世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

シミュレーションの正当性の検証について

2010-11-10 00:00:00 | 科学技術
コンピューターを使って結果を予測するシミュレーションは科学の様々な分野で用いられている。シミュレーションは実験できない非現実的なケースを対象に行われることが多い。例えば、ある星の質量を非常に大きくしたときに、どんな現象が起きるか予測するといった天文学で行われるシミュレーションは実際の天体現象を実験室で実現できない点で非現実的なものを対象にしている。

また、実験できる対象をシミュレーションするケースもある。例えば、通信装置の性能のシミュレーションは、実験器具を作る前に理論的にどのくらいの性能がでるのかシミュレーションすることがある。

では、このようなシミュレーションの正当性はどのように検証するのだろうか。経済学など文系の学問はどうだかわからないが、少なくとも物理学の分野では、実験によってシミューレーションの正当性を指示する結果が得られない限り、正しいとされないし、信用されない。上の通信装置の性能シミュレーションのように、実際の実験ができるケースではなおさらで、実験で性能を実証しないと誰も信用しない。

シミュレーションはあくまでシミュレーションであり、現実とは違うもののため、必ずしもシミュレーションの結果どうりになるとは限らない。

上の非現実的なシミュレーションの場合は、考察対象そのものを実験するのは不可能だが、シミュレーションは現実と対応のある部分があるから、それに対して実験や観測を行い、シミュレーションの正しさを実証する。

無論、シミュレーションの対象や結果に現実との対応がまるでなく、実験による検証が不可能ならば、そのシミュレーションは空想的なものであり、あまり意味のないものである。科学は観測にかからないものを対象としない。

以上のように、シミュレーションとは非現実的なケースを検討できる点で実験にはない利点があるが、その結果はあくまで理論計算にすぎないため、その結果だけで信用されるものではなく、必ず何らかの実験的検証が加えられて、はじめて正当性が確立するのである。その意味で、シミュレーションは実験の結果ほど信用性が高いものではなく、むしろシミューレションだけでは、信用性が疑わしいという不都合な側面がある。

そのため、シミュレーションの対象にもよるが、その正当性の確立には、必ず何らかの実験的検証が必要とされるだろう。では、どのように実験的検証を行うかというと、そこは実に様々で実験家の腕の見せ所といえるだろう。

実験の論文を読むと、よくこんな方法を思いついたというような、とてもユニークなアイデアの実験をいくつも見ることができるので、実験家の工夫や努力には頭が下がる。こういうのは理論家やシミュレーション分析者にはない別次元の才能だろう。

2010年ノーベル物理学賞、グラフェンを開発した英国の科学者らに

2010-10-07 00:00:00 | 科学技術
「スウェーデン王立科学アカデミーは5日、2010年のノーベル物理学賞を、英マンチェスター大学のアンドレ・ガイム教授(51)とコンスタンチン・ノボセロフ教授(36)に贈ると発表した。


 授賞理由は「グラフェンに関する画期的実験」。賞金は1000万スウェーデン・クローナ(約1億2000万円)で、両氏が等分する。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。

 両氏は2004年、鉛筆の芯の材料(グラファイト)に粘着テープを巻いてはがすことを繰り返す非常に簡単な作業で、極めて薄い炭素の膜(グラフェン)を取り出し、その性質を測定することに成功した。[1]」

グラフェンを筒状にしたものが「カーボン・ナノチューブ」で、飯島澄男・名城大教授(71)が発見したのだが、受賞とならなかった。受賞対象となった研究はコンピューターに使われているシリコン半導体に代わる新材料として、大きな注目を集めているらしく、タッチパネルや太陽電池、ガス検知器などへの応用が考えられているという[1]。

なかなかおもしろい研究だ。

参考
[1] YOMIURI ONLINE 2010.10.5

遺伝子調査で100歳以上生きられるかを予測できることについて

2010-07-03 00:01:55 | 科学技術

「人間の遺伝子を調べて、その人が100歳以上まで長生きできるかどうかを77%の確率で予測することに、米ボストン大学のチームが成功した。 2日付の米科学誌サイエンスに発表する。研究チームは100歳以上の長寿者1055人と一般の1267人を比較、長寿に関係の深い150の遺伝子を特定。さらに、さまざまな年齢で死亡した多くの人たちについてこの150の遺伝子を調べ、それをもとに100歳以上まで長生きするタイプかどうかを計算したところ、77%の確率で正しく言い当てることができた。[1]」

最近上述の新聞記事を見て少し驚いた。遺伝子は長寿にも関係しているかもしれない。そんな気はしていたが、遺伝子は人生においても重要なんだろうか。100歳以上生きられるかどうかを識別できるのはなかなかすごいことだと思うが、自分の寿命がわかってしまうのは怖い人もいるだろう。少なくとも私は怖い。予測はできても知りたくない。

この研究は検証されているわけではないだろうから、どこまで本当かわからないが、正しいとすると結構面白い研究発表ではある。

参考
[1] YOMIURI ONLINE 2010.7.2

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(2015年7月9日追記)

