「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「横須賀の紅葉」

2010-11-29 01:36:40 | 和歌

 横須賀には数少ない「紅葉の名所」がある。

 京浜急行・野比駅からものの2km程のところに、横須賀リサーチパーク(YRP)と称する各種企業の
研究・研修センターの集った地域があるが、ここのメインストリートのメイプル並木は、温暖な三浦半島にしては類まれな見事な紅葉が楽しめる。偶々ドライブの道すがら通りかかったら、鮮やかな紅葉の並木に出会って感激した。カメラを携えていなかったので、その情景をご紹介出来ないのは誠に残念だ。

 数日後、虚庵夫妻はカメラを携えて、改めてYRPへ「紅葉狩」に出掛けた。
車を近くに乗り捨て、メープルの紅葉並木の下を徒歩で往復しようとの心づもりであった。県道を折れて
YRPへのアクセス道路に入りトンネルを抜ければ、そこには期待のメープルの紅葉並木が続いている
筈であった。

 が、驚いたことにメープルの紅葉は姿を消していた。
あろうことか、メープル並木の梢は綺麗に剪定されて、紅葉の一枚すら残っていなかた。虚庵夫妻は言葉を失った。「エッ! どうしたの!」 

 何が起こったのか? 咄嗟には理解出来なかった。
暫らくして思い至ったのは役所仕事の「道路整備事業」だ。
メープルの紅葉は見事だがやがて落葉する。YRPのメインストリートはかなり長い並木だから、メープルの落葉が散り敷いて風に舞えば、その始末は大変であろう。道路のみならずそれぞれの企業の研究所や研修センターへのアクセス、或いは駐車場などへ落葉が飛び散るのは自明の理だ。市役所へは苦情が殺到するかもしれない。大量の落葉の掃除を考えれば、その費用だけでもかなりな額に嵩むであろう。また冬になれば、一年かけて伸び放題だった枝の剪定もせねばなるまい。ならば、落葉する前に整枝をすれば、落葉の清掃作業費はまるまる浮かせるし、整枝の作業費はもともと予算化済だ。
「これだ! 名案だ!」と、市役所の担当は合点したに違いない。

 斯くして横須賀市役所は、「道路整備事業」の一環としてメープル並木の整枝作業を早めに発注したのであろう。
「整枝作業を即刻行うべし。作業遅れにより落葉が始った場合は、その清掃費用は業者負担とする」との発注条件であったかもしれない。 元来、植木職人はメープル本来の美しさを最も心得ている筈だが、「清掃費用の負担までさせられては敵わぬ」とばかり、美しい盛りのメープルを、彼等は泣く泣く剪定したに違いあるまい。

 かえす返すも残念、大落胆の紅葉狩りであった。

           
            はからずも類まれなるメープルの

            紅葉並木に息をのむかな


            あの並木の紅葉狩せむと連れ立ちて

            カメラ携え ふたたび訪ねつ


            息をのみ言葉を失う並木かな

            紅葉の一葉も無きぞ哀しき


            浅はかな思慮とや言はむ お役所の

            能吏と言うや紅葉を刈るとは







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