川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

下流議論ふたつほど

2007-11-06 21:10:18 | ひとが書いたもの
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2007-01-31
格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書 231)格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書 231)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2007-05-19

また、訳あって読んでいる。「下流」言説の本丸(?)的な文章を読むのは、これがはじめて。






「下流志向」は、印象論の本なので、あまりコメントすべきことはない。何冊かの本と、著者自身の直接体験を中心に書かれているものだから、そういう印象論の本として扱うのが正しいだろう。


「格差が遺伝する」は、調査に基づいたものなのだけれど、この著者についてよく指摘される通り、データの扱いに不安を感じさせる筆致。もとになっている調査は、版元である宝島社がお金をだしたものだというのは、あとがきを読んで分かったのだが、冒頭には人数と、小学生の親、くらいの情報しかない。どういう質問をしたのか、どんなやり方で集めたのか、など、一定の情報はほしいなあ。これは信頼度の問題でもあり、また、こういう時事問題直結のテーマを批判的に読むために是非必要な情報でもある。


中身の分析でも、因果関係と相関関係についての意識が素朴だと感じる。
たとえば、92-93ページで、「明るい・健康的」と「成績が上」との相関を、どちらが原因でどちらが結果なのか、という議論をしているのだけれど、そもそも、このどちらかが原因でどちらかが結果といふうにすっぱり分けられるのだろうか。それこそ、交絡もあるだろうし、因果グラフ的な発想をしなければならないところではないだろうか。


75ページでは、今の日本の社会では、女性も結婚後、出産後も働くべしという方向に誘導されているにもかかわらず、早寝早起き朝ご飯のように、家庭の力をよりいっそう要するような方向のキャンベーンが張られることに違和感を表明しているくだりがあって、そうだよなあ、とまさに意を得たりだったったのだが、119ページでは、佐世保の小学6年生の事件で、母親が家にいる仕事ならああはならなかったかも、みたいなことを書いていて、つまりは、「女性は家にいろ」という議論なのかと勘ぐってもしまう。
違う意図だ、という読みも当然あるのだけれど。


格差の拡大を憂うという意味では、大変、現代的な問題意識を持った著者であって、もうすこし慎重に議論してくれたらなあと思うのだが。
とりわけ、統計、疫学の知識、再確認していただけませんか。とこんなところに書いても伝わらない可能性大だが、書いておく。せっかくあれこれ調査できる立場なのなら、実にもったいない。

寿命を決める社会のオキテとは??

2007-11-06 07:27:19 | ひとが書いたもの
寿命を決める社会のオキテ (進化論の現在)寿命を決める社会のオキテ (進化論の現在)
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2004-12-16

喫煙よりもストレスの方が体に悪い、という説の根拠としてあげられる本なので読んでみる。
簡単に述べると、「社会的な階層が健康に影響する」というもので、さらに言うと、生活水準の問題よりもむしろ「格差」の方が、健康に悪いという話。


格差の大きな社会の方で「下層」の人たちはより大きな健康リスクにさらされているのだそうだ。かりにその人たちよりも、ずっと生活水準の低い人でも、その国なりその地域なりが「均質」で「平等」なら、健康は上々。つまり生活水準の「絶対値」よりも「格差」の方が問題だというの話。


へえっと驚くような話なのだけれど、これ、どの程度の効き方をするものだろう。また著者の見解はどれくらい支持されているんでしょうか。


簡単に思いつく疑問としては……、必要な栄養を得られなかったり、不衛生な環境で感染症が蔓延するような社会は<きっと「格差」よりも、健康に悪い。どのあたりで、「絶対値」よりも「格差」の影響が大きくなるのだろう。
分からない。



いや、それだけじゃなくて、
この本、ほとんど定性的な話ばかりで、「量」が語られることがほとんどない。
メカニズムの推測には熱心だが(コルチゾールの影響とか、いろいろ)、オッズ比もリスク比も出てこない。
だから、そういう説があります、ということしか読み取れなくて、フラストレーションがたまる。


Further readingも特に挙げられていないけれど、このあたりを読んでみるべきなのかな。
社会格差と健康―社会疫学からのアプローチ社会格差と健康―社会疫学からのアプローチ
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:2006-08
不平等が健康を損なう不平等が健康を損なう
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2004-10



緊急ではないけれど、そのうち、読みます。


そうそう、喫煙との関係。
喫煙よりもストレスということは、この本からは読み取れない。



かりに「格差」が「喫煙」よりも効くリスクファクターだったとしても、喫煙・格差がそれぞれ寄与して、たとばえ肺がんなりなんなりのリスクを押し上げると考える方が自然だろう。
格差と喫煙の間には密接な関係があるというなら、そこは因果グラフの登場ですね。


さらにいうと……
これ、進化論の本、なんでしょうか??
ほんと謎が多い。