kintyre's Diary 新館

野球(西武ファン)や映画観賞記等を書き綴っています。野球のオフ期には関心の高いニュース等も取り上げています。

映画『悪童日記』を観て

2014-10-18 14:34:07 | ヨーロッパ映画

14-82.悪童日記
■原題:Le Grand Cahier(英題:The Notebook)
■製作年、国:2013年、ドイツ・ハンガリー
■上映時間:111分
■料金:1,800円
■鑑賞日:10月18日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)

 

□監督・脚本・製作総指揮:ヤーノシュ・サース
□脚本:アンドラーシュ・セーケル
◆アンドラーシュ・ジェーマント
◆ラースロー・ジェーマント
◆ピロシュカ・モルナール
◆ウルリッヒ・トムセン
◆ウルリッヒ・マテス
◆ギョングベール・ボグナル
◆オルソルヤ・トス
◆ザビン・タンブレヤ
◆ペーター・アンドライ
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
第二次世界大戦末期の1944年8月14日。双子の兄弟は母親に連れられ、村人から“魔女”と呼ばれる祖母が暮らす国境に近い田舎へ疎開する。母親と別れた兄弟に与えられた仕事は、薪割りと水汲み、そして鶏や豚への餌やり。
祖母の家の敷地には川があり、その先は外国だった。やがて仲良くなった隣家の少女と一緒に、町の酒場で寸劇などをして小銭を稼ぎ始める。また、森の中では兵士の遺体を発見し、そこから武器を盗む。その一方で、母親が自分たちに送ってくれた物資を祖母が隠していたことを知る。いつまでも迎えに来ない母親を忘れるため、精神を鍛える訓練で母の手紙と写真を焼き、残酷さに慣れる訓練として虫や魚などの生き物を殺す。兵士の遺体から奪った手榴弾を司祭館のストーブに投げ入れた兄弟は、女中に大火傷を負わせたことから警察に連行され、拷問を受ける。2人を助けたのは、祖母の家の離れに住む外国人将校だった。

戦争が終わったとの噂を耳にして、祖母と一緒に収容所を見に行くが、そこには何も残っていなかった。そして、外国語を話す軍隊がやって来る。その戦車に乗せてもらった隣の女の子は、死体になって帰ってきた。死にたいと言う女の子の母親の求めに応じて、家に火を点ける兄弟。やがて、赤ん坊を抱いた母親が車でやって来るが、空から落ちてきた爆弾で赤ん坊とともに命を落とす。2人の遺体を埋めていた祖母が、発作を起こして倒れる。そこへ、兵士として戦っていた父親が現れ、墓地に埋葬するために母の遺体を掘り起こすが、その際に赤ん坊の存在を知る。そして祖母が亡くなる。言われた通りに祖母の遺体を清め、母親の隣に埋めた兄弟は翌朝、逮捕を逃れるために逃亡を図る父親を国境の鉄条網へと案内する。だがそれは、2人にとって“別れ”という最後の訓練でもあった。

この作品には特定の場所は出てこないが、原作者の出身がハンガリーであることから、舞台はハンガリーの国境付近の寒村が舞台であることは容易に想像出来るし、外国軍というのも恐らくナチス・ドイツ軍であろう。だが、この映画はハンガリー対ナチス・ドイツがメインでは無い。こういう時代を生きることになった双子のお話であり、予期せぬ両親との別離、望まない祖母(母方)との陰湿な生活。だが、二人は誰に言われることもなく「一心同体」で成長していく。きつく当たる祖母を怨みながらも子供なりに祖母に逆らって叩き出されたら困るのは自分たちであると理解している。
そんな祖母との生活が続く中、戦争は終わり母が見知らぬ幼子を連れて迎えに来たが、あれほどまでに母の帰還を望んでいた双子達は憎んでいた筈の祖母との生活を選択、その最中に爆撃にあい母と幼子は即死する。そして祖母も心臓発作で亡くなり、帰還した父は身の危険を感じて国境を越えようと双子の案内で試みるが、二人はしたたかだった。悲しみを超えて時代を生き抜こうとする二人は父が超える事の出来なかった国境の鉄条網を超えて別々の人生を生きることになるのだろう。
映画は明確なラストを描いていないが、既に、人生の荒波を経験した二人がこれからも荒波を突き進み己の人生を築いて行くのだろう、そんな未来が待っていると自分は感じた。 


映画『エヴァの告白』を観て

2014-03-02 17:35:31 | ヨーロッパ映画

14-24.エヴァの告白
■原題:The Immigrant
■製作年、国:2013年、アメリカ・フランス
■上映時間:118分
■料金:1,000円
■観賞日:3月1日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)



□監督・脚本・製作:ジェームス・グレイ
□脚本:リチャード・メネロ
◆マリオン・コティヤール
◆ホアキン・フェニックス
◆ジェレミー・レナー
◆ダグマラ・ドミンチック
◆ジッキー・シュニー
◆エレーナ・ソロヴェイ
◆マヤ・ワンパブスキー
◆イリア・ヴォロック
◆アンジェラ・サラフィアン
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
マリオン・コティヤール、ホアキン・フェニックス、ジェレミー・レナーらが豪華共演を果たした人間ドラマ。より良い人生を求めてアメリカに移住してきた女性が、さまざまな出来事に振り回されながらもたくましく生き抜く姿を映し出す。
1921年1月、エヴァは妹マグダを連れて、戦火の祖国ポーランドからアメリカを目指し、ニューヨークのエリス島に辿り着いた姉妹は希望に胸を躍らせ、迎えの叔母夫婦を待っていた。
ニューヨークに辿りつくが、病気の妹マグダは入国審査で肺病だと診断され6ヶ月間隔離されることに。エヴァ自身も船内での素行を理由に入国の許可が下りなかった。しかし、強制送還を待っていた彼女の美しさに一目で心を奪われたブルーノが係員に賄賂を握らせ、救いの手を差し伸べる。彼は、移民の女たちを劇場で踊らせ、売春を斡旋していた。エヴァは妹を救い出すため、厳格なカトリック教徒から娼婦に身を落とす。彼女に想いを寄せるマジシャンのオーランドに救いを求めるが、それもかなわなかった。エヴァは生きるため、ある罪を犯す。ある日、彼女は教会を訪れ、告解室で告白する……。

エヴァの妹を思う気持ちが物語の全てと言っても過言ではありませんでした。両親を失い姉妹二人で新天地に「移民」(原題)としてやってきて、その入り口で躓いてしまった姉妹。エヴァはブルーノの世話になりながらも、ブルーノは彼女を商売道具の一つとして見ていて恋心も持ち合わせてはいるもののエヴァにはそんな気持ちは通じない。
エリス島に迎えに来ている筈の叔母夫婦とも会えず、ブルーノの下宿先から住所だけを頼りに叔母夫婦宅を捜し当て一泊するものの、地元で地位を築いている叔父の裏切りにあい不法移民として通報されてしまう。もう、誰も頼れなくなったエヴァは売春で稼いだお金で妹を救おうと懸命になる。
ラストではエリス島へ密航し内通している係員からマグダを引き渡され再会を果たしニュージャージーへと向かって行った。やっと二人揃って新天地での生活が始まるのだった。

エリス島は当時は移民局がありここで入国審査を受ける。まさにその島でロケを敢行したことに意義がある。ブルーノの役柄はパンフレットによると、どうやらウクライナ系ユダヤ移民でもあるグレイ監督の家族の歴史も反映されているそうだ。
邦題だとエヴァが教会で告解したことを想起させられるが、原題はシンプルに「移民」なので、こちらの方がストーリー全体を現していると言えそうだ。
主演のフランス出身のマリオン・コティヤールはポーランド訛りの英語、ポーランド語を駆使する難しいキャラだったが、決して美貌だけではない演技力のしっかりした国際女優であると再認識させられた。