この成果は誤りと判明し、2011年7月に論文は撤回された関連1-写し関連2-写し


硫酸銅の青さの美しさについて

2010-06-25 00:00:00 | 科学技術

硫酸銅の結晶はきれいな青色で理科室で見たとき、ほしいと思ったことがある。水溶液もきれいな青色だ。硫酸銅は劇物なので一般には売られていないが、もし危ないものでなければ、美しい結晶なので装飾用として売られていたかもしれない。用途としては銅の電解精錬の電解液、エッチング等に使われる。私にとっては、危ないものでなければ、装飾用として飾っておきたいものの一つだった。

[硫酸銅(Ⅱ)五水和物の結晶-Wikipedia "硫酸銅(Ⅱ)"-2010.6.25 より]


動画 硫酸銅(Ⅱ)五水和物をLEDでライトアップ


硝酸の作り方

2009-05-03 17:29:36 | 科学技術

硝酸は、工業的にはアンモニアを酸化して一酸化窒素に変え、さらにこれを二酸化窒素にしたのち、水に吸収させて作る。このような硝酸の製造法をオストワルト法という。もう少し詳しく述べると、アンモニアと空気の混合物を白金触媒で酸化して、一酸化窒素とし、さらに酸化さて二酸化窒素とする。それを水に吸収させて硝酸とする。

4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
2NO + O2 → 2NO2
3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO

硝酸は無色、揮発性の液体で光や熱で分解しやすいので褐色のびんに入れて保存される。硝酸は強酸で、多くの物質を酸化する性質も強い。

濃硝酸は塩酸で溶かすことのできない銅や銀ですら溶かしてしまうので、非常に危険な液体である。しかし、工業的にはいろいろと応用される重要な物質である。

硫酸、硝酸とも化学反応の触媒として白金が使われる。白金は装飾用の宝石としても重宝されるが、化学反応でも重要な物体だ。

一般人は硝酸を製造したり、取り扱ったりする機会はないだろうが、硝酸はいろいろと応用されている。身の回りにも硝酸を使用して作られた製品がいくつかあるだろう。


塩酸の作り方

2009-05-03 17:20:17 | 科学技術

塩酸は塩化水素の水溶液を言う。塩素は工業的には塩化ナトリウム水溶液を電気分解して得られる。塩化水素は工業的に水素と塩素を直接反応させて得る。実験室では、塩化ナトリウムに濃硫酸を加えて熱すると得られる。

NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl

塩化水素は水に溶けやすく、空気より重いので、下方置換によって捕集する。得られた塩化水素を水に溶かせば塩酸となるが、塩酸は強酸で多くの金属と反応しこれを溶かす。塩酸は化学工業においてよく使われる。

硫酸、硝酸、塩酸は工業的にも重要な酸である。


硫酸の作り方

2009-04-22 00:36:59 | 科学技術

硫酸は強酸で、工業的に広く使われている。例えば、肥料の原料や合成繊維の製造、鉛蓄電池の電解液に使われている。

上述のとおり硫酸は強酸で、濃硫酸は金、白金を除くほとんどの金属と反応して物体をとかす。 硫酸は工業的には接触法とよばれる方法でつくる。

まず硫黄や黄鉄鉱(FeS2)を燃焼させて二酸化硫黄を作る。
4FeS2 + 11O2 → 2Fe2O3 + 8SO2

発生した二酸化硫黄を、白金または酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5などを触媒として酸化すると、三酸化硫黄を生じる。
2SO2 + O2 → 2SO3

これを水に溶かすと、硫酸が生じる。三酸化硫黄を水にとかす時、激しい発熱を伴う。
SO3 + H2O → H2SO4

これらの反応を利用して硫酸をつくる方法を接触法という。濃硫酸は無色で、粘度や密度(1.84 g/cm^3)の大きい不揮発性の液体で、強い吸湿性をもち、乾燥剤として使われる。またショ糖などの化合物から水素と酸素を水の形で奪う脱水作用がある。

硫酸は危険な液体であるが、工業的には非常に重宝されている。その昔、戦争の勝利国が敗戦国の工業を制限するために硫酸の使用量を制限したという話を聞いたことがある。それくらい硫酸はいろいろなところで使われている。

反応式を見ると簡単なので、硫酸を容易に作れそうな気になるかもしれないが、私は一度も作ったことがないのでわからない。そもそも硫酸を個人がつくってはいけないだろう。接触法は白金や酸化バナジウム(Ⅴ)を触媒として使うので、個人では工場のように硫酸を作ることはできない。ただ、白金や酸化バナジウム(Ⅴ)は触媒なので、反応時間がかかってもよいなら白金等がなくても硫酸をつくれるだろう。

工業的に広く使われる硫酸が意外と簡単な化学反応で作れることに驚いた。


軽い恒星の寿命について

2008-11-19 00:16:49 | 科学技術
 宇宙に関する図鑑をみると、「質量が軽い恒星の寿命は1000億年以上」とあった。1000億年以上というのはかなり長い寿命だが、現在の宇宙の年齢が約137億年くらいらしいので、質量が軽い星で死んだ星は1つもないことになる。つまり、質量の軽い星の最後を観測した事例は1つもないはずだ。質量が軽い恒星の寿命が1000億年以上というのは恒星の進化論に基づいた理論的な予測にすぎない。

