「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「小菊の香り」

2011-01-05 00:32:30 | 和歌

 黄色の小菊が肩を寄せ合って、日向ぼっこをするかのように咲いていた。

 菊には様々な種類があるが、この小菊にはどんな名前が付けられているのだろうか。
子供の頃、虚庵居士の生家では切り花菊を専門に栽培していたので、夏から秋にかけてはかなり広い庭一面が、菊で埋め尽くされていた。ご承知のように菊は独特の香りが強い花ゆえ、そんな時節はまさに菊の香に包まれての毎日であった。菊の手入れをする家族の体からも、「菊の移り香」が薫りたつので、菊の畑だけでなく家の中にも菊の香が満ちていた。今でも菊の香りを嗅ぐと、当時の情景が懐かしく思い出される。

 中学生になった最初の秋の運動会で、絵の専門の長田先生が運動場入り口に花文字看板を造ろうと、子供たちに呼びかけた。自宅に咲く花を皆で持ち寄る計画だ。約束の金曜日の朝、イガクリ頭の虚庵居士は自分自身が入れるほど大きな背負篭に、菊の花を一杯に詰めて登校した。長田先生は目を丸くして愕いた。友達全員が持ち寄った花の量の、何倍かの菊の花が図画教室の床に山となったのだから。

 図画教室は子供たちの歓声と先生の声が交差して、立派な花文字看板が半日がかりで出来上がった。当初の先生の構想は、文字だけを花で書くつもりだったようだ。花が足りなければ、ちり紙に色を付けて代用する心算だったと、後で判ったが、結果的には文字の部分だけでなく、大看板の額縁も文字の周りの余白も、菊の花で埋め尽くされて、それは立派な大看板が出来上がった。翌日の土曜日の運動会では、子供たちが集まって大看板を見上げて歓声をあげていた。長田先生は看板を掲げ終えて、晴れ晴れとした笑顔であった。

 運動会が終わって暫らくしたら、長田先生が虚庵居士の生家を訪ねて来られた。両親に深々と頭を下げて礼を言い、菊の花が見事に描かれた油絵を差し出した。ご自分で描いた作品を額に入れて、記念にご持参下さったものだった。此処まで書いてきたら、その時の先生の言葉が耳に甦って来た。
「花額を子供達と造り終えて帰宅しましたら、家内から『菊の移り香が貴方の体から薫ります』と言われました」と、破顔大笑の先生であった。





              身を寄せて咲きにし小菊に子供らの

              押しくらゴンべを懐かしむかな


              大みそか過ぎて咲くとは黄小菊と

              共に語らむ日向ぼっこに


              足とどめ屈めば薫る菊の香は

              遠きむかしのふる里の香ぞ







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