映画『17歳』を観て

2014-02-28 16:08:27 | ヨーロッパ映画

14-22.17歳
■原題:Jeune & Jolie(英題:Young & Beautiful)
■製作年、国:2013年、フランス
■上映時間:94分
■料金:1,800円
■観賞日:2月28日、新宿ピカデリー(新宿)



□監督・脚本:フランソワ・オゾン
◆マリーヌ・ヴァクト
◆ジェラルディン・ぺラス
◆フレデリック・ピエロ
◆シャーロット・ランプリング
◆ファンタン・ラヴァ
◆ヨハン・レイセン
◆ナタリー・リシャール
◆ジェジェ・アパリ
◆リュカ・プリゾール
◆ロラン・デルベク
◆ジャンヌ・リュフ
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
フランソワ・オゾン監督が、少女から大人へと変化を遂げる17歳の女子高生の心理とセクシュアリティーをあぶり出す青春ドラマ。主演は、モデル出身のマリーヌ・ヴァクト。『輝ける女たち』などのジェラルディーヌ・ペラスや『まぼろし』などのシャーロット・ランプリングが共演。
夏。パリの名門アンリ4世高校に通うイザベルは、医師の母シルヴィとその再婚相手の義父パトリック、弟のヴィクトルと共に、リゾート地でバカンスを過ごしている。華奢な身体にあどけない顔立ちながら、その眼差しはどこか大人びていた。ある夜、こっそり外出した彼女は、知り合ったドイツ人青年フェリックスと海辺で抱き合い、初めての体験を呆気なく済ませる。
翌日、再び会いに来たフェリックスに対して、イザベルは素っ気なかった。数日後に開かれた17歳の誕生パーティーにも、フェリックスは招かれなかった。そしてバカンスが終わると、別れの挨拶もないままイザベルは去って行く。

秋のパリ。イザベルは、SNSを通じて知り合った不特定多数の男たちと密会を重ねていた。放課後になると家から持ち出した母の洋服を纏い、駅のトイレで身支度を整え、待ち合わせ場所へ向かう。名前は“レア”(母方の祖母の名前)、身分は20歳のソルボンヌ大学文学部2年生と偽っていたが、相手には直ぐにそれが嘘だとばれるのはご愛嬌。
帰宅すると、男たちから受け取った300ユーロを誰にも見つからないようにクローゼットにこっそり隠し、お手伝いにさんにもバレずに。
彼女の若さと美しさに心を奪われ、たびたび連絡してくる初老の男がいた。既婚者で娘もいる彼の名前はジョルジュ。その紳士的な態度が気に入ったイザベルは、定期的に会い続ける。そんな時、事件が起きた。ジョルジュが心臓発作を起こし、ベッドの上で息を引き取ってしまったのだ。動転したイザベルは、心臓マッサージを施すが間に合わず、逃げるように部屋を立ち去る。

冬。何も知らないシルヴィの病院に突然、警察官が訪れる。亡くなったジョルジュと最後に一緒にいた相手がイザベルであることが判明し、捜査の手が伸びたのだ。状況が飲み込めないシルヴィだったが、娘の部屋から大量の札束が発見されたことで、ようやく事態を理解。だが、イザベルは未成年であることから起訴されず、カウンセリングに通うことで放免になる。稼いだお金は母が慈善団体へ寄付すると言い放つが...(売春で稼いだお金を寄付するのはどうよ?)。

問い詰める母の言葉に、イザベルは何も答えない。医師の母は多忙な仕事を理由に放任主義、義父との関係は悪くはないがイザベルが信頼を置けるような関係でも無く、実父とは疎遠のような間柄。
イザベルの相手が父以上に歳の離れた男性ばかりを相手にしていることからファザコンかとも想像出来るが、会話からはそのように感じないし、逆に若い男には興味が無い様だ。夏に誰でも良いから初体験だけを済ませたことで何かのスイッチが入ったイザベル。SNSを駆使して相手を物色するのは現代的だが、何を考えているか判らない?そんな17歳像をオゾン監督自身の視線で描いたのだろう。
オゾン監督作品には欠かせないシャーロット・ランプリングがどこで登場するのか注目していたが、ラストで登場。腹上死したジョルジュの老妻として、自分の夫が最後を共にした女と会いたいと亡くなった部屋で面会する。こういう登場の仕方が有ったか~、これはかなりインパクトがあった。そこで夫には常に女の影があったことを告白、それを清聴するイザベル。このシーンでエンドロールへと突入した。

主役イザベルを演じていたマリーヌ・ヴォクトはモデルらしく17歳ではないが美しい女優さんだった。今後のオゾン作品への再登場もあるのだろうか?際どい会話でイザベルに突っ込みを入れる弟も良かったな~。


映画『オンリー・ゴッド』を観て

2014-02-01 18:35:31 | ヨーロッパ映画

14-12.オンリー・ゴッド
■原題:Only God Forgives
■製作年、国:2013年、デンマーク・フランス
■上映時間:90分
■料金:1,000円
■観賞日:2月1日、ヒューマントラストシネマ渋谷(渋谷)



□監督・脚本:ニコラス・ウィンディング・レフン
◆ライアン・ゴスリング
◆クリスティン・スコット・トーマス
◆ウィタヤー・パーンシーガーム
◆トム・バーク
◆ウィーラワン・ポンガーム
◆ゴードン・ブラウン
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
ライアン・ゴズリング主演、ニコラス・ウィンディング・レフン監督という『ドライヴ』のコンビによるクライム・サスペンス。タイのバンコクで暮らすアメリカ人の男が殺された兄の復讐に挑む姿をバイオレンス描写満載で描く。
アメリカを追われたジュリアンは、今はタイのバンコクでボクシング・クラブを経営しているが、実は裏で麻薬の密売に関わっていた。そんなある日、兄のビリーが、若き売春婦を殺した罪で惨殺される。巨大な犯罪組織を取り仕切る母のクリスタルは、溺愛する息子の死を聞きアメリカから駆け付けると、怒りのあまりジュリアンに復讐を命じるのだった。しかし、復讐を果たそうとするジュリアンたちの前に、元警官で今は裏社会を取り仕切っている謎の男チャンが立ちはだかる……。

『ドライヴ』のコンビによる作品で、あの作品でも夜が中心の映像であったが、今作はほぼ全編が夜の場面であり、又、セリフが極端に少ないのも特徴。冒頭から中々会話が登場しない、従って、映像から観客自身がセリフを感じなければレフン監督作品は成り立たない。
今作は犯罪組織を牛耳る母が息子を殺され、その報復を弟に命じるものの弟は兄の悪事を知ってしまい復讐を諦める。弟ジュリアンと謎の男チャンが立ちはだかるという構図。これを赤と青の映像で延々と語り、結局はジュリアンも...。見たいなエンディングで、これでは賛否両論が極端に分かれると言うより、賛否の否の方が多いだろうな~。

まあ、そんな作品でしたね。これ以上、語る事は難しいです。


映画『ハンナ・アーレント』を観て

2014-01-25 23:15:34 | ヨーロッパ映画

14-9.ハンナ・アーレント
■原題:Hannah Arendt
■製作年、国:2012年、ドイツ・ルクセンブルク・フランス
■上映時間:114分
■料金:1,800円
■観賞日:1月25日、吉祥寺バウスシアター(吉祥寺)