宇宙の膨張について

2008-11-19 00:16:23 | 科学技術
 有名な天文学者ハッブルが宇宙が膨張していると唱え、現在では確立した科学知見として世界で通用している。一般の人でも宇宙が膨張しているという知見を知っている人が多い。

 宇宙を物理学的に論じる際に基礎となるのは一般相対性理論であるが、有名なアインシュタイン方程式を解くと、宇宙の形状としてあり得るのは①平坦て開いた宇宙、②空間の曲率が負の開いた宇宙、③空間の曲率が正の閉じた宇宙、の3パターンだという。①、②のパターンだと宇宙は永遠に膨張を続けるが、③の場合はいつか宇宙の膨張が収縮に転じて1点に収束するという(ビッククランチ)。

 2008年現在の観測によれば、宇宙の曲率は平坦であって、私たちの宇宙は①に該当するというのが通説的見解である。つまり、現在の科学知見によれば宇宙は平坦であり、永久に膨張し続けることになる。

 ①、②の宇宙は開いた宇宙であるから最初から体積が無限大である。とすれば、どうしても疑問が残る。私たちの宇宙は膨張しているらしいが、宇宙が無限の広さを持つなら、"宇宙の膨張"とは何なのか。無限に広い大きさのものが膨張をするというのは想像できないし、背理とさえ思える。膨張するという概念は対象が有限だからこそ成り立つもので、無限に広いものには膨張を観念しえない。
 
 高名な科学者が議論をした末に成り立ったのが今の学説なのだろうから、私の考えなどどこか間違っているのだろうが、宇宙論は想像しずらい部分がある。

電圧を加えて超伝導状態作ることに成功!

2008-10-14 20:04:15 | 科学技術
 『東北大原子分子材料科学高等研究機構の川崎雅司教授(電子材料学)と東北大金属材料研究所の岩佐義宏教授(固体物理学)のグループは、絶縁体を組み合わせた物質に電圧を加えることで、超電導状態をつくり出すことに世界で初めて成功した。[1]』研究成果は英国科学誌ネイチャーマテリアルズの電子版で公表されたようだ。電気制御で超伝導状態を作れるのが新しいところだ。

 この研究成果は確かに目新しい。超伝導体は電場もはじいてしまうため、普通はある程度電圧を加えると超伝導状態が壊れてしまうと思える。しかし、電圧を加えることで逆に超伝導状態を作ってしまうとは驚きだ。

 おもしろい研究があるものである。

参考
[1]電圧を加えて超伝導状態を作る研究については"Kolnet(2008.10.13)"によった。

坂田昌一

2008-10-09 22:37:36 | 科学技術
 ノーベル物理学賞受賞で賑わっている科学界だが、今回の小林・益川のノーベル物理学賞受賞の背景には坂田昌一博士の存在が見逃せない。坂田昌一氏は名古屋大学物理学教室素粒子理論専攻の教授であった。坂田が活躍していた当時は「素粒子の分類」という仕事が大きな役割を果たしていた。結果としてクォークでの分類を提唱したゲルマン(1969年ノーベル物理学賞受賞者)に敗れたとはいえ、坂田の業績はノーベル賞を受賞してもおかしくなかった。当時の名大物理の坂田研究室は世界レベルの研究室であった。小林、益川はその研究室の出身である。

 残念ながら坂田自身はノーベル賞を受賞してもおかしくない業績があったが、受賞しなかった。しかし、代わりに素晴らしい弟子二人が受賞を果たした。自分自身がノーベル賞を受賞しなくても、素晴らしい研究指導をしていれば弟子がノーベル賞をもらうかもしれない。

ノーベル賞受賞における実験物理の重要性

2008-10-09 22:37:27 | 科学技術
 ノーベル賞受賞で「理論物理は日本のお家芸」と、理論物理ばかりが注目を集めているが、実験物理の重要性を見逃してはならない。
 すべての理論は実験的検証があって初めて確立したものとなる。それがない理論はどんなに優れたものであっても最終的に正しいとされないのだ。実験物理は物理法則の最終判定部門なのである。
 
 小林・益川理論もクォークが少なくとも3世代以上あることが、1995年のトップクォーク発見などによって確かめられ、2001年のBファクトリー(高エネルギー研究所)によるB中間子CP対称性破れ調査によって検証されなければ確立した理論として、ノーベル物理学賞受賞には至らなかっただろう。
 
 このように、理論物理と実験物理は自転車の両輪のような存在で、どちらが欠けても物理学は成り立たない。すぐれた物理理論がノーベル賞を受賞した背景には必ず優れた実験的検証があり、本来はそちらも同様に評価されて然るべきなのだが、オリジナルの発想という観点では、より根源的な発見をした方が受賞してしまうのである。しかしながら、理論物理をきちんと証明した実験物理も学術的には同等の業績がある。単にノーベル賞を受賞しなかったというだけである。