定家葛の花が、今を盛りと咲いて、幽遠な香りを放っている。
「うつろ庵」からほど遠くない観音崎は、式子内親王も藤原定家とも関わりは無いが、林の中や山道には定家葛が繁茂している。
「時雨とともに、旅僧の前に現れた女は、式子内親王と定家の悲恋を語り、僧を内親王の墓に連れてゆく。五輪塔の墓には、定家の執心が蔦葛となって、びっしりと纏わり付いていた。僧が読誦する『法華経薬喩品』の功徳により、墓に纏わる葛が解け、内親王の亡霊が現れて舞を舞う・・・が、やがて舞い終ると再び墓の中に消える。定家の蔦葛もまた墓をひしと抱き、元の姿に戻る。」 金春能『定家』のあらすじだ。
これは虚庵居士の単なる想像であるが、式子内親王と定家とは生前に、この蔦の花をともに見たに違いあるまい。定家葛の花は、未だに式子内親王と定家の悲恋を伝え、幽遠に香っている。
解き放つ読経の功徳に式子舞ふも
択びてもどりぬ定家のかいなに
かき抱く五輪の塔は幽遠に
定家葛の花香るかも
忘れめや相見つるらむ蔦の花に
そぼ降る雨を袖にうけつつ
「こころ通わせ」の二首
和してお詠み頂き 有難う御座います
うつそみの契りありせばつた葛の
絡めるかいなにもどるみ魂か
相見むと思ほしめせばひと言を
思ふ人こそ待ちてやおるらむ
ことば交わさず こころ通わせ
花いだく 五輪塔に 掌を合わせ
夢みし恋も 黄泉の国まで