□監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
□脚本:パメラ・カッツ
◆バルバラ・スコヴァ
◆アクセル・ミルベルク
◆ジャネット・マクティア
◆ユリア・イェンチ
◆ウルリッヒ・ノルテン
◆ミヒャエル・デーゲン
◆ニコラス・ウッドソン
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
 『ローザ・ルクセンブルグ』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督と、主演のバルバラ・スコヴァが再び手を組んだ感動の歴史ドラマ。ドイツで生まれ、第2次世界大戦中にナチスの収容所から逃れてアメリカに亡命した哲学者ハンナ・アーレントの不屈の戦いを描く。
ドイツに生まれ、ナチスの台頭により始まったユダヤ人迫害の手を逃れアメリカに亡命したユダヤ人ハンナ・アーレントは、第二次世界大戦後に全体主義や全体主義を産んだ政治思想に関する考察を発表、哲学者として敬愛されていた。1960年代初頭、何百万人ものユダヤ人を強制収容所へ送致したナチス戦犯アドルフ・アイヒマンが逮捕され、イスラエルで裁判が行われることになる。
特別な裁判権もなくエルサレムの地方裁判所で行われたこの裁判に正当性はあるのか、イスラエルはアイヒマンを裁く権利があるのか、アイヒマンは極悪人ではないなどといった、ハンナがこの裁判を通しての考察をまとめたレポート『イェルサレムのアイヒマン』を『ザ・ニューヨーカー』誌に発表するやいなや、ナチズムを擁護するものではないかと大バッシングを受ける。逆境に苦悩しながらも、ハンナは、考えることで人間は強くなるという信念を持ち続けた……。

ハンナ・アーレントに関する人物像は元々持ち合わせていなかったが、アドルフ・アイヒマンについては辛うじてナチス時代にユダヤ人迫害に関わった重要人物ということだけは知っていて観た作品。
アイヒマン裁判についての作品だと思ったら拍子抜けする、これはあくまでもタイトル通り「ハンナ・アーレント」の一時期にスポットを当てて描いたもので、その時期とはアイヒマンが逃亡先のアルゼンチンでイスラエル情報機関「モサド」に身柄を確保され連れ去られた1960年以降の話だ。それでもアイヒマンの裁判シーンは当時の実写フィルムが使用されていて、それを傍聴するハンナは現在だ。
彼女は無国籍者として米国へ逃れてやがてニューヨークで生活しハーヴァード大学などで客員教授を務め、1963年にアイヒマン裁判レポートを「ザ・ニューヨーカー」誌に発表するが、これが物議を醸した。アイヒマンをナチスから言われるがままに事務的に処理しただけだと裁判で証言し、彼女もそれに沿った記事を書いたことから「アーレントによるアイヒマン擁護」と非難され、彼女の元には誹謗中傷の手紙が殺到するのだった。

ハンナ・アーレントを演じるバルバラ・スコヴァは訛りの強い英語とドイツ語を操りながらもその人物像を見事に演じていたと思う。物語的には師事していたマルティン・ハイデガーとの関係をもう少し描いても良かったのではないだろうか?物語の中心はあくまでもアイヒマンがモサドに拘束された1960年から彼女が裁判をイスラエルで傍聴し夫の病気で筆が進まずに1963年に完成するまでの間を描いている。
それにしてもハンナはどんな場面でも常に煙草を吸っていて、かなりのチェーン・スモーカーであるのには驚いた!


映画『さよなら、アドルフ』を観て

2014-01-19 23:04:05 | ヨーロッパ映画

14-8.さよなら、アドルフ
■原題:Lore
■製作年、国:2012年、オーストラリア・ドイツ・イギリス
■上映時間:109分
■料金:1,800円
■観賞日:1月19日、シネスイッチ銀座(銀座)



□監督・脚本:ケイト・ショートランド
□脚本:ロビン・ムケルジー
◆サスキア・ローゼンダール
◆カイ・マリーナ
◆ネレ・トゥレーブス
◆ウルシーナ・ラルディ
◆ハンス・ヨッヘン・ヴァーグナー
◆ミーカ・ザイデル
◆アンドレ・フリート
◆エーファ・マリア・ハーゲン
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
レイチェル・シーファーの小説『暗闇のなかで』を映画化。終戦後のドイツを舞台に、ナチ親衛隊高官の子供たちが直面する過酷な運命を描く人間ドラマ。2013年アカデミー賞外国語映画賞オーストラリア代表作品。
1945年春、敗戦後のドイツ。ナチ親衛隊の高官だった父と母が、連合軍に拘束される。置き去りにされた14歳の少女ローレは、幼い妹、弟たちを連れ、900キロ離れた祖母の家を目指す。終戦を境に何もかも変わってしまったドイツでは、ナチの身内に対する世間の風当たりは冷たく、たとえ子供であっても救いの手を差し伸べる者はいなかった。そんな中ローレは、ナチがユダヤ人にしてきた残虐行為を初めて知る。さらに、ローレたちを助けてくれるユダヤ人青年トーマスが旅に加わり、ローレがこれまで信じてきた価値観やアイデンティティが揺らぎ始める……。

ナチス時代を扱った映画が数多く有る中でも、この作品では直接ナチスが前面に出て来る事は無い。原題はただ単に姉妹弟達の長女ローレの名前で、邦題には?が付く。
ナチスの高官だが家庭では優しかった父と母がヒトラー政権の崩壊で連合軍側に拘束され、残された子供たちは900キロ離れたハンブルグに住む祖母宅を目指す。そこに辿り着くまでの子供たちの苦しみは、結局、ナチス時代が終焉を迎えドイツは連合国側によって分断され、途中、あれ程嫌っていた(親の影響を受けていたローレは特に)ユダヤ人青年トーマスが途中から一緒に旅することで救われるのは皮肉だった。
そのトーマスとも途中で別れてしまい(と言うより彼の方から半ば一方的に)子供たちはかすかな記憶を辿って祖母宅を再び目指すが、道中で弟を一人既に失っており、14歳のローレにはキツイ旅だった。

この旅で子供たちは自分が信じていたアイデンティティが敗戦(ヒトラー政権崩壊)によって崩れ、道中でユダヤ人虐殺の事実も知り、それに父が関わっていたことも知る。両親を失って厳しい現実を突き付けられながらも何とか祖母宅に到着。だが、そこでは心が安らぐはずもなく、住んでいた南部ドイツとは風土も異なり規律も躾も祖母は厳格で過去に自分が受けてきたナチの教育と重なった。
過去と決別して生きなければならないローレ達、これから先この子供たちの将来はどうなるのか(或いはどうなったのか)気になるエンディングだった。

これはオーストラリア人監督が全てドイツ語で撮った作品で、子供たちの視線からみたヒトラー政権崩壊後のドイツを描いている点が新鮮に映った。ヒトラーが亡くなって動揺する両親と、何が何だか分からないままに価値観の変った世界へいきなり放り込まれた子供たちの戸惑いを良く描いていた。


映画『鑑定士と顔のない依頼人』を観て

2013-12-30 12:45:44 | ヨーロッパ映画

13-109.鑑定士と顔のない依頼人
■原題:La Migliore Offerta(英題:The Best Offer)
■製作年、国:2013年、イタリア
■上映時間:131分
■料金:0円(1カ月FP5本目)
■観賞日:12月30日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)



