川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

下流議論ふたつほど

2007-11-06 21:10:18 | ひとが書いたもの
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
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格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書 231)格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書 231)
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また、訳あって読んでいる。「下流」言説の本丸(?)的な文章を読むのは、これがはじめて。






「下流志向」は、印象論の本なので、あまりコメントすべきことはない。何冊かの本と、著者自身の直接体験を中心に書かれているものだから、そういう印象論の本として扱うのが正しいだろう。


「格差が遺伝する」は、調査に基づいたものなのだけれど、この著者についてよく指摘される通り、データの扱いに不安を感じさせる筆致。もとになっている調査は、版元である宝島社がお金をだしたものだというのは、あとがきを読んで分かったのだが、冒頭には人数と、小学生の親、くらいの情報しかない。どういう質問をしたのか、どんなやり方で集めたのか、など、一定の情報はほしいなあ。これは信頼度の問題でもあり、また、こういう時事問題直結のテーマを批判的に読むために是非必要な情報でもある。


中身の分析でも、因果関係と相関関係についての意識が素朴だと感じる。
たとえば、92-93ページで、「明るい・健康的」と「成績が上」との相関を、どちらが原因でどちらが結果なのか、という議論をしているのだけれど、そもそも、このどちらかが原因でどちらかが結果といふうにすっぱり分けられるのだろうか。それこそ、交絡もあるだろうし、因果グラフ的な発想をしなければならないところではないだろうか。


75ページでは、今の日本の社会では、女性も結婚後、出産後も働くべしという方向に誘導されているにもかかわらず、早寝早起き朝ご飯のように、家庭の力をよりいっそう要するような方向のキャンベーンが張られることに違和感を表明しているくだりがあって、そうだよなあ、とまさに意を得たりだったったのだが、119ページでは、佐世保の小学6年生の事件で、母親が家にいる仕事ならああはならなかったかも、みたいなことを書いていて、つまりは、「女性は家にいろ」という議論なのかと勘ぐってもしまう。
違う意図だ、という読みも当然あるのだけれど。


格差の拡大を憂うという意味では、大変、現代的な問題意識を持った著者であって、もうすこし慎重に議論してくれたらなあと思うのだが。
とりわけ、統計、疫学の知識、再確認していただけませんか。とこんなところに書いても伝わらない可能性大だが、書いておく。せっかくあれこれ調査できる立場なのなら、実にもったいない。

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