「うつろ庵」の万両が、赤い実を付けて久しい。
この万両は、小鳥の置き土産がいつの間にか成長して、実を付けるまでになったものだ。「うつろ庵」を取り囲む生垣に沿って、ツツジのフラワーベルトが植えられているが、その背丈を超えて顔を覗かせ、やっとその存在に気が付いた「うつけ者」の虚庵居士であった。
成長が遅い万両ゆえ、多分十余年をツツジに囲まれて、じっと耐えていたことであろう。些か涕ぐましい成長の物語が偲ばれる。
赤い実を新年のお飾りにしようと、玄関前の甕の上に置いた。
万両にとっては晴れがましい役回りで、清貧の「うつろ庵」には相応しい設えのつもりであったが・・・。
正月二日は、早朝から烈風が吹きすさんだ。朝寝坊の虚庵居士が身支度を整えて玄関を出たら、万両の鉢は、何と甕から吹き落され、鉢は割れていた。
幸いにも、万両に怪我は無かったので、早速代え鉢に植替えた。
万両の涙ぐましい成長の物語に敬意を表して、年代物の鉢に植えてあったが、安物の鉢で我慢して貰うことにした。
紅の実粒の耀く万両を
年の初めの飾りに据えにし
清貧のうつろ庵には相応しく
万両晴れて 立役なるかな
あろうことか 烈風吹き荒れ万両を
鉢もろともに吹き飛ばすとは
万両を見せばやとして設えを
高みにせしを悔やむ爺かな
幸いに いとしき万両怪我もなく
代え鉢に植え再び飾りぬ
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