□監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
□音楽:エンニオ・モリコーネ
◆ジェフリー・ラッシュ
◆ジム・ズタージェス
◆ドナルド・ザザーランド
◆シルヴィア・フークス
◆キルナ・スタメル
◆リヤ・ケベデ
◆ダーモット・クロウリー
◆フィリップ・ジャクソン
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、刺激的な謎をちりばめて紡ぐミステリー。天才鑑定士が姿を見せない女性からの謎めいた鑑定依頼に翻弄(ほんろう)されていくさまを、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの音楽に乗せて描く。

ヴァージル・オールドマンは、世界中のオークションで活躍する一流オークショニア。早くに親を亡くし、結婚もせず、友人もいない人間嫌いの彼の楽しみは、自宅の隠し部屋の壁一面に飾った女性の肖像画鑑賞だった。
自分が仕切るオークションで、パートナーのビリーが名画を格安で落札するよう仕向け、自分のコレクションに加えていたのだ。そんな彼の元に、クレア・イベットソンと名乗る女性から電話が入る。1年前に亡くなった両親が遺した家具や絵画を鑑定してほしいという依頼だった。
指示された邸宅に向かったものの、彼女は姿を見せず、後日再び訪問したところ、使用人のフレッドが現れる。やむなく1人で家の中を見て回ったヴァージルは、地下室の床に転がった何かの部品に気付き、密かに持ち帰る。だが、鑑定が進んでもクレアは一向に姿を見せない。フレッドによると、歳は27だが、奇妙な病気を患っており、11年の勤務中に一度も会ったことがないとの事。
やがて、修理屋のロバートに調査を依頼していた謎の部品が、18世紀に作られた機械人形の一部である可能性が出てきた。数日後、“広場恐怖症”と呼ばれる病気により、“15歳から外へ出ていない”と告白したクレアに同情したヴァージルは、壁越しのやり取りに同意する。自由な出入りを許され、彼女が屋敷の隠し部屋で暮らしていることに気付くと、影に隠れて彼女の姿を目撃。美しいその素顔に、恋に落ちてしまう。

再度の覗き見を彼女に見つかった時、ヴァージルは全てを打ち明け、遂に対面を果たす。互いに心を許してゆく2人。ところが、外出に強い拒絶反応を示していたクレアが、ある日忽然と姿を消す。果たして、鑑定依頼の本当の目的は?そして、クレアの過去に隠された秘密とは?謎はまだ、入り口に過ぎなかった……。

この映画ってラストを知ってから、自分の頭の中でシーンを振り返ると、どんなに小さなシーンにも全て意味があったというか繋がりがあったことが改めて判り、トルナトーレ監督の脚本の素晴らしさを認識させられた。

『ヴァージルのハマった罠』
①本プロジェクトのプロデューサー的な役割を果たしたのは、オークションの相棒ビリーだった。ビリーは彼に自分の画を酷評され続けていた。
修復家のロバートは、ディレクター的な役割を担う。プレイボーイの彼はクレアを利用してヴァージルが恋の盲目状態に陥るように数々の仕掛けを施す。古びた歯車の鑑定、オートマタの活用。特に後者はヴァージルが卒論に選んだテーマであることまで調査済みだった。
③クレアの住む古ぼけた屋敷、これはロバートが2年かけて完璧なセットを施す。クレアが12年間外出していないことになっていたが、それを見破っている謎の女性が向かいのカフェに居た。その女性の名前は...。何と驚きだった。
④ヴァージルはクレアと一緒になる。ヴァージルの自慢のコレクションである女性の肖像画が秘密の隠し部屋に所蔵されているシーンが登場。その視線は全てヴァージルに向けられている、全てオークションでセコイ手段を講じて手に入れた逸品揃いだ。だが、クレアと一緒になったことで安心したのか?それとも何時の間にか秘密部屋の暗証番号が流出したのか、クレア共々全て消えて無くなった。
ということは屋敷の使用人までグルだった?

女性との交際経験の無かったヴァージルが得た束の間の恋。消えたクララが以前語っていたプラハのカフェへと向かったヴァージル。
そこには無数の時計が。呆然とするオールドマンにウェイターが「おひとりですか?」と尋ねるも、一瞬、つまって…「あ、いや、人を待っている」と力無く返事するも、待ち人が現れることは無いだろう。美術品の鑑定眼力は超一流だったが、生身の人間の鑑定は素人だった。余生をどう過ごすのだろうか?

トルナトーレ監督は当初からジェフリー・ラッシュにヴァージルを想定して脚本を書いたそうだ。従って、彼の演技は実によくハマっているし、彼の個性も充分に活きている。オークションで仕切るシーンなどは素晴らしいし、クレアに徐々に惹かれて行く心境の変化も見事に表現している。それと相棒ビリー役のドナルド・サザーランド、やはり彼がこの罠の全てを仕切っていた。ただ者では無いね。
「アクロス・ザ・ユニヴァース」でブレークしたジム・スタージェスは、この罠の進行役?をこれも見事に疑われること無くこなしていたのは立派。彼が恋の指南役を務めなければこの罠は完成しなかっただけに良い味だしていた。


映画『パッション』を観て

2013-10-21 14:35:19 | ヨーロッパ映画

13-82.パッション
■原題:Passion
■製作年、国:2012年、フランス・ドイツ
■上映時間:101分
■料金:1,800円
■観賞日:10月20日、TOHOシネマズみゆき座(日比谷)

□監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
◆レイチェル・マクアダムス
◆ノオミ・ラパス
◆カロリーネ・ヘルフルト
◆ポール・アンダーソン
◆ミヒャエル・ロツショップ
◆ベンジャミン・サドラー
◆ライナー・ボック
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
若くして世界的な広告代理店のエグゼクティヴにのぼりつめたクリスティーンは、現在はベルリン支社の運営を任されながら、ニューヨーク本社への復帰を狙っている。
彼女と二人三脚で新作スマートフォン“オムニフォン”の広告を手掛けることになったイザベルは、忠実なアシスタントのダニとプロモーション・ビデオを制作。ロンドンでのプレゼンを成功させ、出張に同行したダークと一夜を共にする。イザベルがベルリンに戻ると、クリスティーンが手柄を横取りし、本社復帰の約束を取りつける。

その後もイザベルを翻弄するクリスティーンは、幼い頃不幸な事故で他界した双子の姉の話を聞かせる。同情したイザベルは思わず忠誠を見せるが、全て彼女を手なずけようとするクリスティーンの罠だった。ロンドン出張以来親密だったダークが突然別れ話を切り出し、イザベルはショックを受ける。会社の金を横領した弱みをクリスティーンに握られた彼は、利用された挙句、見捨てられたのだ。
クリスティーンの冷酷な本性を思い知ったイザベルは、オムニフォンのオリジナル・ビデオを動画サイトで公開。それは世界中の視聴者やクライアントの反響を呼び、イザベルはクリスティーンを出し抜いて本社栄転を勝ち取る。

クリスティーンはダークを操ってイザベルに精神的ダメージを与え、彼女が泣き叫ぶ姿を記録した監視カメラの映像を社内のパーティで上映する。屈辱から情緒不安定になったイザベルは薬物に依存する。ある日、クリスティーンが自宅で何者かに刃物で切り付けられ、殺される。ベルリン警察はイザベルの身柄を拘束。脅迫メールや現場に残された物証から彼女の犯行だと断定し、厳しい追及を受けた彼女もそれを認める。しかしイザベルは我を取り戻し、無実を主張する。再捜査の結果、イザベルのアリバイや脅迫メールに関する事実が判明。ダークが新たな容疑者として浮かび上がるが……。

