梅雨が終わりに近づくと、「印度はまゆう」がニギヤカに咲いて、「うつろ庵」はパッと明るくなった。
花茎がスーッと伸びて、頂に莟が十個ほども付いて次々と咲くので、かなりの期間にわたって愉しませて呉れる。長い首を次第に持ち上げて、清楚な花を咲かせるが、二日目には再び項垂れ始めて、やがて萎れる。「萎れ花」も有りの侭の姿ゆえ、それなりに風情があるが、放置すると「しどけない」雰囲気が、清楚な花のイメージを損なうので、極力早めに萎れ花を摘むことにしている。
印度はまゆうとの朝の挨拶に行った虚庵夫人が、素っ頓狂な声をあげた。
何事かと訝って行って見たら、一本の花茎が何者かに引き抜かれて、放置されていた。夜中に通りすがりの悪者が、何かの腹いせに引き抜いたものだろう。鬱憤を花にぶつけねば納まらないとは、気の毒な御仁もいるものだ。
引き抜かれた印度はまゆうは、花器に活けられて「うつろ庵」の住人の一人に加わった。
顔寄せてささめく乙女ら どっと沸き
笑いくずれぬ 浜木綿の花は
たれ抜くや 夜中に印度浜木綿を
打ち捨て行く人 哀れなるかも
拾い来て花器に活ければたまきはる
命とどめて咲きわたるかも
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