横須賀から観音崎へ向かう国道16号線は、東京湾に沿っているが、椰子並木が数キロに亘って連なっているので、遠方から態々やって来る方々も多いようだ。海岸を走る2キロ程の区間では、かつて異常高潮と台風が重なって、東京湾の海水が激しく防波堤を越えて、幹線道路や住宅の道路を水浸しにしたことがあった。この様な苦い経験から、徹底した越波対策を取り入れて大型の防波堤が構築されて久しいが、今や市民の散歩のプロムナードとして親しまれているこの頃だ。
此処の工事にあたった彼等は、海水の水しぶきが被ることをも想定して、椰子並木の根じめの選択には、様々な調査や実験を繰り返していた。そんな彼らの努力を知る者は、今や殆ど居るまい。結果的に選ばれたのは、トベラ・磯菊・アイスプランツの3種であった。
磯菊は、浜辺でもよく見かける野草だが、椰子並木の栄えある根じめに選ばれてからも、黄色の小菊が秋のかなりの期間に亘って咲き続けてきた。大寒を過ぎて、常緑の磯菊も流石に一部の葉は枯れたが、間もなく節分を迎えるこのごろ、寒に耐えて黄色の花を誇らしげに咲かせていた。
人間社会でも同じだが、厳しい環境に打ち勝つ健気な姿をみると、「やあ、ガンバッテルね!」と声を
掛けたくなる。背の低いアイスプランツと肩を組むかの様に、咲いている磯菊もあるではないか。
声を掛け合い、励まし合っているかにも見えて、ほほ笑ましい情景だ。
海べりの椰子の並木の根じめとて
磯菊選ぶ男の思いは
数々のプランターをぞ思ほゆる
波打つ岸辺に耐えるは何ぞと
磯菊は己の出自を思ふらし
波打つ浜辺を遥かに偲びて
磯に咲く常に緑の菊なれど
拍手を送らむ錦を纏ふて
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