デ・パルマ作品とのことで期待して観に行った作品。デ・パルマ作品だから、当然、単純な展開にはならず捻りをどう効かすかが観賞のポイントでしょう。クリスティーンは如何にもキャリアウーマン風のいでたちで、これをレイチェル・マクアダムスが妖艶に且つ役柄を良く理解して演じていたのには好感、今後、こういう役を演じる機会がありそうです。ノオミ・ラパスは演出なのか、終始、クリスティーンに振り回され実績を横取りされる気の毒なアシスタントのイザベルで、そのイザベルがクリスティーンに苛められている?様子を見ていたイザベルのアシスタントであるダニ、そんな女性陣に振り回される情けない男ダーク。この4者の人間(男女)関係と仕事上の力関係が事件とも密接に絡んでいるので、この辺を整理しながら観ていないと追い付けない。
イザベルがクリスティーン殺害犯であると意識朦朧の中で自白してしまい、その後、弁護士の必死の弁護のおかげで疑いは晴れるのだが、映像ではその間にオペラ観賞をしていてアリバイが有る様子を画面2分割で示している。

ラストシーン、クリスティーンの墓場での埋葬シーンだが、何やら意味深な終わり方。彼女が生前、双子の姉がいることを仄めかすシーンが度々出て来るので、もしかしたら亡くなったのは幻の姉?それともクリスティーン自身なのか?或いは妄想?あらゆる解釈が成り立つのだが、クリスティーンが実は生きていました、では理屈に合わない気もする。でも、そう思わせたいのがブライアン・デ・パルマ監督の意図なのかな?


映画『インポッシブル』を観て

2013-06-30 18:50:27 | ヨーロッパ映画

13-54.インポッシブル
■原題:Lo Imposible(英題:The Impossible)
■製作年、国:2012年、スペイン
■上映時間:113分
■料金:1,800円
■観賞日:6月29日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)



□監督:J・A・バヨナ
◆ナオミ・ワッツ
◆ユアン・マグレガー
◆トム・ホランド
◆ジェラルディン・チャップリン
◆サミュエル・ジョスリン
◆オークリー・ペンダーガスト
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
2004年末、マリアとヘンリーは、3人の息子と共に日本からタイにヴァカンスでやって来る。トロピカルムードあふれる南国で休暇を過ごすはずだったが、クリスマスの次の日、彼らは未曾有の天災に巻き込まれる。一瞬にして津波にのみ込まれ、散り散りになった家族はそれぞれの無事を祈りつつ再会への第一歩を踏み出す。

この映画の舞台は2004年末にスマトラ島沖で発生した未曽有の大地震と津波で、津波はインド洋全体に広がり東はマレーシア西はアフリカ大陸のソマリアにまで辿り着いた。日本からヴァカンスで行ったタイでこの地震に遭遇して津波に呑みこまれたのだが、観ていると何だかいきなり津波が到達したように描かれているけど、日本人なら分かっていると思うが、地震が発生して知らぬ間に津波が一気に到達した訳ではないので、その辺の描き方には違和感あり。大地震が発生したのだからTVニュースなどで確認出来る筈だけど、まあ、そういう細かい点は抜きにして、不運にも押し寄せた津波に呑まれ家族がバラバラになってしまい、お互いの生死が判明するまでの話。
息子が何かの役に立とうと収容された病院内で尋ね人を聞いたり捜したり、自分に出来る事をやろうとする姿勢には好感が持てた。

マリア役のナオミ・ワッツはアカデミー賞助演女優賞候補にこの作品でなった、非常に熱演で共演のユアン・マクレガーより目立っていた。
日本人としてはどうしても3.11の事があるので複雑な心境でみた作品でした。


映画『君と歩く世界』を観て

2013-04-15 18:36:58 | ヨーロッパ映画

12-32.君と歩く世界
■原題:De Rouille Et D'os(英題:Rust And Bone)
■製作年、国:2012年、フランス・ベルギー
■上映時間:122分
■観賞日:4月14日、新宿ピカデリー(新宿)
■料金:1,800円




□監督・脚本:ジャック・オディアール
□脚本:トーマス・ビデガン
◆マリオン・コティアール(ステファニー)
◆マティアス・スーナーツ(アリ)
◆アルマン・ヴェルデュール(サム)
◆セリーヌ・サレット(ルイーズ)
◆コリンヌ・マシエロ(アナ)
◆ブーリ・ランネール(マルシャル)
◆ジャン=ミシェル・コレイア(リシャール)
【この映画について】
両脚を失い絶望した女性が、ひとりの男性との出会いを経て再び人生に希望を見出していく姿を描いた人間ドラマ。主演は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のオスカー女優マリオン・コティヤール。監督は「真夜中のピアニスト」「預言者」の名匠ジャック・オーディアール。南仏アンティーブの観光名所マリンランドでシャチの調教師として働く女性ステファニーは、事故で両脚を失う大怪我を負い、失意のどん底に沈む。
そんなある時、5歳の息子をひとりで育てているシングル・ファーザーのアリと出会い、不器用だが真っ直ぐなアリの優しさに触れたステファニーは、いつしか生きる喜びを取り戻していく。(この項、映画.comより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
南仏アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師、ステファニーは、シャチのショーを指揮している最中にステージが崩壊、両足を失う大怪我を負ってしまう。過酷なハンディキャップを抱tえ、生きる希望さえ失っていく日々。そんな失意のどん底に沈んだステファニーの心を開かせたのは、彼女自身にとっても意外な人物だった。
ナイトクラブの元用心棒で今は夜警の仕事をしているシングル・ファーザー、アリ。彼は他者への愛を表現する術を知らない不器用な男であったが、他の人々のように同情心でステファニーに接するのではなく、両足がないことを知りながら彼女を海の中へと導いていく。やがてステファニーは、どこか謎めいていて獣のように野性的なアリとの触れ合いを重ねるうちに、すでに諦めていた生きる喜びを呼び覚まされ、自らの意思で未来へ踏み出す力をつかみ取っていくのだった……。

アカデミー受賞女優マリオン・コティアールの最新作は片足を失った女性の話。水族館でシャチのショーを指揮するステファニーは、興奮したシャチに襲われ足を失ってしまい、シングルマザーとしても生きる望みを失い絶望感の中で生きている。そんな中でこちらも未婚の父であるアリと出会うが、彼の「生業」は拳一つで生きるストリートファイターで夜警の仕事と掛け持って生活をしている。
未婚ながら子供がいる二人が出会い、どちらも恋愛に不器用なタイプの人間でありながらアリは何とかステファニーを立ち直らせたいとするが、彼女は怪我以降心を閉ざしてしまう。
人間としてはダメ男の部類に入りそうなアリ、そんなアリのストレートで不器用な生き方にどこか惹かれるステファニー。二人の関係は一度は破綻しかけるが、片足を失った自分を「障害者」としてではなく一人の女性として付き合い肉体関係まで結んだアリと最後はハッピーエンド的な終りで、これで二人の人生は共に前進することになる?お互いの子供同士はどういう関係になっていくのかな。

マリオン・コティアール、かなり難しい役柄だったと思うが、車椅子での演技は流石アカデミー受賞女優でこれがこの映画の最大の見どころだった。


映画『アンナ・カレーニナ』を観て~アカデミー賞受賞作品

2013-04-07 22:41:20 | ヨーロッパ映画

12-30.アンナ・カレーニナ
■原題:Anna Karenina
■製作年、国:2012年、イギリス
■上映時間:130分
■観賞日:4月7日、TOHOシネマズ渋谷(渋谷)
■料金:1,800円

 

