うもののため、必ずしもシミュレーションの結果どうりになるとは限らない。
上の非現実的なシミュレーションの場合は、考察対象そのものを実験するのは不可能だが、シミュレーションは現実と対応のある部分があるから、それに対して実験や観測を行い、シミュレーションの正しさを実証する。
無論、シミュレーションの対象や結果に現実との対応がまるでなく、実験による検証が不可能ならば、そのシミュレーションは空想的なものであり、あまり意味のないものである。科学は観測にかからないものを対象としない。
以上のように、シミュレーションとは非現実的なケースを検討できる点で実験にはない利点があるが、その結果はあくまで理論計算にすぎないため、その結果だけで信用されるものではなく、必ず何らかの実験的検証が加えられて、はじめて正当性が確立するのである。その意味で、シミュレーションは実験の結果ほど信用性が高いものではなく、むしろシミューレションだけでは、信用性が疑わしいという不都合な側面がある。
そのため、シミュレーションの対象にもよるが、その正当性の確立には、必ず何らかの実験的検証が必要とされるだろう。では、どのように実験的検証を行うかというと、そこは実に様々で実験家の腕の見せ所といえるだろう。
実験の論文を読むと、よくこんな方法を思いついたというような、とてもユニークなアイデアの実験をいくつも見ることができるので、実験家の工夫や努力には頭が下がる。こういうのは理論家やシミュレーション分析者にはない別次元の才能だろう。