トヨタが起こしたリコール問題は、日本製品の品質優位性を大きく揺るがすようなものです。
日本の代表的企業が、これほどまでに品質問題を起こしてしまったのか?
私は、数ヶ月前、トヨタシステムを構築された大野氏の元部下であり、現在、トヨタの技監をされている方の講演を聴きました。その話は、次のようなものです。
①経営理念である社会貢献を行うためには、会社の継続が必要。
②会社を継続させるためには、利益をあげる必要がある。
③利益=売上ー費用 からなる。
④売上は、市場で決まるため、自分では動かせない。利益を上げるには、費用の削減しかない。
この論理展開から、あとは、全てトヨタの生産方式の話となりました。
講演の最後で、『これほど完全に見えるトヨタで、問題はないのか?』という質問に対して、若い人の中に仕事のプレッシャーから鬱になる人が出てくるという話がありました。
仕事で鬱になる人がいるというのは、プレッシャーの強い職場では、容易に想像できることなので、実質的には、大きな問題はないという意味なのでしょう。
私が、印象的だったのは、利益を上げる方法を原価削減としていたことです。
私は、経営の基本は、ブランド構築をし、売上単価を上げ続け、そのブランドをさらに利用して、汎用品を売っていくことが良いと思っています。
売上単価の増加にこだわるか、原価削減にこだわるか人によって異なると感じました。
しかしながら、原価削減によって、利益を出し続けるためには、安全性との兼ね合いで、ぎりぎりのところまでコストダウンしなくてはなりません。
つまり、リコール問題は、常に綱渡り状態になっていたわけです。
この問題は、起きるべくして起きた問題ではないでしょうか?
原価削減により利益を出す経営スタイルから、ブランドを売価に転化し、高級車に最大限ターゲットを絞り込んだ上で、結果として大衆車も販売できるリーディングカンパニーに転換する時期なのでしょう。
この方策として、もちろん、レクサスがあるわけですが、その販売に苦戦してしまったのは、経営の本質が、ブランド戦略ではなく、生産システムにあったせいなのかもしれません。
今回の問題は、日本の製造業の象徴的な問題で、今後の方向性を見るうえで、非常に重大なメッセージであったような気がします。