□監督:ジョー・ライト
◆キーラ・ナイトレイ(アンナ・カレーニナ)
◆ジュード・ロウ(カレーニン)
◆アーロン・テイラー=ジョンソン(ヴロンスキー)
◆ケリー・マクドナルド(ドリー)
◆マシュー・マクファディン(オブロンスキー)
◆ドーナル・グリーソン(リョーヴィン)
◆ルース・ウィルソン(プリンセス・ベッツィー・トヴェルスカヤ)
◆エミリー・ワトソン(リディア・イワノヴナ伯爵夫人)
【この映画について】
ロシアの文豪L・N・トルストイの代表作を実写化した大作ドラマ。19世紀ロシアを舞台に、青年将校に惹(ひ)かれたのを機に政府高官である夫との愛のない結婚や社交界から離れようと決意した女性に振り掛かる試練を追う。
メガホンを取るのは、『つぐない』『ハンナ』などの鬼才ジョー・ライト。『つぐない』でライト監督と組んだキーラ・ナイトレイが、許されぬ恋に身を焦がしながらも自分らしく生きようとするヒロインのアンナ・カレーニナを熱演。実力派スターが集結した豪華な共演陣、豪華絢爛(けんらん)な衣装や美術も見どころだ。(この項、シネマトゥデイより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
19世紀末、帝政末期を迎えているロシア。サンクト・ペテルブルクで社交界の華と謳われる美貌の持ち主アンナ・カレーニナは、政府高官を務める夫カレーニンに愛情を持てずにいた。モスクワへ向かう中、騎兵将校のヴロンスキーと出会ったアンナ。二人は一目見たときから恋に落ちてしまう。自制心を働かせようとするも、舞踏会で再会したときには燃えさかる情熱を止めることができなくなっていた。アンナは社交界も夫も捨てヴロンスキーとの愛に身を投じるが、それは同時に破滅へと向かうことになっていく……。

「アンナ・カレーニナ」はロシアの文豪トルストイの名作(私は未読ですが)で過去にも映画化されている作品、しかし、私はその数度の映画化された時は観ていないので、今回初めて観た。
アンナは18歳で将来有望な政府高官である夫と結婚したものの、その美貌で社交界から注目を浴びていたものの、やはり18歳で愛情の無い(薄い?)結婚は悩みの種だったとみえて、若くて美男子のヴロンスキーとの出会いが彼女の人生を変えてしまったというお話。夫カレーニン(カレーニンの妻だから「カレーニナ」)との間に生まれた一粒種をヴロンスキーとの交際で失いかねない苦悩を抱えながらも、ヴロンスキーとの交際を続けるが、若いヴロンスキーとの交際は彼を目当てに寄って来る他の女性のアタックにも悩まされ始める。結局、最後は列車への投身自殺という悲劇で終わる。
アンナを演じたキーラ・ナイトレイの美貌、ヴロンスキーを演じたアーロン・テイラー=ジョンソンの美貌、この二人の美しい姿は必見だがキーラ・ナイトレイには演技力も備わっているのと彼女が身に纏っていた美しい衣装もこの映画の見どころ。アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したのも納得だが、受賞を争った故石岡瑛子氏が2度目の受賞を逃したのは残念だった。
監督のジョー・ライトは、映画ながら個々のシーンを舞台で観ているようなスタイルで繋いで行く形を採るユニークな演出で作品として見事に纏め上げたその編集力は見事だった。


映画『愛、アムール』を観て~アカデミー賞受賞作品

2013-03-19 10:20:42 | ヨーロッパ映画

13-26.愛、アムール
■原題:Amour
■製作年、国:2012年、フランス・ドイツ・オーストリア
■上映時間:127分
■観賞日:3月16日、吉祥寺バウスシアター(吉祥寺)
■料金:1,800円



□監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
◆ジャン=ルイ・トランティニャン(ジョルジュ)
◆エマニュエル・リヴァ(アンヌ)
◆イザベル・ユベール(エヴァ)
◆アレクサンドル・タロー(アレクサンドル)
◆ウィリアム・シメル(ジョフ)
【この映画について】
第65回カンヌ国際映画祭で、最高賞にあたるパルムドールに輝いたヒューマン・ドラマ。長年にわたって連れ添ってきた老夫婦が、妻の病を発端に次々と押し寄せる試練に向き合い、その果てにある決断をする姿を映し出す。
『ファニーゲーム』『白いリボン』の鬼才ミヒャエル・ハネケが、沈痛かつ重厚なタッチで追い詰められた老夫婦が見いだす究極の愛を浮き上がらせていく。『Z』『消される男』のジャン=ルイ・トランティニャン、『トリコロール/青の愛』のエマニュエル・リヴァと、フランスが誇るベテラン俳優が老夫婦を演じているのにも注目。(この項、シネマトゥデイより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
パリ都心部の風格あるアパルトマンに暮らすジョルジュとアンヌは、ともに音楽家の老夫婦。その日、ふたりはアンヌの愛弟子のピアニスト、アレクサンドルの演奏会へ赴き、満ちたりた一夜を過ごす。
翌日、いつものように朝食を摂っている最中、アンヌに小さな異変が起こる。突然、人形のように動きを止めた彼女の症状は、病による発作であることが判明、手術も失敗に終わり、アンヌは不自由な暮らしを余儀なくされる。医者嫌いの彼女の切なる願いを聞き入れ、ジョルジュは車椅子生活となった妻とともに暮らすことを決意。穏やかな時間が過ぎる中、誇りを失わず、アンヌはこれまで通りの暮らし方を毅然と貫き、ジョルジュもそれを支えていく。離れて暮らす一人娘のエヴァも、階下に住む管理人夫妻もそんな彼らの在り方を尊重し、敬意をもって見守っていた。

だが思い通りにならない体に苦悩し、ときに「もう終わりにしたい」と漏らすアンヌ。そんなある日、ジョルジュにアルバムを持ってこさせたアンヌは、過ぎた日々を愛おしむようにページをめくり、一葉一葉の写真に見入るのだった。
アンヌの病状は確実に悪化し、心身は徐々に常の状態から遠ざかっていく。母の変化に動揺を深めるエヴァであったが、ジョルジュは献身的に世話を続ける。しかし、看護師に加えて雇ったヘルパーに心ない仕打ちを受けた二人は、次第に家族からも世の中からも孤立していき、やがてジョルジュとアンヌは二人きりになってしまう。
終末の翳りが忍び寄る部屋で、ジョルジュはうつろな意識のアンヌに向かって、懐かしい日々の思い出を語り出すのだった……。

この作品はアカデミー賞外国語映画賞を受賞したハネケ作品。ハネケ作品は「白いリボン」のように難解というか一筋縄ではいかない作品とのイメージがあるのだが、本作はシンプルなタイトル通りの作品だった。
高齢化の進む先進国では日本のように高齢者率の高い国だけの問題では無く、老老介護は切実な悩みとして存在する。舞台はパリのアパルトマンで、音楽家の夫婦、妻の愛弟子と夫妻の一人娘が主な登場人物。
ここで描かれている現実はジョルジュとアンヌを演じている二人共に80歳代であるという点でも説得力があるし、この二人の演技力無くしてこの映画はハネケ作品であっても成立しなかったと思わせる「静の凄さ」みたいなものを感じた。娘が所々シーンに登場するのだが、この娘ははっきり言って何の役にも立っていない。妻を夫が一人で介護(ヘルパーとは上手く行かずに解雇してしまった)する覚悟を決めて、娘もそれなりに意見するのだがジョルジュの一人で介護する決意は変らず、娘としては不安と不満を抱えながらも従うしかなかった。

