陸奥の宿では、早朝の湖畔の散歩が虚庵居士のお気に入りだ。
宿の敷地の中とはいえ広大な湖ゆえ、一周するにはかなりの時間がかかる。朝の散歩では、早起きしないと叶わぬのが辛いところだ。前の晩も呑みすぎて午前様だった虚庵居士は、何時もの散歩コースのごく一部分で我慢せざるを得なかった。
湖の縁の散歩道から、チョットだけ離れた小径に足を踏み入れたら、「まゆみ・真弓/檀」の実が揺れていた。
真弓は秋になれば、木の葉も実も見事な紅に染まるので、遠くからでも目立つ存在だが、紅葉にはまだちょっと早かった。だが、実は仄かに色づき初めて、初秋の薄化粧といった気配だった。
実の表面には既に朱を差した筋が交差しているが、やがてこの線に沿って皮が破れ、中から真紅の実が顔を出す日も遠くあるまい。
そんな「まゆみ」の写真をインターネットで探したらに、イメージにぴったりの写真をみつけた。桃色に色付いた外皮が十字に割れて、中から艶やかな紅の実が顔を覗かせているではないか。小鳥たちに「食べて、たべて!」とセガンデいる様が何とも可憐そのものだ。
HP・せいいちろうのへや より借用
朝露を小径に踏めばまゆみゆれて
おとめご微かに挨拶するらし
稚けなき乙女ごなるかと思ゆるに
仄かな化粧に愕かれぬる
秋の日も深まりゆかば装いを
紅に染むその日を観まほし
実を包む衣を破りそのひまゆ
真紅したたる身をのぞかせるとは
激しくも恋ふる乙女か艶やかに
滾る想ひを誰に捧ぐや
あい集い小鳥ら啄ばむその声を
秋の真弓は如何に聴くらむ
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