全編を通して描かれている老夫婦愛、この二人がここまで紡いできた夫婦生活、最後まで愛情を貫こうとしたジョルジュ。終りは突如訪れる形になったが、それもジョルジュの衝動的な行為とは解釈出来ないだろう、愛の深さ故のラストだった。
ハネケ監督は果たして我々に何を投げ掛けたかったのか?何時もの難解さは薄いが、夫婦として何が出来るか?子として何が出来るか?また何が一番適切なのか?やはり、奥が深いテーマだった。


映画『アルバート氏の人生』を観て

2013-02-13 18:51:31 | ヨーロッパ映画

13-14.アルバート氏の人生
■原題:Albert Nobbs
■製作年、国:2011年、アイルランド
■上映時間:113分
■観賞日:2月11日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)
■料金:1,800円

 

□監督:ロドリゴ・ガルシア
◆グレン・クローズ(アルバート・ノッブス)
◆ジャネット・マクティア(ヒューバート・ペイジ)
◆ミア・ワシコウスカ(ヘレン・ドウズ)
◆アーロン・ジョンソン(ジョー・マキンス)
◆ブレンダン・グリーソン(ホロラン医師)
◆ジョナサン・リス・マイヤーズ(ヤレル子爵)
◆ポーリーン・コリンズ(ベイカー夫人)
◆ブロナー・ギャラガー(キャスリーン)
◆ブレンダ・フリッカー(ポーリー)
【この映画について】
名女優グレン・クローズが主演に加え、プロデューサー、共同脚本を務め、19世紀のアイルランドで性別を偽って生きる女性の姿を描いた人間ドラマ。男として、ホテルでウェイターをするヒロイン、アルバートが、彼女の人生を変える男性と出会い、本当の自分に目覚めていく。2011年の東京国際映画祭で上映され、主演女優賞を受賞。(この項、Movie Walkerより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
19世紀のアイルランド。上流階級の人々に人気のモリソンズホテルでウェイターとして働くアルバートは、人付き合いを避けてひっそりと暮らしていた。「彼」は長年、誰にも言えない秘密を隠していた。それは、貧しく孤独な生活から逃れるために、女性でありながら男性として生きてきたということだった。結婚せずに女性が自立するには、そうするしかなかったのだ。

ある日、モリソンズホテルにハンサムなペンキ屋のヒューバートがやってくる。「彼」と相部屋になったことで素性を知られてしまうものの、自分らしく生きる彼の姿に影響を受けたアルバートは、自ら築き上げてきた偽りの人生を捨て、本当の自分らしさを取り戻してゆく。
その一方、若いメイドのヘレンに対しては、自分の素性を隠しながらも好意を抱いてゆく。密かにヘレンと愛し合うようになっていたボイラー職人のジョーは、その事に気づき、ヘレンを通じてアルバートを利用しようとする。働く女性にとって不自由な時代、男性として孤独に生き、女性としてのアイデンティティを見失っていたアルバートは、様々な人たちに囲まれながら、自分らしく生きる希望の扉を開き始めるが……。

この作品、主演「女優」のグレン・クローズが脚本とプロデューサーとしても肩入れして出来あがった作品だけあって、最初から最後までストーリー的にも一本筋が通っている素晴らしい作品だった。
私生児として生まれ少女時代にレイプされたことがきっかけで「男」として生きる人生を選択し、ホテルのウェイターとして黙々と働き、ホテル内の一室でひっそりと暮らし、コツコツと貯めたお金で自分の店を持つのが夢だったアルバート。顧客からの信頼も厚く、ホテルの女主人ベイカー夫人からも信頼されている。そんな平穏な日々が続く中で、ペンキ屋としてヒューバートと知り合うが、今まで「男」として生きてきたアルバートと同室になったことで「女」であることがバレるが、実はヒューバートもアルバートと同じ身だったという設定には驚かされた。

ヒューバートには何故か妻がいて、そんな「彼」の生き方に衝撃を受けたアルバートは、同じホテルで働く若いヘレンに夢中になるが、彼女には米国行きを強く望むジョーと言う交際相手がいた。ジョーはアルバートがヘレンに夢中になっていることを知り、彼女を通してアルバートからおねだりを繰り返すよう強要する。このジョーがヘレンに子供を産ませた挙句に単身で米国移住を決めてしまい、残されたヘレンとその子供は当時のアイルランドの法で施設へ預ける羽目にこのままではなってしまう。
ところが運が悪いことにアルバートはけんかの仲裁に入った時に相手に突き飛ばされ脳に怪我をしたことが原因で亡くなってしまう。そこで、妻を亡くしていたヒューバートがヘレンとその子を守るために自分が面倒を見ることに...。

当時のアイルランドがイギリスの統治下に置かれていて、ジャガイモ飢饉をきっかけに北米大陸への移住を決める国民が多く、更に、女性の地位も低く女性が自立して生活出来る環境では無かったそうだが、そうした社会状況も上手く反映されていた。
グレン・クローズとジャネット・マクティアの二人の女優が「男」を演じていたのだが、観ていて違和感を感じさせない演技力とメイクや二人の体型が相まって見事だった。ミア・ワシコウスカとアーロン・ジョンソンの若手注目俳優も良かった。アルバートの最期は気の毒だったが、その彼を利用していたベイカー夫人のしたたかさも光っていた。


映画『マリー・アントワネットに別れを告げて』を観て

2012-12-30 18:02:24 | ヨーロッパ映画

12-106.マリー・アントワネットに別れを告げて
■原題:Les Adieux  A La Reine(英題:Farewell My Queen)
■製作年、国:2012年、フランス・スペイン
■上映時間:100分
■観賞日:12月30日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)
■料金:0円(1カ月フリーパス)

 

□監督・脚本:ブノワ・ジャコー
□脚本:ジル・トーラン
◆レア・セドゥ(シドニー・ラボルド)
◆ダイアン・クルーガー(マリー・アントワネット)
◆ヴィルジニー・ルドワイヤン(ガブリエル・ド・ポリニャック)
◆グザヴィエ・ボーボワ(ルイ16世)
◆ノエミ・ルヴォフスキー(カンパン夫人)
◆ミシェル・ロバン(ジャコブ・ニコラ・モロー)
【この映画について】
フランス革命が勃発し、揺れるベルサイユ宮殿内で、身代わりでギロチン刑を受けるように命ぜられた、宮廷朗読係の少女の運命を描く、衝撃の物語。原作はフランスで最も権威あるフェミナ賞に輝いた、シャンタル・トマのベストセラー小説。マリー・アントワネットを演じるのは『イングロリアス・バスターズ』のダイアン・クルーガー。(この項、Movie Walkerより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
1789年7月14日。バスティーユが陥落し、フランス革命が勃発したその日、ヴェルサイユの人々はまだ何も知らず、いつもと変わらぬ華やかな一日を送っていた。王妃マリー・アントワネットだけは、予知したかのように悪夢に目覚め、早朝からお気に入りの朗読係、シドニー・ラボルドを呼び出す。

自分に心酔するシドニーと話すうちに落ち着きを取り戻す王妃。7月15日。バスティーユ陥落の報と286人の処刑リストが出回り、騒然となるヴェルサイユ。
筆頭は王妃、3番目は王妃に最も愛され、有り余る富と特権を享受しているポリニャック夫人だった。深夜。王妃からポリニャックへの情熱的な恋心を打ち明けられたシドニーは、王妃のために、呼び出しに応じないポリニャックを説得して連れてくると申し出る。しかし、自宅で睡眠薬を飲んで熟睡するポリニャックの寝姿を、嫉妬と羨望の眼差しで眺め、諦めて引き返す。

取り乱しながら逃亡の準備をする王妃だったが、その姿を見て涙ぐむシドニーに“あなたを見捨てないわ”と告げる。7月16日。ヴェルサイユは激しく混乱していたが、王は逃亡せずに留まることを決定。王家の運命は新政府に委ねられた。絶望のあまり立ちすくむ王妃に歩み寄ったのは、光り輝く緑のドレスを纏ったポリニャックだった。しっかりと肩を抱き合って部屋へ向かう2人の背中に、シドニーは燃えるような視線を投げかける。
ところが、王妃が逃亡を勧めると、ポリニャックは素直に応じてしまう。その一部始終を見守るシドニー。自殺者まで出し、更なる混乱の一夜が明けた翌朝、シドニーは王妃に改めて忠誠を誓うが、王妃からは、召使いに変装してスイスに逃げるポリニャックの身代わりとして彼女に同行するよう言い渡される。王妃の残酷な命令と冷たい視線。引き裂かれた思い、死の恐怖。シドニーに待ち受ける運命は……?

マリー・アントワネットに関する映画は多いし、最近でもキルステン・ダンストが演じていたが、今回は「朗読係」の女性にスポットを当てているのがミソ。その朗読係シドニーを演じているのがレア・セドゥはタランティーノ作品の「イングロリアス・バスターズ」に出演していた女優。一方でマリー・アントワネット役はドイツ出身のダイアン・クルーガーで、実際のアントワネットはオーストリア出身なので配役的に違和感は無い。
気品高く「ツンッ」とした表情など成りきっていた。
ストーリー展開としては既に歴史的事実として多くの人が知っているので、目新しさや意外性は無く、「朗読係」の視点で語られている点だけが敢えて言えば目新しさだろう。その「朗読係」は王妃に気にいられていたが、最後は、王妃のお気に入りだったポリニャック夫人の身代わりとしてスイスまで同行するように命じられ、途中で検問に引っかかるが何とか無事だったというのがオチだった。
となるとこの映画の最大のウリは、やはりヴェルサイユ宮殿を実際に使用したロケ映像に尽きるだろう。通常だと外観だけ撮って、室内とか重要な部分は他の宮殿やセットでの撮影だろうが、有名な「鏡の間」や王妃の部屋、中庭、プチ・トリアノン離宮の入り口などはそのまま撮影されたそうだ。自分は2度行ったが、やはりこの本物のヴェルサイユ宮殿を映画で観れたのは得した気分だ。


映画『砂漠でサーモン・フィッシング』を観て

2012-12-24 23:16:03 | ヨーロッパ映画

12-104.砂漠でサーモン・フィッシング
■原題:Salmon Fishing In The Yemen
■製作年、国:2011年、イギリス
■上映時間:108分
■観賞日:12月23日、ヒューマントラストシネマ渋谷(渋谷)



□監督:ラッセ・ハルストレム
◆ユワン・マグレガー(アルフレッド・ジョーンズ博士)
◆エミリー・ブラント(ハリエット・チェトウッド=タルボット)
◆クリステン・スコット・トーマス(パトリシア・マクスウェル)
◆アマール・ワケド(シャイフ・ムハンマド)
◆トム・マイソン(ロバート・マイヤーズ)
◆コンリース・ヒル(バーナード・サグデン)
◆レイチェル・スターリング(メアリー・ジョーンズ)
【この映画について】
英国でベストセラーとなったポール・トーディの小説を『親愛なるきみへ』のラッセ・ハルストレム監督が映画化したヒューマンドラマ。砂漠の国で鮭釣りがしたいと英国の水産学者へ依頼された大富豪の願いが、やがて、彼に取り入って中東との緊張緩和をしようとする首相を巻き込んでの国家プロジェクトへと発展していく様が描かれる。(この項、MovieWalkerより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
砂漠の国イエメンに、鮭を泳がせて釣りをするというプロジェクトの顧問を頼まれ、水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士は呆れていた。依頼人は、イエメンの大富豪シャイフ。
英国外務省の支持も得ているが、荒唐無稽であることに違いはない。だが実は、中東情勢が悪化し、首相広報担当官のマクスウェルが、英国への批判をかわすための話題作りに“イエメンでの鮭釣り”を選んだのだ。しかも、雨季の水を蓄えた地層を見つけたシャイフは、人々の生活のために砂漠に水を引く長期計画を実行、既にイエメンにはダムが完成していた。

プロジェクトに専念しないとクビだと迫られたジョーンズは、科学者としてのプライドと家のローンとの間で揺れるが、給料が倍になると聞いて承諾。北海で鮭を1万匹捕まえ、世界最大の輸送機で生きたまま運ぶ。費用は5000万ポンド……どうせ実現不可能だからと、思いつきのホラ計画をペラペラと話すジョーンズだったが、窓口であるフィッツハリス&プライス投資コンサルタントのハリエット・チェトウォド=タルボットは「さっそく取りかかりましょう」と微笑む。
だが新チームを組むことになったこの二人には、私生活に心配事があった。ジョーンズの妻は以前から仕事にしか関心がなく、夫婦は機械的な結婚生活を送っていた。一方、ハリエットは、つき合い始めてまだ数週間の軍人のロバートが中東に派兵。それぞれの悩みを胸に秘め、シャイフと面会するためにスコットランドの城へ二人は向かう。

金で買えないものはないと考える不遜な男と思いきや、シャイフは大富豪である前に人間味に溢れた一人の釣り人だった。竿を手に共に川へ入り、率直に語り合ううちにジョーンズは彼に共感と敬意を抱くようになる。だがそんな時、ロバートが戦闘中に行方不明になったという報せが届く。会社を休み、家に閉じこもり、ただひたすら安否の情報を待つハリエット。何度も電話して出社を求めるジョーンズのメッセージにハリエットは傷つきイラ立ち、突然、訪ねてきたジョーンズに怒りをぶつける。
ところがジョーンズは心配して手作りのサンドイッチとワインを持ってきただけであった。ジョーンズの冷たく聞こえる言葉の陰に隠れた不器用な真心に気付くハリエット。そしてジョーンズは、彼女へのビジネスパートナー以上の想いに気付き始めていた……。

元々は政治的な思惑でスタートした「イェメンで鮭釣り」のアイデア。乗り気でなかったジョーンズ博士と推進するハリエットとの関係に、資金提供する側のイェメン人富豪シャイフが絡み合うストーリー。
既婚者のジョーンズは海外出張が多い妻との関係は微妙、ハリエットはアフガンに赴任中の恋人の安否が気になる。一方で言い出しっぺの富豪は豊富な資金を背景に自らの夢でもある一大プロジェクトをドンドン勧めるが、宗教的な思惑も絡んで反対勢力の存在も気になる。
こう言った背景を巧に織り込み、一度は成功したかと思われたプロジェクトは土壇場でテロリストの攻撃にあり頓挫してしまう。

これで終わりとなったら暗い気分になるが、その土壇場の現場で再会していたハリエットと恋人の軍人の劇的な帰還が果たされていたが、プロジェクトを通じてお互いの絆が強固になっていたハリエットとジョーンズ博士は、僅かに残った鮭を希望の灯として二人でこのプロジェクトの続きを担う決心をしたのだった。
ジョーンズ博士とハリエットが新たなパートナーを得て再出発をすることで、ハッピーエンドへと導かれた展開は見事だった。


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